「先生、吉田君が風船です」椅子の背中にむすばれている 我妻俊樹
連作「水の泡たち」より。元は2004年にニューウェーブ短歌コミュニケーションというイベントで、前年度の歌葉新人賞候補者による公開歌会という出し物がありまして、その歌会に出詠した歌。やはりこのとき出詠してのちに「水の泡たち」に入れた歌がもうひとつあります。
さようならノートの白い部分きみが覗き込むときあおく翳った
なぜそうなったかは全然憶えてませんが、どちらも学校を思わせる風景の歌ですね。二首とも当時かなり自分で気に入ってる歌だった記憶はある。学校が舞台、ということ以外は何もかも対照的な歌だと思い込んでたけど、今あらためて読み返すと「吉田君」と「きみ」の存在のしかたというか、不在のしかたというか、そこが何となく似ているかなという気がする。ノートのページを翳らせる青さとしての「きみ」と、椅子にむすばれた風船としての「吉田君」。影と身代わり。変化と変身。