体育館よりも小さな月をもつ惑星がこの町を通過する 我妻俊樹
連作「実録・校内滝めぐり」より。
これは学校を舞台にした連作中の一首で、「体育館よりも小さな月をもつ惑星」という把握で体育館という言葉を題詠的にすべりこませているのですね。
だから体育館というのは比喩なんだけど、比喩によってイメージの飛躍を歌に持ち込むんじゃなく、逆に、非日常的な光景を日常的なアイテム(体育館)に喩えることで日常性のほうへつなぎとめようとしている。そういう比喩の使い方だと思います。私は比喩によって気軽に付け足される非日常性、というのがものすごく嫌いなので、そこで日常と非日常の位置を転倒させてしまいたい、非日常は一瞬の味付けじゃなくどーんと現れるべきだ、という気分がここには出ているのかもしれない。
その転倒がこの歌の、わかりやすいようなわかりにくいような微妙な複雑さ、に貢献していたらいいなあと思います。