怪道をゆく | 喜劇 眼の前旅館

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短歌のブログ

向井豊昭『怪道をゆく』。読みながら連想したのは藤枝静男。藤枝静男の小説を一度マンガ化してからもう一回ノベライズし直したような小説、といえばいいだろうか。マンガ化のところを蛭子能収の絵で想像したのは、この作者の最初の単行本(『BARABARA』1999年)の表紙(蛭子のイラスト)に引きずられているかもしれない。藤枝にも多少あるような文体の文学臭がまったくなく、ひどく簡潔で平熱の文章(意識して狙った無骨さというのでさえない)。執拗な描写も詩的なテンションの高さもないのに、語られるのは非現実的な光景で、それをあっさり受け入れてしまえるのは文体の地声とのぶれのなさのせいか。個人的に今もっとも信頼できる、拠り所になる文章がここにあると感じた。小説の内容について語るのは苦手なので触れないが、表題作では短歌が重要なモチーフになっていることだけ書いておく。作者は1933年生まれで昨年死去。この本は昨年出版された。