「助からなくちゃ」 我妻俊樹
住む町は時計の広さがあればいいそれくらい痩せた魂になる
傘立てに花束たてて雨宿りしてるあなたも見ている林
天井がみるみる低くなる意味を不思議な罰として見上げつつ
明け方にかみなり雲の運ぶ雨 どうしてここにいたと分かるの
ペダルから浮かせた足で草を蹴る ヒントの多いクイズがすべて
どの野にも飼い主の声するゆえに親猫くるったように遊ぶ
百年で変わる言葉で書くゆえに葉書は届く盗まれもせず
じゃあまたねとは云うけれどまたはない友だちをやめる途中だから
目の赤い酔っ払いたちいいことを口々にいう花粉のように
坂が坂をよこぎっていき戦場の西のはずれにすべてつながる
たっぷり二人分はあるスーツに身を隠す 私は自転車乗りだから
こんな十年見たことないし変わり果てた君に会うのもはじめてだった
蝶が口から出てこない今何時何分、国道何号線かも訊けない
引越しは徒歩でするので長くなるその行列を分かつ朝霧
アパートの番地はさっき聞いたけどメモしたシャツをあげてしまった
手帳からちぎった紙にあて先と切手 ぼくらのしてきたすべて
今日からは意志のひかりの消えた目で見つめる 浴びたように着飾る
バス停の先の日なたに置いてきたワゴンがとりあえずの目的地
帰るだけなのに浮かれておしゃべりが過ぎたと思うけど黙れない
腋の下に挿んだままで玄関を見てきたらただの風 七度二分