「森有礼暗殺事件とその後」を最初から読む

  1889.2.17 西野文太郎の講談

森有礼暗殺事件の概要については前記事で確認したので、その後を追ってみましょう。少しずつ、類似の要素が出てきます。


また、ここからは朝日新聞を読みつつ進めましょう。
なぜ朝日を選んだかというと、データベース『朝日クロスサーチ』が使いやすかったから。それだけです。


記事の中身に入りましょう。

2月17日の記事です。


松林右円という「際物(きわもの)講談師」が浅草の寄席で、犯人西野の経歴を題材とした講談を始め、それが大入り満員だった、という記事です。


講談というのは、講談師1人が壇上で机の前に座って、扇をパンパン叩きながら抑揚つけて物語を語る、アレです。


上演開始日がいつなのか不明ですが、仮に記事の前日、16日に開始したとしても、事件から5日しか経っていないわけですので、驚愕の早さです。
記事も「早いかな、素早いかな」と結んでいます。

ちなみに右円の師匠「松林伯円」は、正確には二代目伯円です。
彼もまさに佐賀の乱、西南戦争、神風連の乱、壬午事変など様々な事件を題材に講談をつくって「新聞伯円」と人気だった人です。右円はその弟子ですから時事ネタは得意ということです。
のちに右円は、師匠の名跡を継いで三代目伯円を名乗りました。

この講談が凶行を称賛したかは不明ですが、少なくとも皆、犯人西野に興味津々だったことが窺えます。当時、新聞や雑誌はいくつか存在していましたが、テレビもネットもない時代。みな情報に飢えていたのでしょう。

話は逸れますが、改めて明治時代の新聞記事を見ると面白いです。
ほぼすべての漢字にルビが振ってあります。
(他の新聞は未確認。朝日の特徴でしょうか??)
ですが、ルビも含めてカナが一部くずし字です。
また、ルビがこんなに丁寧に振ってあるのに句読点は1個もない(笑)
ルビを減らしてもいいから、句読点が欲しかった。
ということで、やや読みにくい。

そして、記事中の「きわもの講談師」。グッときます。
クセが強そうです。
神田伯山みたいな人をイメージすればいいのでしょうか。
ま、神田伯山しか知りませんが。

安倍晋三殺害事件においては、山上容疑者を題材にした映画『REVOLUTION+1』が9月28日の国葬の前後に公開されました。
事件から3か月弱たってますね。
業態の違いもありますが、明治の際物講談師の素早さが本当に際立ちます。

しかし、放映した映画館ではどこも満席だったという事実も逆にすごい。
なぜなら、さんざんテレビなどで山上容疑者の経歴などは承知のはずなのに、それでも映画を見に行く人がたくさんいたというのは、明治人もビックリだと思います。ただし、国葬に合わせて公開されたものは試作のようなもので、完成版は年末に公開されるらしいです。
はてさて、本公開の動員人数はどのくらいになるんでしょうか。

つまり、今も昔も人はみな、世を席巻している話題、とりわけショッキングな事件については興味津々だということです。それが直ちに称賛につながるとは決して言えませんが、同様の事件を誘発するリスクは微増するのではないかと推測します。
 

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