朝月夜の島渡り 1 | 光と風の中の防波堤で …

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 
 
 
 


~ prologue ~
 





 

朝靄はさらさらとして甘く香り
瀬戸内の多島美を抱きしめている


夜明け前のうすら青さは世界を包み


潮流にさざめく茫洋たる潮の海も
その色でまばゆく染めていた



島々を行き交ういと小さき玩具の船たちは
夢のように煌めく航跡を幾筋もたなびかせ


雅やかな瀬戸内絵巻に彩りをそえて …




千光寺で有名な尾道市から
四国は愛媛県今治市まで


瀬戸内の6つの島々を
10本の橋で繋ぐ
西瀬戸自動車道 …
 

通称 “ しまなみ海道 ”



其はまるで島渡る巨大な龍の背の如く


その白き龍の背を僕はいま


Café Au Lait色のオートバイに跨り
目指す島で友人と落ち合うべく駈けていた




今日はどんな一日になるだろう  …



瀬戸内絵巻の海面( うなも )のはるか上空


視界を遮るものなど何もない
黒寅の背なの上でそんなことを思い


左手眼下に広がる青き多島美を
僕はうっとりしながら魅ていたんだ




島々を吹き渡る水色の潮風は
疾走するオートバイ乗りの身体を
やさしくすり抜けてゆく



胸いっぱいに吸いこんだ島の風は
みずみずしくてとても心地よく …


その風を纏い … 剥がし …千切り …
 

僕らは駆け抜けてゆく


猛り駈ける黒寅の鋼鉄の嘶きは
島渡る碧い風に共鳴しbackbeatを奏でる



その音色は僕の心を熱く滾( たぎ )らせ
オートバイ乗りの魂を貫き震わせる


目的の島への到着が
もう間もなくであることを受け
僕の心臓がにわかに鼓動を早める




今日はどんな素敵な日になるだろう …



視界を遮るものなど何もない
黒寅の背なの上でうっとりしながら



僕はそんなことに思いを馳せていたんだ









『 朝月夜の島渡り 1 』


~ 彼女は南ではなく北で僕を待っていた ~





先ほどまで世界を統べていた青さは
いまはもうその権力を朝の白さに奪われ
取って代わって朝焼けの光が張りついていた


島へとおりるインター出口に向け
僕は黒寅に指示しなめらかに進入する


料金所へと続くらせんのスロープを下り
ゲートを越えたすぐの信号は赤であった


右折の指示をだしギアをニュートラルに入れ停車


クラッチレバーから手を放し
久しぶりに両手を組んで伸びをする


と …


僕の前の道路の向こう側奥を
身体にピッチリとウェアを張りつかせた
ロードバイクが数台疾走りぬけていった


次いでカジュアルな普段着の
観光客と思しきサイクリング親子がゆく


信号が変わるまでのストレッチの間
本当に多くの自転車乗りたちが通りすぎていった


そう


この島はサイクリストの島であり
島の魅力の多くは二輪車で巡ることによって
より味わい深くかつ思い出深くなるんだ


やがて信号が青へと変わり
アイドル発進した黒寅の鋼の鉄槌が轟き


静かなmelodyを奏でていた島のオルゴールに
予定調和のBritish Beat が鳴り響いた


島の風にのってほのかな柑橘の香りが
海岸線をゆったりと疾走る僕の鼻をくすぐる


ヘルメットのシールド越しに
やや霞んでいた白けた靄( もや )は
ぬくもりを持ちはじめた太陽に溶かされ


陽光は空を透きとおる青さに昇華し
海はシャンパン色の星の欠片をまき散らしたように瞬く


あたたかくはあるけれどぬるさの無い
凛として美しい冬の一日のはじまりだ



路肩の砂利のないスペースに

Café Au Lait色のオートバイを停め
両の足で
島の上に立った僕は少しふらついて …



さてと


待ち合わせ場所で友人を迎写すべく
僕はcameraバッグから75mm( 換算150mm )を取り出し


向こうからやってくるであろう友人を狙う
ベストポジションにてcameraの仕様を変更する


おあつらえ向きに練習台のオートバイが
向こうから猥褻なspeedで疾走ってきた


ファインダーの中の名も無きオートバイ乗りを
僕の一刺し指が刹那に次々と切り撮ってゆく


動体を狙うにはいささか心もとない
僕のcameraではあるけれど …


僕は切り撮られた写真をもとに
仕様を細かく調整し本番に備える



もうすぐ … かな …



路肩にしゃがんで片ひざをついた僕は
cameraを持った左手首を返し時計を見る



もうくる … かな …



ニットの手袋にくるんだ両手と
ぽかぽか陽気に抱きしめられた身体が
じんわりとしてとても気持ちいい



僕はついcameraのことを忘れて
栄養たっぷりな降りそそぐ陽光を見あげ
目を閉じた瞼の裏側で空を見ていた


少し伸びた僕の髪の毛を
島のやさしい風がめずらしそうに梳いてゆき


僕の唇からもれた吐息とからみ合って
島のどこかへ還っていった



そっとこころを澄ませ
久しぶりに味わう島唄 …


それは日々の忙しさにかまけ


惰性で時を過ごすあまり忘れかけていた
時の葉の色褪せはかくも美しく
たおやかに過ぎ逝くものなのだという理を


そっと思い出させてくれたようだ


ゆるり散り逝く桜花のごとく
時の凪がれに我が身を踊らせていたい …


どこか遠くへ彷徨いだした意識を呼び戻し
僕はcameraをもう一度チェックし
鈍く光る左手首のLONGINESを見る


そのとき僕の耳が遠くから聴こえる
motorcycleの鼓動を捉えた


そっと覗いたファインダーの向こう側 …


そこには帰りそびれた月がぼんやりと
透きとおる陰を抱いて空に浮かんでいた


空の蒼さに消え入りそうな朝月夜のしたで
僕は近づいてくる鋼鉄の鼓動を見つめる


シャッターボタンに触れた一刺し指は
僕のこころが動く瞬間を待っている



不意に



何とはなしに唐突に僕はふり向いて …




僕から少し離れて待つ黒寅が
島にそよぐほんのり甘い檸檬の風と
楽しそうに戯れているのを


視界の片隅で見つめ …



刹那



僕の一刺し指は白き世界の随( まにま )に




すべてを切り撮っていった







 












To Be Continued ♪ →