僕と焚き火と星めぐりの夜に 1 | 光と風の中の防波堤で …

 

 

 

 


 

 

 

 

 


 
 
 
 
 


 

 





 
夏色の風が山あいを吹きわたる
7月 … 日曜午後の昼下がり

 
その場所は一面みどりの絨毯におおわれ
背の高い木陰樹たちが風に吹かれていた

 
 
僕はその中でもひときわ枝を大きく広げた
やさしい顔をした木陰樹の下
あお向けに寝転がって微睡んでいた


梢から零るる光と影の魔法は
みどりの絨毯に美しいこもれびを浮かべ


僕はうすく閉じたまぶたの裏側で
風にゆれる光と影の舞を見ていた


はだけたシャツの下の腰もとや
むき出しになっているうなじは


ひんやりとしてやわらかな緑の接吻に
あまく震わされ泣いている


夏の陽ざしは地上のあらゆるものを
情熱的な抱擁で慈しんでおり
身体もしっとり汗ばんでいたけれど …


僕らが一夜を過ごすその場所では
サイダーを飲みほしたあとのような
爽やかな夏色の風が踊ってたから


汗ばんだ僕らの肌もすぐ
風の子どもたちに運ばれていったんだ


汗のひく心地よさにうっとりとなりながら
こずえで瞬く光の煌めきを見つめていると …


周囲の音が僕から遠ざかっていく気がした


音は大きな砂時計の流砂にも似て
さらさらと吸い込まれ消えて逝く


時の流れさえ此処では止まっているようだ



街中での生活では鈍ってしまう五感の感度も
ここでは驚くほど冴えわたる


それらすべてを解放し浸っていると


山あいのこの美しい陽だまりの地が
人々の慎み深さと畏敬の念によって
大切に守られてきたことがはっきり感じられ


僕は自然とやさしい気持ちになってゆく


そよぐ風も … 流るる水も … 香る草木も
住まう人も … いと小さき虫たちさえも


この地に内在する事象はすべからく
土地に祝福されているのだと知る



ふたたび周囲の音に …



むせかえる地球の鼓動に心を澄ませる






 

 

 








どのくらいそうしてただろう


そらの真上で誇らしげだった夏の太陽も
その情熱が失われてしまったように
陽ざしもずいぶんとやわらかい …


夏色の風とたわむれる気持ちよさは
僕の心のネジをゆるゆると弛め
ほろ酔いの気だるさと相まっていい気分


さてと


僕はおもむろに上半身を起こし
胡坐をかいたその場で
手にした缶ビールの残りを … ゴクッ


昼間っからほろ酔いになれるなんて
お祭りとキャンプの醍醐味だね



 
 




 

 




 

 

 


 

夜には螢が飛び交う小さな流れの岸辺で


僕はこの後の夜宴にならぶそれらを見つめる


 
ひとまたぎ出来そうな小さな源流から
森の栄養をたっぷり含んで流れてきた水は
光を浴び綺羅綺羅してとても美味しそうだ


その水で冷やされた食べ物ならきっと …


僕は大切なBlueのサンダルのまま
思いきって流れの中に足をすすめる


突然の侵入者に驚いた水たちが
Blueのサンダルを奪うよう僕の足にぶつかり
次つぎとぶつかっては冷たい飛沫をたてる


川底のさらさらとした砂利や小石は
Blueのサンダルと足裏の間から入って
足指の隙間でもぞもぞとくすぐったい


久しく味わってなかったその感覚は
水辺を友としていつも遊んでいた
幼いころの自分を思い出し懐かしい


そう言えば3回溺れたっけ …


流れを横切るよう
膝の上あたりまで進んだところに
ちょうど腰かけられそうな岩があり座ってみる


そして僕はまた


その岩の上で心のおもむくまま
流れが生みだす光のささやきを味わい
川面をさやかにわたる風のにおいを聴き


おもむろに両の手で水をすくっては
美味しい水をごくごくと飲んで過ごした


ときおり少し離れた岩の上に
メタリックブルーの羽衣が美しいカワセミが
物珍しそうに僕を見にやってきた


僕は手元に銀色のカメラがないことを悔やみ
陽光を浴びてMAZIORAのように艶めく
美しい瑠璃色の小鳥の仕草を …


このときの幸せな気持ちと一緒に
心で切り撮り大切に仕舞っていったんだ











 









さて 火を熾しますか








 









炎を魅つめ … 友人と語り … 大いに笑い …
ときに打ち明け話にうなずいたり …


旨し飯と美味し酒を喰らい … また笑い …
ときに炎を魅つめ言葉少なに黙ったり …


焚き火の夜はそれだけでいい


焚き火の夜はそれだけがいい


よけいなものなんてなくっていい


僕の考えてる大抵のことなんて
実はきっと大したことないんだって …


揺らめきうねりのたうつ炎の様相が
教えてくれてる気がした


パチパチと小さく爆ぜる音が夜闇に溶け
そして焚き火の夜は静かに更けてゆく



幽かなせせらぎの調べだけを伝える
姿なき水の流れではいま …


川面を被う樹木が黒いシルエットを浮かべ


それは夜風になぶられざわざわと蠢いている



あっ! ホタル!♪



友人の指さす水辺のシルエットには今
金色の光をたなびかせた螢たち


きっと彼らも森の木陰で夜宴だね



僕は銀色のカメラに手を伸ばし …


しかしその手をすぐに引っ込め
金色に光っている妖精の舞を


ただ黙って魅つめていた


そばで燃え盛る炎の爆ぜる乾いた音が


夜の中に大きく響いた









 









To Be Continued … →