ですから今夜だって、
みんなが町の広場にあつまっ て、
一緒に星めぐりの歌をうたったり、
川へ青い烏瓜のあかしを流したりする、
たのしいケンタウル祭の晩なのに、
ジョバンニはぼろぼろのふだん着のままで、
病気のおっかさんの牛乳の配られて来ないのをとりに、
下の町はづれまで行くのでした。
(中略)
子どもらは、みんな新らしい折のついた着物を着て、
星めぐりの口笛を吹いたり、
「ケンタウルス、露をふらせ。」と叫んで走ったり、
青いマグネシヤの花火を燃したりして、
たのしさうに遊んでゐるのでした。
宮沢賢治 「 銀河鉄道の夜 」 より
しきりにぐるぐるまわして見ていました … 。
その地図の立派なことは、夜のようにまっ黒な盤の上に、
一々の停車場や三角標、泉水や森が、
青や橙緑や、うつくしい光でちりばめられて
「 この地図はどこで買ったの。黒曜石で
できてるねぇ。 」ジョバンニが云いました。
宮沢賢治 「 銀河鉄道の夜 」 より
ずっと欲しいものがある
それは魔法使い 宮沢賢治の著書
「 銀河鉄道の夜 」に登場した
カンパネルラの「 黒曜石の星座盤 」
僕がその素敵な道具を手に入れて
夜空の星めぐりをすることは
決して叶うことのない夢だけれど
黒曜石のようにまっ黒な天を仰ぎ
流るる天空の白き大河をわたるとき …
そこに広がるプラネタリウムみたいな
満天の星たちの饗宴を魅つめるとき …
僕はいつも想っているんだ
ジョバンニとカンパネルラの物語を
緋いさそりのめだまと … 黒曜石の星座盤のことを
おやすみなさい
それが何時のことだったのか
わからなかったけれど
僕はなかなか寝付けなくて
月明かりさえない真夜中にひとり
夜の中を呼吸するため起き出した
そのとき僕はとても寒かったけれど
そのとき僕はとても星が恋しかったので
車の中から森のように濃い緑色をした
ごわごわしてるけどとてもあったかい
大きなブランケットを取り出して
それにすっぽり包( くる )まって
星めぐりをすることにしたんだ
僕をとりまく夜の底には
見渡す限りの冥くて深い闇が
横たわっていたけれど
ずっと向こうのほうにたったひとつだけ
何かを示すようにライトが明るく光っていた
夜闇にはっきりと浮かぶその光は
宮沢賢治が「 星めぐりの歌 」の一節で
“ 小熊のひたいのうへはそらのめぐりのめあて ”
そう詠った北極星のように見えて …
小熊が北極星を見上げてる姿の可愛さに
僕はまたぞろ口もとに笑みを浮かべ
夜中にひとり可笑しくなる
ほんたうに川だと考へるなら、
その一つ一つの小さな星は
みんなその川のそこの砂や
砂利の粒にもあたるわけです。
宮沢賢治 「 銀河鉄道の夜 」 より
夜露にしっとり濡れたみどりの絨毯に寝ころび
澄みわたる天空に流るる白き大河を
いつまでもいつまでも魅ていたんだ
僕の口から零れる吐息はとても白く
それはゆらゆらと揺れながら
夜の中を宙( そら )へと昇ってゆく
ぼんやりとシルエットを浮かべた樹木のどこかで
なかなか寝つけない僕のともだちが
とても綺麗な声でひと声高く鳴き
その声に呼応するかのように
僕のお腹が低くうめくよう泣いた
僕は友人を起こさぬよう
音のしないアルコールストーブで
一杯の白湯をあたためる
真新しい小さなケトルの口からは
美味しそうな湯気が揺蕩い
僕の吐息と絡み合って昇ってゆく
振り仰いだ宙では名もなき星が
ささやく声もなく静かに流れ消えて逝った
さてと …
朝まで …
銀河鉄道に思いを馳せますか
おはよう
今日も素敵な朝だね
今日も暑くなりそうだね
さてと
何して遊ぼう
その前に … ホットサンドでも
作りますか
「 僕と焚き火と星めぐりの夜に 」
~ f i n