その試合は、ローカル大会でした。
試合中、僕は一生懸命に指示を出していました。
「こう動け!」
「こっちだ!」
「守れ!」
いろいろ言いました。
でも――
全然、指示どおりに動かない。
水球は、子どもたちにとって簡単な競技ではありません。
泳ぎながら周りを見て、ボールを扱って、味方と連携して、相手の動きも判断する。
かなり複雑です。
その試合も、完全に負け試合。
僕自身、
「このまま負けて帰ったら、またスイミングクラブで『また負けたのか』って言われるな……」
そんなことまで考えていました。
「勝たなきゃ」
「なんとかしなきゃ」
そう思えば思うほど、焦ってくる。
そして、ある瞬間。
「もう、何を言ってもダメだ。」
と、開き直ったんです。
そのとき、ふと頭に浮かんだものがありました。
試合会場まで来る途中に、ハンバーガー屋があった。
そこで僕は、試合中に子どもたちへ、突然こう言いました。
「次、1点取ったやつに、ハンバーガーおごってやる!」
すると――
選手たちの目が変わりました。
本当に変わったんです。
さっきまで負けていたチームとは思えない。
目がギラギラしている。
味方同士でボールを取り合うくらいの勢い。
相手がボールを持っていれば、無理やり取りに行く。
そして、シュートまで持っていく。
そこには、それまで見たことのないエネルギーがありました。
「なんだ、これは?」
僕はそのとき、
人は、瞬間的に変わることがある。
ということに気づきました。
そして、その変化を生み出したのは、
技術でもありません。
体力でもありません。
練習量でもありません。
たった一つの言葉でした。
結果はどうなったか。
なんと、
負け試合だったはずの試合を、
引き分けまで持っていったんです。
残り時間、わずか。
相手チームは、もう勝ったと思っていた。
そこからの猛反撃でした。
水球という競技で、あそこまでチーム全員の気持ちが一気に変わる。
僕にとっては、衝撃的な出来事でした。
そして、ここから僕の指導方法が大きく変わっていきます。
「人を動かすものは、技術だけじゃない。」
その答えが、少し見えた瞬間でした。
つづく。
