「対案」なき反対論を相手にするのは、ものすごく疲れます。でも、膿んではダメ、冷めてもダメ。呆れたり諦めたり、計画継続・推進派が(というか、最も数が多い「どっちでも良い」派が)「そんなにグズグズ言うなら、もう止めればいいじゃん」に傾くのが先方の狙い。負けないよ。負けないで。
のつづき。最終回です。
例によって、素材となる東愛知新聞の後段を。
市側 議会権限超越と法令違反の懸念指摘
その中で、議決事項を定めた自治法96条2項に基づき、条例で議会が議決すべき事項を例示した2012年の総務省通知から「入札や契約など財務関係の事務」が除外される点を指摘。民法の契約解除の定義にも合致するとし、議決対象ではないと主張している。
また、総務省通知を踏まえ市長が担う事務に「予算の調製と執行」をうたった自治法149条2号の規定を元に、契約解除も予算執行に当たるとの解釈が可能とした。
この日は議運で杉浦康夫副市長らが市議らに再議の趣旨を説明。長坂市長は取材に「市としては条例案を法令違反と結論付けた。全国の自治体に影響を及ぼす判断になるので、適法性を確認するプロセスを踏まえず条例を発効させることは、市が認めたということになる」と再議までの経緯を説明した。
「総務省通知」と「契約解除の定義」については、前回までで触れました。
では、地方自治法149条を見ておきましょう。
●自治法149条2項
第百四十九条 普通地方公共団体の長は、概ね左に掲げる事務を担任する。
一 普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出すること。
二 予算を調製し、及びこれを執行すること。
三 地方税を賦課徴収し、分担金、使用料、加入金又は手数料を徴収し、及び過料を科すること。
四 決算を普通地方公共団体の議会の認定に付すること。
五 会計を監督すること。
六 財産を取得し、管理し、及び処分すること。
七 公の施設を設置し、管理し、及び廃止すること。
八 証書及び公文書類を保管すること。
九 前各号に定めるものを除く外、当該普通地方公共団体の事務を執行すること。
一 普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につきその議案を提出すること。
二 予算を調製し、及びこれを執行すること。
三 地方税を賦課徴収し、分担金、使用料、加入金又は手数料を徴収し、及び過料を科すること。
四 決算を普通地方公共団体の議会の認定に付すること。
五 会計を監督すること。
六 財産を取得し、管理し、及び処分すること。
七 公の施設を設置し、管理し、及び廃止すること。
八 証書及び公文書類を保管すること。
九 前各号に定めるものを除く外、当該普通地方公共団体の事務を執行すること。
市が引っ張り出してきたのは、第2項「予算を調製し、及びこれを執行すること」で、それが、ほら、ご覧の通り「普通地方公共団体の長」が担当することになってるでしょ、という主張のようですが、「いや、だから?」ですよ。
総務省通達との絡みは今ひとつ不明ですが、ともかく「契約解除も予算執行に当たるとの解釈が可能」であり、予算執行だから長の担当であり議会の議決は必要ない、という理屈なんでしょうか。
だとしても、もとより、予算執行のためにはその予算が議会で可決されていることが必要なはずで。
契約解除のための支出を議会が認めるとは考えられませんし、予算に組み込まれなければ執行も何もないではないですか。その点については一体どうするつもりなんでしょうか。
そこには「専門家」にしか分からない「解」があるんですかね。
素人としては、むしろ第1項に「普通地方公共団体の議会の議決を経べき事件につき議案を提出すること」とあることの方が重要だと思ってしまうのだけれども。
何度も言うように「議会の議決を経べき事件」である契約ならば、その解除にも「議会の議決を経べき」だというのが一般庶民の、少なくとも私の感覚として、当たり前のことですからね。
再議書には、「契約の解除は契約に基づく法律関係が生じるものではなく、単に契約が結ばれなかった元の状態に戻すにすぎないもの」だという引用が示されていて、何やら「文理上」契約の締結と解除の重みは同じでない、と、そうなるらしいのですが・・・
↑地方自治制度研究会編集『地方財務実務提要 第1巻』(株式会社ぎょうせい・1971年発行)に、あるそうな。
ちなみに、この第149条は・・・
本則/第二編 普通地方公共団体/第七章 執行機関/第二節 普通地方公共団体の長/第二款 権限
・・・という位置づけになっています(147条〜160条)。
さて、市が再議を求める理由として挙げる、もひとつの柱が「立法事実が存在しないこと」です。
●「立法事実」
これはですね、正直、いよいよ面倒くさい話です。
当該部分について、再議書の項目を再度上げておきます。
第2 立法事実が存在しないこと
1 立法事実の概要
2 立法事実の有無の判断基準
3 ①立法目的合理性(立法の必要性を裏づける事実)について
(1)提案議員の立法の必要性に関する説明
(2)立法の必要性を裏づける事実がないこと
4 ②立法の内容の合理性を基礎づける事実について
(1)契約の解除に関することを議決事項に加えることに合理性がないこと
(2)条例の一般性に反すること
ア 条例の一般性について
イ 特定事業契約の経過
ウ 本件議案の提案の経過
エ 本件議案と議案第119号との関係
5 小括
1 立法事実の概要
2 立法事実の有無の判断基準
3 ①立法目的合理性(立法の必要性を裏づける事実)について
(1)提案議員の立法の必要性に関する説明
(2)立法の必要性を裏づける事実がないこと
4 ②立法の内容の合理性を基礎づける事実について
(1)契約の解除に関することを議決事項に加えることに合理性がないこと
(2)条例の一般性に反すること
ア 条例の一般性について
イ 特定事業契約の経過
ウ 本件議案の提案の経過
エ 本件議案と議案第119号との関係
5 小括
とりあえず「5 小括」のみ、全文引いておきましょう。
以上、本件議案には、立法の必要性を裏づける事実及び立法の内容の合理性を基礎づける事実がなく、立法事実が存在しない。前述のように、立法事実を欠く法令は違法・無効となることから、本件議案に係る議決は、議会の権限を超えるものである。
要は、市として、此度の条例改正案は、その必要性もなければ合理性もない、との主張ですね。
実を言うと、この「立法事実」云々については、若干、議会の方が分が悪いかな、という気がしないでもないです。
個別案件(此度の契約解除阻止)を全面に出してしまうと「一般性に反する」ことになるし、かと言って、一般論だと強調すると、急ぎ提案したことの説明がつかない、というわけでありまして。
ただ、再議書自体、条例改正案提案議員の議会での発言の一部を取り上げたり、その他これまでの経緯を持ち出したりで、読んでいて気分が良いのもではありません。
おまけに、田中孝男『条例づくりのきほん ケースで学ぶ立法事実』第一法規・2018年)とか、芦部信喜『憲法』(岩波書店・1993年)とか、何なら、行実昭和◯◯年◯◯月◯◯日地自発行◯◯◯号◯◯県(市)◯◯◯◯長宛行政課長回答、みたいなものまで引用されていて「そんなもん、よく見つけてくるなー。議論するためには、こっちも、ソレに当たらないといけないのかなー」と、それこそ、頭ン中、膿んでく気がします。
読み返してみると、再議書冒頭の「理由」にも、松本英昭『新板逐条地方自治法第9次改訂版』学陽書房・2019年)が引用されてますね。
ま、私としては、この条例改正がなくても、此度の契約解除(少なくとも約定解除)はできないと踏んでるので、施行されるに越したことはない、くらいでしょうか。
ただ、今後のことを考えると、それこそ一般性を認めて、全国の地方公共団体が追随するのを希望したいくらいです。
でなければ、いつ、また、どこの自治体で・・・
長い時間をかけて議論を積み重ねた結果、ようやく緒に就いた公共事業があり、けれど首長選挙において「中止にするよ」という公約をこっそり掲げた候補が、その公約以外の要因でうっかり当選してしまい、なので当然過半数を得たわけでもない。にも係わらず激しく勘違い、議会も関係各方面の要望も無視して「公約実行します」と件の公共事業をストップさせる。
・・・なんてことが起きないとも限りません。
それは自治体の、自治体住民の不幸です。
●棚には、上げたモノがいっぱい
最後に、長坂氏の言い分について。
氏が、この条例改正を「はい、そうですか」と認めるはずもないことは十分に予想されたことですし、再議自体は、それほど珍しいことでもないようではありますが・・・
「市としては条例案を法令違反と結論付けた。全国の自治体に影響を及ぼす判断になるので、適法性を確認するプロセスを踏まえず条例を発効させることは、市が認めたということになる」
・・・のだそうで。
いやいや、まずもって・・・
長坂氏のしている事自体が「契約不履行」であり「契約違反」であり、少なくとも「社会通念に反する行為」に当たるのではありませんか?
・・・という話ですよ。
放っておけば、議会がそれを認めたことになるわけで、そりゃ変化球と言われようと魔球と言われようと、市長の独断専行を止めるためには、というか独断専行しているのだと事実を広く世に知らしめるためには、争うしかありませんがな。
ソコを明確にするための条例改正です。
もちろん、単なる「暴投」だった、となる可能性もあるわけですが・・・
ついでに言うと、議員の立場でありながら、議会の権限を強くする(市長の権限を抑える)この条例改正に反対する人がいる、というのは、いささか解せません。
よほど高潔な心根なのか、あるいは、ひょっとして万が一自分が市長になったとき「独裁」したいからなのか。
それにしても、こういった、一欠片の生産性もない仕事につき合わされる市の職員さんは、気の毒だなあと思います。あ、でも、悪いのは議会じゃなくて、長坂氏だから。ソコは間違えないように。
●「解釈」の果に・・・
以上、私なりに自分で考えて得た結論です。ど疲れました。
傍から見たら、随分と無駄なことをしているなあ、と思われるかもしれませんが、良いんです。
私個人としての、負けないからね、という意思表示です。
「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」計画・・・
長坂氏(と、その仲間たち)は、「だったら他にどうする?」を言わないまま、ただ「中止」のみを言い募っています。
しかも、その論拠は、もはや変えられない過去の経緯、あるいは、現状打破の気概なき悲観的未来予測がほとんどを占めています。
後ろ向きだったり、縮み思考だったりで、時々距離を置かないと、正直、滅入ってしまうのですが・・・
計画中止のため契約を解除するだけでも支出が伴うし、仮に「今の豊橋公園」をそのまま大事にする(放置する)としても、それでも維持・管理・運用にはお金が掛かかります。
武道館、弓道・アーチェリー場、野球場、その他無秩序駐車場など、関係者の要望を入れて整備すれば、数十億規模の予算になるでしょう。
その辺(特に後者)に触れないのは、姑息であり、卑怯であります。
今後30年にわたる「整備・運用事業計画」に反対するのであれば、今後30年「豊橋公園をどうするつもりなのか、それにはお金がいくら掛かるのか」くらいは言っても、バチは当たりません。
試案でも、私案でも、概算でも、丼勘定でも、まずはちゃんと示しましょうよ、です。