オペラガルニエでアルセスト | Mevrouwのブログ。。。ときどき晴れ

Christoph Willibald Gluck (1714-1787)
Alceste (French version) 1776

Olivier Py (Stage director)

Stanislas de Barbeyrac (Admète
Véronique Gens (Alceste
Stéphane Degout (Le Grand Prêtre d’Apollon / Hercule
Manuel Nuñez Camelino (Evandre, Coryphée alto
Chiara Skerath (Coryphée soprano
Tomislav Lavoie (Apollon / Un Hérault / Coryphée basse
Kevin Amiel (Coryphée ténor
François Lis (Un Dieu Infernal / L'Oracle


Sébastien Rouland (Conductor)
Chorus and Orchestra of Les musiciens du Louvre Grenoble.


ベルサイユでヴィンチのオペラを見た翌日、
パリのオペラ座でグルックのアルセストを観た。
あまり考えずにチケットを取ったが、
実はこれらの二作はまさに対局にあるといってもいいらしい。
ヴィンチのウティカのカトーネが天才脚本家メタスタジオ絶頂期で
売れに売れていたときに書かれたものだが、
アルセストのほうは、メタスタジオが筆を折ったころに書かれており、
グルックはまさに脱メタスタジオ的なものを志したオペラを野心的に書いたのだそうだ。

つまり、それまでのバロックの
ダカーポアリアを排し、レチタティーヴォも物語にそった自然なものにする、
歌詞と音符を合わせて言葉を話すような音楽にする、
というようなことだそうだ。

そのとおり、ヴィンチのオペラとは全く違い、
グルックのオペラはダカーポアリアは存在せず、
飾り付けともいえるアジリタはない。
そして、コーラスの役割が非常に大きくなっている。
(そもそもヴィンチのオペラにコーラスはない。主役陣の4部合唱はあるけれど)

まずはオペラ鑑賞のまえに、
ガルニエの建物内部を鑑賞させていただいた。
絢爛豪華。
ハプスブルグもすごいもんだが、いや、やっぱりブルボンはすごい。
と妙に感心してしまった。(ブルボン朝とは関係ないんだけど、
趣味がブルボン的なので)
オペラ座のなかはヴェルサイユ宮殿鏡の間のようであり、
夢の御殿であったのだ。





夢見心地で座席に着く。
3階の安い席であったが、舞台を見やすくて、非常にお得だった。

始まる前から舞台では4人の黒服の男たちが、
舞台の背景を描いていた。
そう、この舞台では巨大な黒板がしつらえられ、
背景はこの男性たちがチョークで描いていくという演出なのだ。
これは新しい。と、そのことにも度胆を抜かれる。
第一のシーンはオペラ座の外観だ。
緻密に描かれて、美しい。
オペラ座が描かれ終わるころ、前奏曲が終わるというタイミング。



そしてシーンが変わるころ、歌い手の後ろでこの黒板の絵は
モップできれいさっぱりと消される、(あらもったいない)。
そして次なる絵がチョークで現される。

それが繰り返されるが、黒板の大きさも形状も位置もその都度変わるので、
まったく、飽きない。

歌のほうは、
ヴェロニク・ジェンスはほぼ歌いっぱなしだ。
彼女はDNOのアウリスのイフィゲニアで聴いたときは、
なにか弱弱しく、ノーブルだが声量のない歌手という印象をもったが、
実は全く違うことがわかった。
あれは役柄だったのだ。
今回のアルセストは悩みつつも自ら決心する女であり、
強く、りりしく、鮮やかで、それでいて、気品とか弱さを兼ね備えている、という
実に複雑なキャラクターだ。
それを見事に歌いきっている。
声量あるし、歌いっぱなしでも疲れも見せない。
立派だ。心から拍手した。

夫のアドメーテを歌ったスタニスラス・ド・バルヴェイラ(と発音するのかどうか不明)は、
1984年生まれという若き(そうでもないのかな)テノールで、
見目麗しく声のだしかたが非常に美しい。

ドグーは歌はもちろん素敵なのだが、
その立ち姿がほれぼれするものだった。
低めのバリトンはやっぱりかっこいい。

そして、なんといってもコーラスが素晴らしかった。
指揮がミンコフスキーではなかったけれど、
オーケストラももちろん盤石。
第三幕はオーケストラが舞台に上がって演奏するのだが、
舞台が黒板にチョーク、
そして衣裳も白と黒、というシンプルななかで、
オーケストラのバイオリンとチェロの茶がつややかで、
なかなかに面白い色調になっていた。

この舞台はぜひまた観たいものだ。

あらすじ
国王アドメーテは重い病に倒れ危篤。
彼の命を救うには動物をいけにえに捧げても無駄で、
誰かが身代りに死ぬしかない、とオラクル(神託)がある。
王妃アルセストは悩んだ結果、子ども二人を残していくのはつらいが自分が命を捧げて
愛する夫を助けたいと思い、それを祭祀に告げる。
アポロンはそれを聞き入れ、アドメーテは助かる。
快気祝いの宴席でうかぬアルセストをみてアドメーテは事情を問い詰め、
アルセストが自分の代わりに死ぬということを知る。
お前が死ぬなら俺も生きていたくない、と、嘆く。
ヘラクレスはアルセストを助けに黄泉の国へ。
そしてアポロンに祈ると、
アポロンはそれほど愛し合う美しい姿に免じて許してやろう、
と両者助かる。

というめでたい話であるが、
助かることは最後の最後まで誰もわからないため、
音楽は終始暗く、アルセストが笑う姿はない。
コーラスも重々しく、
ご宣託も厳しい。

なので最後に雷がとどろき、アポロンの許しがおり、
金色の太陽の光をまとった踊り手がフィナーレで美しくターンしてみせるのが、
唯一の明るいシーン。

本当によくできていた。
昨年の初演時のトレーラーはこれ。
キャストが違うが、舞台の雰囲気は伝わると思う。