3月11日
3時半。雪は止んで月がきれいだ。
毎日のことで体がヘトヘトなのに、外は猛烈に寒くて出たくないのに
「どうして行く用意をして外に出る?」
凍った水筒をザックに入れながらそんなことを考えていた。
昨日とは違うルートで写真を撮りつつ登る。
背中がオレンジに染まったエベレストがローツェの後ろから見えてくる。
月が沈む。こんな場所に夜明けにいるのは俺だけ。
この景色を独り占め。
夜が明けて、雲ひとつ無いネパールの一番山奥にただ一人。
もう満足行く写真撮れたじゃない?
頂上は昨日昇ったよ。行く必要なんて無いんだよ。
一歩一歩踏みしめる歩数を数えながら、自問自答する。
「俺、一体何してるんだ?」
きっと、山登ってキツい経験した人なら誰でも感じるはずだ。
でも、なんだか勝手に体が登っている。
昨日のルートとは違って急で、大きな岩がたくさんあって、
正直かなり危険なルート。
岩の向こう側は500mはゆうにある断崖の後、無人の氷河。
素人が見ても落ちたら助からなそうな状況である。
そんな岩の間をすり抜けてこれ以上高い場所がないところまでつく。
チョルテンがはためいている快晴のPeakにただ一人。
目の前には図鑑でしか見たことの無かったエベレストが俺だけのためにそびえたっている。
一人でここまで来れた。
厳しいけれどここまで来れたよ。
なんだかわからないけれど、大泣きした。
声出して、大声で泣いた。
大泣きできるほど感動できる心がまだあったんだ。
ひとり、誰にも恥ずかしがらずに大きな声で泣いた。
もう、この旅を終わってもいいかな?
この前まで前向きに一歩も踏み出せなかったけれど、
いまは日本でやりたいこといっぱいできてきたし。
ゴラシェプまで降りてきて朝食。
昨日までの疲れがたまっていて、睡眠不足で、
今日、KalaPattarまでいった疲れで朝なのに正直ヘトヘトである。
栄養剤を飲み下して体を引きずりながらDinbocheまで降りる。
正直何度もヘタリ込みそうになったけれど、なんとかDingocheまでたどり着く。
20歩登ると息が続かない
見えても遠いPeak
「何しているんだろう?」
「誰のため?」
そんな言葉が頭をよぎるけれど
思考回路に酸素をまわす余裕はない
空と自分と王者チョモランマが
名だたる明峰を引き連れているのが見えるだけ
もし、キミと一緒にここに立てることがあったら
キミが感じることは
いま俺が感じてることだよ
早く大きくなれ