Collatz heavy–cheap–LP フレーム
――周期排除のための条件付き下限構造(数値抜き ver.1.0 ドラフト)
要約(Abstract)
[メモ] 本稿では Collatz 写像に対して,「heavy–cheap–LP フレーム」と呼ぶ一次不等式ベースの証明フレームを定式化する。[メモ] 目的は
• [定義] τ=3 型奇数ステップの平均指数 μ₃
• [定義] heavy(k≥4)と cheap(k=3, O₂)の分解
• [定義] O₁ ブロックの危険集合と heavy capacity
• [定義] log–LP による cheap 側の μ₃ 上限
を統合し,「ある有限個のスカラー定数が与えられれば,非自明周期が存在しないことを一次不等式だけで判定できる」という条件付き定理の形にまで圧縮することである。
[事実] 本稿で証明するのは,外部から与えられる
• [推測] 危険長さ率の下限 ε₀>0(オートマトン)
• [推測] cheap–LP による μ₃ の上限 δ₁(線形計画)
が存在するならば,heavy capacity から得られる μ₃ の下限 δ₀ と比較して
\delta_0>\delta_1
が成立するパラメータ帯には非自明周期は存在し得ない,という形式の判定定理である(数値計算そのものは本稿では行わない)
0. ラベリング規則
[定義] 以下では,すべての主張・式・コメントにラベルを付す:
• [定義] 記号・集合・関数・パラメータの導入
• [事実] このテキスト内の論理だけで証明された,または単純な代数計算に還元できるもの
• [推測] 未証明の主張・外部論文・外部計算に依存する仮定
• [数値実験] 実際の計算結果そのもの(本稿では扱わない)
• [メモ] 方針・直感・補足説明・TODO
[定義] 「フレームの芯」とは,「このドラフト内の論理だけで導かれた構造・不等式」を指す。[メモ] 外部論文(Tao など)や未実装オートマトンの出力は,すべて [推測] 側に明示的に追いやる。
1. 序論と条件付きメイン定理
1.1 Collatz 問題と μ₃
[定義] Collatz 変換 F:\mathbb N\to\mathbb N を
F(n)=
\begin{cases}
n/2 & (n\equiv0\pmod2),\\
3n+1 & (n\equiv1\pmod2)
\end{cases}
とする。
[定義] Collatz 予想とは,「任意の自然数 n から始めた反復列が,最終的に 1 に到達する」という主張である。
[定義] 本稿では,奇数から次の奇数までの区間を「τ=3 型ステップ」とみなし,奇数 n からの 3n+1 に対する 2 で割る回数 k(n) の平均
\mu_3 := \mathbb E[k(n)\mid \text{奇数ステップ}]
を中心変数として扱う。
[メモ] 直感的には「3n+1 の 2 進的な減速効果の平均強度」を測る量である。
1.2 heavy–cheap–LP フレームの概略
[メモ] 本稿のフレームは,おおざっぱに言うと以下の3層からなる:
1. heavy capacity 層(下限)
• [定義] τ=3 のうち k=3 を cheap,k≥4 を heavy と呼ぶ。
• [事実] heavy 本数 u_{4+} と μ₃ の間に単純な一次不等式
\mu_3 \ge 3 + u_{4+}
が成り立つ。
• [事実] O₁ ブロックの「危険集合」を定めると,危険ブロック 1 個につき heavy を最低 1 本割り当てる必要があり,危険長さ率 γ_{\mathcal K}^{len} から u_{4+} の一次下限
u_{4+}\ge c_H \gamma_{\mathcal K}^{len}
が得られる(c_H = 1/6)
2. cheap+log–LP 層(上限)
• [定義] O₁,O₂,O₃ 各行の log 利得を上から抑える log 係数を導入する。
• [事実] 周期では log 収支が 0 であることから,τ=3 行の平均指数 μ₃ に対する「上からの一次不等式」
\mu_3 \le \operatorname{UB}(p_1,p_2)
が得られる。
• [定義] LP で (p₁,p₂,u) の領域 P を定め,その上での最大値
\mu_3^{\max} := \max_{(p_1,p_2,u)\in P} \operatorname{UB}(p_1,p_2)
をとり,
\delta_1 := \mu_3^{\max}-3
とおく(cheap 側の許容オフセット)
3. オートマトン A_k 層(危険率 ε₀)
• [定義] Collatz を mod 2^k の有限オートマトンとして見たとき,dangerous block をまったく含まない閉路がどれだけ存在できるかを評価する。
• [推測] safe-only 閉路が存在しないような k に対して,危険長さ率 γ_{\mathcal K}^{len} の下限 ε₀>0 が得られると期待する。
[定義] heavy capacity とオートマトンを合成した μ₃ の下限を
\mu_3 \ge 3 + \delta_0,\qquad \delta_0 := c_H\varepsilon_0
と書く(ここで ε₀>0 は [推測])
1.3 条件付きメイン定理(スケルトン)
[定義] 仮定(A)〜(E) を次のように置く:
• [推測][A] オートマトン A_k の解析から
\gamma_{\mathcal K}^{len} \ge \varepsilon_0>0 が得られる。
• [推測][B] q_{ij}–LP から p₁ 楔と log–LP 制約が得られ,(p₁,p₂,u) の可解領域 P が有界多面体となる。
• [推測][C] P 上で UB(p₁,p₂) を最大化することにより,
\mu_3 \le 3+\delta_1 という上限が得られる。
• [事実][D] heavy capacity から
\mu_3 \ge 3 + c_H\varepsilon_0 = 3+\delta_0 が導かれる(c_H = 1/6)
• [定義][E] \delta_0,\delta_1 を上記のように定める。
[事実](形式的メイン定理)
仮定(A)〜(E) のもとで,もし
\delta_0>\delta_1
が成り立つならば,対応するパラメータ帯に非自明 Collatz 周期は存在しない。
[導出]
[事実] 周期が存在すると仮定すれば
3+\delta_0 \le \mu_3 \le 3+\delta_1
が必要になるが,[定義] δ₀>δ₁ ならこれは矛盾である。
[メモ] この定理はあくまで「数値が手に入れば,その瞬間に自動で周期を禁止できる」という枠組みを与えるだけで,実際に δ₀>δ₁ を検証する段階(LP 解・オートマトン全探索)は本稿の範囲外とする。
2. 基本設定:型・頻度・O₃ の分解
2.1 奇数行と型 τ
[定義] Collatz 周期上の奇数列を
(m_0,\dots,m_{T-1}),\quad m_{n+T}=m_n
とする。
[定義] 各奇数 m_n に対し
3m_n+1 = 2^{k(m_n)}F(m_n),\quad F(m_n)\ \text{奇数},\ k(m_n)\ge1
とする。
[定義] 型 τ(m_n) を
\tau(m_n)=
\begin{cases}
1 & k(m_n)=1,\\
2 & k(m_n)=2,\\
3 & k(m_n)\ge3
\end{cases}
で定める。これを「1 行/2 行/3 行」と呼ぶ。
[定義] 型頻度 p_i を
p_i := \frac1T\#\{n\mid \tau(m_n)=i\}\quad(i=1,2,3)
とし,特に
u:=p_3
と書く。
[事実] 定義から
p_1+p_2+p_3=1,\quad p_i\ge0
が成り立つ。
[定義] 型遷移頻度 q_{ij} を
q_{ij}:=\frac1T\#\{n\mid \tau(m_n)=i,\ \tau(m_{n+1})=j\}
とする。
[事実] 正規化条件
\sum_j q_{ij}=p_i,\quad
\sum_i q_{ij}=p_j
が成り立つ。
[定義] 記号
x:=q_{13},\quad R:=\frac{x}{p_1}
を導入する。R は「O₁ 行から O₃ 行への遷移密度」である。
2.2 O₃ の k 分解と μ₃
[定義] O₃ の k 分解を
u_k := \frac1T\#\{n\mid \tau(m_n)=3,\ k(m_n)=k\},\quad k\ge3
とし,特に
u_3:=u_3,\quad
u_{4+}:=\sum_{k\ge4}u_k,
\quad
u=p_3=\sum_{k\ge3}u_k
と書く。
[事実] 定義から
u_3+u_{4+}=u
が成り立つ。
[定義] O₃ の平均指数を
\mu_3 := \frac1u\sum_{\tau(m_n)=3}k(m_n)
= \frac1u\sum_{k\ge3}k\,u_k
と定める(u>0 の場合)
[導出] 単純変形から
\mu_3
= \frac1u\sum_{k\ge3}(3+(k-3))u_k
= 3 + \frac1u\sum_{k\ge4}(k-3)u_k
\ge 3 + \frac1u\sum_{k\ge4}1\cdot u_k
= 3 + \frac{u_{4+}}{u}.
[事実](μ₃ と heavy 量の粗い下限)
\mu_3 \ge 3 + \frac{u_{4+}}{u}.
[事実] さらに u≤1 より
\mu_3 \ge 3 + u_{4+}.
[メモ] 後で heavy capacity から u_{4+} の下限を得て,μ₃ の下限に変換する。
3. O₁ ブロックと危険集合
3.1 O₁ ブロックと (ℓ,r) 型
[定義] 型列 τ(m_n) における「連続する τ=1 の最大区間」 B を O₁ ブロックと呼ぶ。
[定義] ブロック長と 1→3 本数を
\ell(B):=\#\{n\in B\},\quad
r(B):=\#\{n\in B\mid \tau(m_n)=1,\ \tau(m_{n+1})=3\}
とする。
[定義] (\ell,r) を「ブロック型」と呼び,\ell(B)=\ell,\ r(B)=r を満たすブロックを型 (\ell,r) のブロックと呼ぶ。
[定義] ブロック内の 1→1,1→2 の本数を
n_{11}(B),\ n_{12}(B)
とすると
n_{11}(B)+n_{12}(B)+r(B)=\ell(B)
が成り立つ。
3.2 O₁ log 係数と Φ_{\ell,r}
[定義] 1 行 log 比を
L_{11}=\log\frac{11}{7},\quad
L_{12}=\log\frac{17}{11},\quad
L_{13}=\log\frac53
とする。
[事実] 単純な大小比較から
L_{13}>L_{11}>L_{12}>0
が成り立つ。
[定義] ブロック B の O₁ log 収支を
S_{\text{O1}}^{(1)}(B)
:= n_{11}(B)L_{11}+n_{12}(B)L_{12}+r(B)L_{13}
とする。
[定義] 型 (\ell,r) に対する最大利得を
\Phi_{\ell,r}
:=\max_{B:\,\ell(B)=\ell,\ r(B)=r}S_{\text{O1}}^{(1)}(B)
と定める。
[導出] L_{13}>L_{11}>L_{12} なので,固定された (\ell,r) に対して S_{\text{O1}}^{(1)}(B) を最大化するには n_{11} を最大化し n_{12} を最小化するのがよい。したがって
\Phi_{\ell,r}=\ell L_{11} + r(L_{13}-L_{11}),\quad 0\le r\le\ell.
[事実] 特に
\Phi_{\ell,r}\le \ell L_{13}
が成り立つ(r=ℓ のとき等号)
3.3 危険集合 \mathcal K と危険長さ率
[定義] 危険集合 \mathcal K を
\mathcal K := \{(1,1),(2,1),(2,2),(3,1),(3,3)\}
とする。
[事実] 各 (\ell,r)∈\mathcal K に対し
\Phi_{\ell,r} >0
が成り立つ(L_{11},L_{12},L_{13}>0 かつ r≥1 より)。
[メモ] 危険集合とは,「log 収支の点で特に扱いに注意を要する O₁ ブロック型」という意味である。
[定義] 型 (\ell,r) のブロック本数を B_{\ell,r},その正規化を
\theta_{\ell,r}:=\frac{B_{\ell,r}}{T}
とする。
[事実] O₁ の頻度と 1→3 本数は
p_1 = \sum_{\ell,r}\theta_{\ell,r}\ell,\quad
x = \sum_{\ell,r}\theta_{\ell,r}r
と書ける。
[定義] O₁ ステップ総数を N₁,そのうち危険型ブロックに属するステップ数を N₁(\mathcal K) とし,危険長さ率
\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}} := \frac{N_1(\mathcal K)}{N_1}
を定める。
[メモ] 後で heavy 量 u_{4+} の線形下限と結びつく中心パラメータである。
4. heavy capacity:u_{4+} と γ_{\mathcal K}^{len} から μ₃ 下限へ
4.1 cheap / heavy の定義と budget
[定義] cheap / heavy O₃ を
\text{cheap O}_3:\ k(m)=3,\quad
\text{heavy O}_3:\ k(m)\ge4
として区別する。
[定義] cheap/ heavy 頻度を
u_3 := \frac1T\#\{\tau=3,\ k=3\},\quad
u_{4+} := \frac1T\#\{\tau=3,\ k\ge4\},\quad
u=p_3=u_3+u_{4+}
とする。
[メモ] O₂ 行も cheap 側の資源として扱う(log 係数が「軽くマイナス」側)。
[定義] 安い資源の総量を
u_{\text{cheap}} := p_2+u_3
と呼ぶ。
[推測] 別途の LP 解析から,「周期が存在するならば u_{\text{cheap}} はある上限以下」という budget
u_{\text{cheap}}\le U_{\text{cheap}}
が得られていると仮定する。[メモ] 本稿では U_cheap を記号のまま扱う。
4.2 危険ブロックごとの heavy 必要量(局所)
[定義] ブロック B 内の cheap / heavy 本数を
N_2(B):\ \text{O₂ 本数},\quad
N_3^{(3)}(B):\ \text{k=3 O₃ 本数},\quad
N_3^{(4+)}(B):\ \text{heavy O₃ 本数}
とする。
[定義] それぞれの log 上界を
L_{2,\max}<0,\quad
L_3^{(3),\max}<0,\quad
L_3^{(4+),\max}<0
と書く(具体値は [推測] または単純評価)
[定義] ブロック B 全体の log 収支を
S(B)
:= \Phi_{\ell,r}
• N_2(B)L_{2,\max}
• N_3^{(3)}(B)L_3^{(3),\max}
• N_3^{(4+)}(B)L_3^{(4+),\max}
とする。
[推測] 危険型 (\ell,r)∈\mathcal K のブロックに対して,cheap(O₂+k=3 O₃)のみでは S(B) が非負にならず,heavy を最低 1 本投入しなければ周期条件と両立しない,という局所不等式が成り立つ:
N_3^{(4+)}(B)\ge1\quad((\ell,r)\in\mathcal K).
[メモ] これは具体的な log 係数を突っ込んだ有限ケースチェックに相当する。ここでは heavy capacity フレームの仮定として採用する。
4.3 heavy 量の線形下限
[事実] 危険ブロック B の O₁ 長さを \text{len}(B) と書くとき,
\frac{N_3^{(4+)}(B)}{\text{len}(B)} \ge \frac1{\text{len}(B)}.
[推測] 危険集合 \mathcal K に属する各型の長さに対し
\text{len}(B)\le L_{\max}
なる共通の上限 L_max が存在すると仮定する(実際の計算では L_{\max}=6 などが想定されている)
[事実] したがって
\frac{N_3^{(4+)}(B)}{\text{len}(B)} \ge \frac1{L_{\max}}
がすべての危険ブロック B に対して成立する。
[導出] 危険ブロック全体で平均をとると,heavy 量 u_{4+} と危険長さ率 γ_{\mathcal K}^{len} の間に
u_{4+} \ge \frac1{L_{\max}}\,\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}}
が得られる。
[定義] 定数
c_H:=\frac1{L_{\max}}
とおくと,
[事実] heavy 量の一次下限
u_{4+} \ge c_H\,\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}}
が成立する。
4.4 μ₃ の下限 δ₀(記号レベル)
[事実] 既に得た不等式
\mu_3 \ge 3+u_{4+},\quad
u_{4+}\ge c_H\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}}
を合成すると
\mu_3 \ge 3 + c_H\,\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}}
が得られる。
[推測] もしオートマトン解析から
\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}}\ge\varepsilon_0>0
が得られれば,[定義]
\delta_0:=c_H\varepsilon_0
として
\mu_3 \ge 3 + \delta_0
が従う。
[メモ] heavy 側に関しては,ここまでの導出は log 係数の細部をほとんど使わず に一次不等式で閉じている点が重要である。ボトルネックは「ε₀>0 を [事実] にできるかどうか」の一点である。
5. cheap+log–LP:μ₃ の上限フレーム
5.1 log 収支と UB(p₁,p₂)
[定義] 各行の平均 log 利得を
\mathbb E[L_1],\ \mathbb E[L_2],\ \mathbb E[L_3]
とし,周期 1 周期分の総 log 収支を
S := p_1\mathbb E[L_1]
• p_2\mathbb E[L_2]
• u\mathbb E[L_3]
と定める。
[事実] 周期で元の値に戻るので,log の和は 0 であり
S=0
が成り立つ(不等式緩和として S≥0 を用いてもよい)
[メモ] 実際には「log の誤差」などを考慮して |S|\le\varepsilon のような帯域条件を課すこともできる。
[推測] 外部解析から
\mathbb E[L_1]\le L_{1,\max},\quad
\mathbb E[L_2]\le L_{2,\max},\quad
\mathbb E[L_3]\le \log4-\mu_3\log2
のような上界が得られていると仮定する。
[導出] これを S に代入すると
0\le S
\le p_1L_{1,\max} + p_2L_{2,\max}
• u(\log4-\mu_3\log2),
したがって u>0 の範囲で
\mu_3 \le
\frac{p_1L_{1,\max}+p_2L_{2,\max}+u\log4}{u\log2}
=: \operatorname{UB}(p_1,p_2).
[事実](条件付き上限)
u>0 に対して
\mu_3 \le \operatorname{UB}(p_1,p_2)
が成り立つ。
5.2 p₁ 楔と可解領域 P
[推測] 別途の q_{ij}–LP 解析から,p₁ に対する上下界
p_{1,\min}\le p_1\le p_{1,\max}
が得られていると仮定する(いわゆる p₁ 楔)。
[事実] p₂,u≥0, p₁+p₂+u=1 より
0\le p_2\le 1-p_1,\quad
0\le u\le 1-p_1.
[推測] さらに q_{ij} と dangerous 構造に由来する線形制約をまとめると,(p₁,p₂,u) が属するべき集合は
P :=
\Bigl\{(p_1,p_2,u)\mid
p_{1,\min}\le p_1\le p_{1,\max},\
p_2\ge0,\
u=1-p_1-p_2\ge0,\
\text{LP 制約全部}
\Bigr\}
という有界凸多面体になると期待される。
[事実] P が有界多面体であれば,UB(p₁,p₂) の最大値は P の頂点で達成される(線形分数関数と多面体の基本事実)
5.3 δ₁ の定義(数値抜き)
[定義] P の頂点を
v^{(1)},\dots,v^{(m)},\quad v^{(\ell)}=(p_1^{(\ell)},p_2^{(\ell)},u^{(\ell)})
とし,
\mu_3^{\max}
:= \max_{(p_1,p_2,u)\in P} \operatorname{UB}(p_1,p_2)
= \max_{1\le\ell\le m}\operatorname{UB}(p_1^{(\ell)},p_2^{(\ell)})
と定める。
[定義] cheap 側のオフセットを
\delta_1 := \mu_3^{\max} • 3
と定義する。
[事実] すると (p₁,p₂,u)∈P に対して
\mu_3 \le 3 + \delta_1
が成立する。
[メモ] 本稿では,\delta_1 を「有限個の候補点 v^{(\ell)} での値の最大」としてのみ定義し,実際に評価はしない。[推測] 実際に LP を解けば \delta_1\ll1 が期待されるが,それは別フェーズの話である。
6. 統合判定フレーム
6.1 δ₀ と δ₁ の比較
[事実] heavy capacity と危険率 ε₀>0(仮定)から
\mu_3 \ge 3+\delta_0,\quad \delta_0=c_H\varepsilon_0
を得た。
[事実] cheap+log–LP から
\mu_3 \le 3+\delta_1
を得た。
[事実] したがって,周期が存在するならば
3+\delta_0 \le \mu_3 \le 3+\delta_1
でなければならない。
[事実] もし \delta_0>\delta_1 ならば,この不等式系は矛盾する。
[事実] よって,「heavy capacity 由来の μ₃ 下限 δ₀」と「cheap–LP 由来の μ₃ 上限 δ₁」の比較が,周期の存在可否の判定条件に直接なっている。
6.2 γ_{\mathcal K}^{len} と δ₁ を結ぶ閾値表現
[導出] δ₀ の式
\delta_0 = c_H\varepsilon_0
を γ_{\mathcal K}^{len} に戻して書くと,
\delta_0 = c_H\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}}
\quad(\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}}\ge\varepsilon_0)
とみなせる。
[事実] 条件 \delta_0>\delta_1 は
c_H\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}} > \delta_1
と等価である。
[定義] 必要な危険長さ率の閾値を
\gamma_{\text{crit}} := \frac{\delta_1}{c_H}
と定めると,
[事実] もし
\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}} > \gamma_{\text{crit}}
をオートマトン等から示せれば,当該パラメータ帯には非自明周期は存在しない。
[メモ] つまり,「A_k の探索で γ_{\mathcal K}^{len} の下限を押し上げる作業」と「cheap–LP で δ₁ を押し下げる作業」が,1 本の一次不等式
c_H\gamma_{\mathcal K}^{\text{len}} > \delta_1
を満たすかどうかのチキンレースにまとめられている。
7. 変数ライフサイクル索引(heavy capacity 部分)
[メモ] ごく主要な変数とその「導入→変形→消滅」だけを記す。
• [定義] m_n:周期上の奇数列
• [導入] Collatz 周期の定義
• [変形] 型 τ(m_n), 指数 k(m_n) に写る
• [消滅] LP では frequencies p_i,q_{ij},u_k などに圧縮され,個々の m_n は現れない
• [定義] k(m_n)
• [導入] 3m_n+1=2^{k(m_n)}F(m_n)
• [変形] u_k, μ₃ の式に集約
• [消滅] μ₃ = 3 + (1/u)∑(k−3)u_k ≥ 3+u_{4+} に置き換えられ,k の分布は消える
• [定義] τ(m_n)∈{1,2,3}
• [導入] 型分類
• [変形] p_i,q_{ij}, O₁ ブロック (ℓ,r) に利用
• [消滅] heavy capacity の最終式ではブロック頻度と危険長さ率 γ_{\mathcal K}^{len} に吸収される
• [定義] p_1,p_2,p_3,u
• [導入] 型頻度
• [変形] u → u_3+u_{4+}, p_1 → ブロック頻度の線形和
• [消滅] heavy 部分だけを見る限り,最終的には γ_{\mathcal K}^{len} と budget に隠れる
• [定義] u_k,u_3,u_{4+}
• [導入] O₃ の k 分解
• [変形] μ₃≥3+u_{4+}, u_{4+}≥c_Hγ_{\mathcal K}^{len}
• [消滅] 最後は δ₀=c_Hε₀ の形に圧縮され,個々の u_k は現れない
• [定義] Φ_{\ell,r}, \mathcal K
• [導入] O₁ ブロックの log 利得
• [変形] 「危険ブロックには heavy≥1」への局所 bound に変換
• [消滅] u_{4+}≥(1/L_max)γ_{\mathcal K}^{len} に吸収され,個々の Φ_{\ell,r} は表舞台から退く
• [定義] γ_{\mathcal K}^{len}, ε₀, δ₀
• [導入] 危険長さ率とその下限,μ₃ の下限幅
• [変形] γ→ε₀→δ₀ と段階的に圧縮
• [消滅] 最後に残るのは「μ₃≥3+δ₀」という1本の不等式であり,δ₀ が heavy 側フレームのコアになる
8. 足りない論点・今後の可能性(数値抜きで見える地図)
8.1 足りない論点(このドラフトでは未解決の部分)
• [推測] オートマトン A_k の具体構成と ε₀ の証明
• 状態に何を持つか(mod 2^k+補助情報)
• dangerous / safe のラベリング
• 「safe-only 閉路なし ⇒ γ_{\mathcal K}^{len}≥ε₀」の厳密証明
• [推測] q_{ij}–LP の完全記述と P の具体化
• 全ての局所パターンの列挙
• それらから導かれる線形制約の明示
• P の頂点列 v^{(\ell)} の実計算
• [推測] UB(p₁,p₂) の実際の最大値 δ₁ の評価
• LP ソルバーによる数値上限
• 頂点ごとの log 利得を注入した上での評価
• [推測] log 係数の sharpen
• L_{2,max}, L_3^{(3),max}, L_3^{(4+),max} のより良い負側上界
• これに伴う heavy 本数の必要量や cheap budget の引き締めを行う。
8.2 今後の可能性(構造として見えているもの)
• [推測] 「条件付き Collatz 部分定理」としてまとめる
• 「もし A_k と LP がこの範囲まで到達すれば,非自明周期は存在しない」というif–then 型の定理として公表可能
• 数値部分を付録として切り離せば,理論骨格だけでも読み物として成立する。
• [推測] 他の 3n±1 型・整数力学系への転用
• 「型分類 → ブロック構造 → dangerous 集合 → heavy capacity」という流れは,3n−1 系・他の線形変換型にもそのまま持ち込める。
• [推測] 四色問題など他の離散問題との構造類似
• 危険局所構造の列挙
• 重み付け(discharging 的)
• 有限オートマトン/DP で safe-only パターンを排除
というパターンは,四色問題の discharging 法とかなり似た「設計原理」として整理できそうである。
8.3 ざっくりスケジュール感(論理的な順序のみ)
[メモ] 細かい日付は抜きにして,「論理的な順番」だけを書く:
1. A_k の仕様決め(紙の上)
• 状態・遷移・dangerous/safe のラベルをこのドラフトに沿って完全言語化
2. 小さい k でのテストオートマトン
• k=5,6 あたりで safe-only 閉路の有無を調べ,設計が破綻していないか検証。
3. q_{ij}–LP の再整理
• 今回の記号に合わせて LP を書き直し,(p₁,p₂,u) 多面体 P の形だけを決める。
4. cheap–LP 数値フェーズ(δ₁ の推定)
• Python 等で P の頂点を列挙し,UB(p₁,p₂) の評価を行う。
5. A_k 本番フェーズ(ε₀ の取得)
• 必要な k までオートマトンを拡張し,safe-only 閉路の有無から ε₀ を定める。
6. δ₀>δ₁ の判定と「条件付き定理」としてのまとめ
• δ₀,δ₁ の比較結果に応じて,「どのパラメータ帯で周期が禁止されるか」を theorem 形式で書き下す。
終わりに(ごく短い感想)
[メモ] 数値を一切入れずにここまで骨組みを整理すると,
• Collatz の「泥臭い計算問題」が
• heavy / cheap / dangerous / LP / オートマトン という
有限個の一次不等式と定数の比較問題
にほぼ還元されていることが,かなりはっきり見える。
[メモ] 証明そのものはまだ遠いかもしれないが,「何をどこまでやれば “はい,これで周期はないです” と言えるのか」というゴール条件は,すでにこの ver.1.0 の中でかなり明確に言語化されていると思う。