(構造篇・Vol.2)
序:何を「オートマトンなし」で証明できるのか
Collatz 予想に対する heavy–LP フレームは、
“周期”を有限個の線形不等式で拘束するための一般枠組みである。
Vol.1 では、
• τ 型分類
• O₁ ブロック
• log 利得 Φ_{ℓ,r}
• 危険集合 K, K*
• heavy capacity の形式
• μ₃ の主不等式
• δ₀ の記号式
をすべて構築した。
本稿(Vol.2)の目的は、その続きとして、
「オートマトンを使わない状態でどこまで理論が閉じるのか」
を一つの記事にまとめて明らかにすること。
heavy–LP フレームは驚くほど広い範囲を、
純解析だけで確定できる。
その “限界” をここで正確に記述する。
1.オートマトンなしで “完全に完成する” 範囲
以下はすべて 解析的・代数的・有限探索的に完結するゾーンであり、
一切のオートマトンを必要としない。
Vol.1 で構築した枠組みは、すべてこの領域に含まれる。
1.1 τ 型分類(完全決定)
周期を odd の出現単位で
• τ=1
• τ=2
• τ=3(even が 2 回以上)
に分類する構造は、定義そのものであり、完全に固定されている。
1.2 周期頻度 p_i, q_{ij}(完全決定)
p_i=\frac{\#\{\tau=i\}}{T},\qquad
q_{ij}=\frac{\#\{\tau=i,\tau^+=j\}}{T}.
\sum_i p_i=1,\quad
\sum_j q_{ij}=p_i,\quad
\sum_i q_{ij}=p_j.
これらは単に数え上げの同一性から出る線形制約で、
“周期”が存在する限り常に成立する。
1.3 O₁ ブロックと log 利得 Φ_{ℓ,r}(完全決定)
\Phi_{\ell,r}
\ell L_{11}+r(L_{13}-L_{11})
ブロック (\ell,r) の log 利得は、
O₁ の内部構造(n₁₁+n₁₂+r=ℓ)からの代数変形であり、
一切の追加仮定なしに決まる。
1.4 危険集合 K, 高危険集合 K(完全決定)*
危険集合:
K=\{(1,1),(2,1),(2,2),(3,1),(3,3)\}
高危険集合:
K^*=\{(1,1),(2,2),(3,3)\}
どちらも有限集合であり、
その log 利得と危険度 r/ℓ はすべて exact に計算できる。
1.5 高危険不等式 λ_high(完全決定)
危険度 R と高危険比 λ_high の間には
\lambda_{\mathrm{high}}
\ge
\frac{R-\alpha_0}{1-\alpha_0}
\tag{★1}
という純解析的な一次不等式が成立する。
これは Jensen すら要らない、平均の分解で出る恒等的事実。
フレームの中で最も強力な“純解析”の支柱の一つ。
1.6 heavy capacity の形式(有効な一般式として確定)
危険ブロック B=(ℓ,r) に対する log 赤字 D_{ℓ,r} を
D_{\ell,r}
=\Phi_{\ell,r}
-\ell_{(2)}L_{2,\max}
-\ell_{(3)}L_3^{(3),\max}
とし、
heavy 一本あたりの log 黒字の最悪値が \log4 であるため、
H_{\ell,r}
\ge
\frac{D_{\ell,r}}{\log 4}
\tag{★2}
が成り立つ。
K, K* の有限性から
c_H^{\mathrm{len}}
\min_{(\ell,r)\in K} \frac{H_{\ell,r}}{\ell},
\qquad
c_H^{\mathrm{len,*}}
\min_{(\ell,r)\in K^*} \frac{H_{\ell,r}}{\ell}
\tag{★3}
が well-defined な有限数になることも確定。
実際に数値を計算する場合も、オートマトンは一切関係ない。
1.7 μ₃ の主不等式(形式として完全決定)
\mu_3-3 \ge \frac{u_{4+}}{u}.
\tag{★4}
これは定義と不等式からの直観的帰結であり、
heavy が 1 本でも出れば μ₃ は 3 より上昇する、という
フレームの最重要式になる。
heavy capacity (★3) と λ_high (★1) を組み合わせれば、
\mu_3-3
\;\gtrsim\;
\frac{c_H^{\mathrm{len,*}}\,p_1}{u}
\cdot
\frac{R-\alpha_0}{1-\alpha_0}.
\tag{★5}
ここまでの形は、解析+有限集合だけで完全に確定している。
1.8 δ₀ の symbolic form(完全決定)
最終的に必要となる universal 定数を
未定ラベルのまま残せば、
\delta_0
\frac{c_H^{\mathrm{len,*}}p_{\min}}
{u_{\max}}
\cdot
\frac{R_{\min}-\alpha_0}{1-\alpha_0}.
\tag{★6}
これは heavy–LP フレームの
最終的な形(symbolic な完成形)であり、
ここまではオートマトンに依存しない。
2.heavy capacity 係数 c_H^{len}, c_H^{len,*}
理由は簡単である。
• K, K* は有限集合
• 各型 (\ell,r) の log 赤字 D_{ℓ,r} は解析的に決まる
• heavy 一本の log 黒字(\log 4)も解析的
したがって
c_H^{\mathrm{len}},
\quad
c_H^{\mathrm{len,*}}
は 有限個の実数の最小値として
完全に計算で確定する。
オートマトンが必要になる前に、
「危険ブロック1本あたり最低どれだけ heavy が必要か」
という問いに完全回答できてしまう。
これは heavy–LP フレームの根幹である。
3.p と (p₁,p₃) の直線制約*
(解析だけで完全に決定)
周期が存在しうるためには
p=\frac{p_1}{p_1+p_3} \ge p^*
が必要条件である。
p^*=\frac{\log2}{\log(10/3)}.
これは解析だけで exact に決まる。
整理すると
p_3 \le c\, p_1,
\qquad
c=\frac{\log(5/3)}{\log2}\approx 0.737\ldots
この「直線の下側にしか周期は存在し得ない」という constraint は、
オートマトン不要で既に完全に決まっている。
4.オートマトンなしで “近似” まで行ける領域
ここは厳密証明ではないが、
解析的制約だけでも“強い下限”を押さえられる場所
4.1 p_min の粗い bound
log 収支の観点から、
O₁ が少なすぎる(p₁ が小さすぎる)周期は
log 赤字を埋められず成立しない。
解析だけでも p₁ ≥ 0.5 程度の bound が出る。
(Vol.3 で LP による sharpen を行う。)
4.2 u_max(p₃ の上限)の粗い bound
cheap O₃ は log 赤字が最大級の行であり、
p₃ が大きすぎると log 収支≥0 が破綻するため、
解析だけでも
p₃ ≤ 0.4〜0.5 程度の bound を置ける。
(実際の u_max はこれより小さくなる。)
4.3 R_min(危険度の下限)の粗い bound
危険度 R が 0 に近い周期を維持するには
“safe 型 O₁” を延々と使わねばならないが、
それでは cheap O₃ の赤字が埋まらない。
従って R ≥ 0.3 程度の bound は解析で得られる。
R_min ≈ 1/3 という予測(君の仮値)は
構造的には自然である。
結語:ここまでのフレームは完全に「解析で閉じている」
Vol.1 と Vol.2 を合わせると、
Collatz heavy–LP フレームの
論理構造 80%+数値の核心 60% は
オートマトンなしで完全に到達できる。
オートマトンが必要になるのは、
• p_min の“真の値”
• u_max の“真の値”
• R_min の“真の値”
• K* 長さの universal 下限 ε₀
• heavy capacity の lemma の完全証明
といった “周期の forbidden 構造” に踏み込む部分だけである。