ADVブームは再来するのか?『逆転検事』などのADVの販売が好調 | アドベンチャーゲーム研究処

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【Pick-UP! Game News】

『逆転検事』などADVの販売が好調。第二のADVブームは起きるのか!?



今週一番気を惹いたニュースは、やっぱり17.3万本という
歴代初動2位となる初動を記録した『逆転検事』の売り上げ。
この好調に後押しされてか『スローンとマクヘール』『ひぐらしなく頃に絆』なども堅調で、
ここ1年間は、真冬の様な冷え込みが続いたADV市場に一筋の光が差してきた。
冬が明ければ春が来る。…のに期待して逆転裁判と07年に起きたADVブームの話をば。

今となっては超優良ブランドにまで成長した『逆転裁判』シリーズ。
なのだが、初代の「逆転裁判」はなんと7人のチームで制作された小規模作品で、
しかも当時のGBAで売れ線だったのは「子ども向け作品」だったため、
ミステリーADVという対象年齢が高めのジャンルの起用を内部で反対する声もあったらしく、
広告展開はかなり小規模となり、その変わりに独自の広報活動を行っている。
その結果販売数も、約6.2万本と新規作としては好成績を収めた。
とは言っても今の実績と比べれば、1桁ぐらい差があるのだが…。

初代『逆転裁判』は、完全に口コミで広がったタイプなのだが
品薄や中古、新規作という不安定さからそれほど伸びなかったため(といっても初動率38.5%)
販売的にユーザーからの評価が表面化したのは、続編である『2』からだった。
(なにせ、「1」から「2」で倍以上売り上げが増えている)
この口コミによる大躍進はそのまま「3」へと好調は繋がり、
『逆転裁判』シリーズは見事ブランド作品へと成長していった
…のだが、この当時発売されたADVはその好調の恩恵に預かれていない。

では、『逆転裁判』を切っ掛けとしたADVブームは一体何処で発生したのだろうか。

今は珍しくもないが、当時としては画期的なネットでの体験版公開がそれ。1話分をそのまま体験できる超太っ腹な体験版で、初代のスマッシュヒットをアシストした。“埋まってゆく傑作”はゴロゴロあるゲーム業界の中で「まず触って貰うこと」、そして「面白さを実感して貰うこと」という二つハードルを見事にクリアし、“売れる傑作”に成れたのもこれが一つの要因。『逆転裁判』というゲームの秀逸性に言及されることは良くあるが、この広報活動も隠れた『逆転裁判』の秀逸な部分だったと言えるだろう。

GBA時代から既に布石は存在していた?



携帯機におけるADVブームを考える上で、
非常に興味深い数字を残しているのが、この『研修医 天堂独太』。
DSのローンチ(同時発売)作品で初週1.75万本と並程度の動きだったのだが
累計では、伸びに伸びてなんと約7.68万本という数字を叩きだしている。
この数字、地味に初代『逆転裁判』をも上回っていて
ノーブランドの新規作品としては驚異的と言って良い売り上げと言って良いだろう。

勿論、この好調はローンチ需要を独占した関係もあるとは思われるのだが
『天堂独太』自体は評判がかなり悪く、値崩れもあったのに関わらずこの好成績を納めたのは
『逆転裁判』代換需要がかなりあった、と考えることが出来るのではないだろうか。
(関係ないが『采配のゆくえ』の売上げが微妙だったのもこの件が尾を引いてる様な気がする)
またこの『天堂独太』以外でも、DS初期に発売されたアドベンチャーゲームは
『アナザーコード』『THE鑑識官』『癸生川探偵事件簿』など
興行的な成功作や、スマッシュヒットタイトルが存在している。
(まあ『癸生川』の場合は、シナリオライターの移籍などで消えてしまったが)

この点から考えればDS立ち上げ時から、
携帯機のADV層(=逆転裁判でADVに入った層)というものがある程度存在していたと憶測でき、
ここから、実はGBA時代既に『逆転裁判』シリーズによって携帯機ADVの需要が高まっていたのでは
……という仮説を立てることが出来る。
『逆転裁判4』『西村』『ウィッシュルーム』などの大ブレイクによって発生した
DSにおける07年ADVブームへの基盤は、この時点で出来上がっていた、という訳だ。
しかしそう来ると「では、何故GBA時代に表面化しなかったのか
そして「何故DSから突然ADVが活発化したのか」という疑問も生まれるだろう。

ブレイクしない理由。した理由。

ではまずGBAでADVがブレイクしなかった理由を考えてみよう。
いきなり結論だが、これは単純に発売されるADVが少なかった事が原因だろう。
当時は携帯機ADVは殆ど“無い”と言って良いほど作品は投入されておらず、
上の方で書いたとおりGBAは「子ども向け」が売れ線だったためか、
仮にGBAでADVが発売されても発売されず、出てもキャラゲーが主だった。
実際、今になって当時のGBAのソフトスケジュールを見直してみると
『逆転裁判』のブレイク時に発売されたオリジナルADVは
『ZERO ONE』と『彼岸花』ぐらいしか見あたらない。

つまり、DSにおける『天堂独太』の様な明確な「2匹目のドジョウ」狙いの作品が登場せず、
また、流れに乗れそうな本格的な作品も携帯機には登場しなかった結果、
「逆転裁判」による一人舞台という事態がGBA時代に発生していたと思われる。
それに加えて、当時のADVのメインプラットフォームはまだまだ据え置き機が中心だったため
影響が出ても据え置き機の作品中心で、携帯機から殆ど需要が流れなかったのも一つの原因か。


確か、小説版『弟切草』の続編をゲーム化した作品(チュンソフトは制作していない)。据え置き機・携帯機・ケータイアプリで発売されたが、どれもデキは散々な物で興行的にも失敗したらしく、続編は出なかった。恐らく長坂秀佳の手がけたサウンドノベルでは最後の作品。

次に「DSから突然ADVが活発化した」理由について考えてみる。

この点を考える場合は、DSで展開された『逆転裁判』の販売傾向を見ると手っ取り早く、
実はGBA版の移植を行ったDS版が、オリジナルであるGBA版が記録した版倍数を全て上回っている。
これはDS版が廉価で発売された、という事実を考慮しなければならないのだが、
移植作品、そして『蘇る逆転』以外の追加要素が英文モード追加だけという事を考えれば、
低価格と評判の良さが後押しした結果、DS版をライト層が購入するという流れ生まれ、
第二の『逆転裁判』ブランドの成長が、移植という気づかれない部分で行われていたと推測できる。
そしてその成長が、他のADVにも目立たない程度波及していった結果、
DSのADVが活発化する土台を築いていった…と考えられるだろう。

これら2点を考えると、
07年のADV大ブームはGBAから熱心に支持していた携帯機ADV層、
廉価に登場した『逆転裁判』でつかんだライト層が、
最新作「4」の登場(と、それに伴う2本目3本目需要の発生)と、
DSそのものの好調が後押しによって、ADVというジャンルそのものを大きく動かした。
という流れが07年にADVブームが発生した背景であったと、私は考えている。


『蘇る逆転』は通常版と廉価版で、これまた倍以上販売数が伸びていて、廉価版の初動率に関しては脅威の4.28%を記録している。『逆転裁判』ブランド第2のブレイクは、見えない部分で起きていた。

結論

では再びADVブームは再来するのだろうか?
答えは、正直言うと「難しい」と私は思う。
なぜ難しいかと言うと、『逆転裁判1~3』が発売された当時と比べ、
今のゲーム業界で発売されるADVの数が、あまりにも多すぎる点。
そもそも『逆転裁判』で育ったライト層は、DSから離れてしまったり、
『レイトン』なりなんなりの別作品に移ってしまった点。
などなど、多くの状況的な問題点を抱えているからだ。

いや、ひとつひとつの問題点は解決できるかもしれない。
しかし少なくとも市場全体でクオリティーコントロールが出来るシステムや、
粗製品が売れない(あるいは、全体が売れ続ける)状況にでもしなければ、
仮に再燃したとしても、前と同じ事を繰り返すだけなのは間違いないだろう。
(この点は低予算でも製作可能なADVの特性が裏目に出ているとも言えるのが皮肉だ。)

現状でこれらの問題を解決する方策はない。
となると、静かに、そしてゆっくりと、一部の作品以外が元のニッチ市場に規模縮小していく
…そういう展開が恐らく今後のADV市場に訪れるのではないだろうか。
結論としては、無策な粗製品は駆逐され、売りのある良性が残る。
オーソドックスな市場原理に則ったステレオタイプな結論かも知れないが、これが私の予想だ。
なに、この予想を悲観する必要はない。
その状況は以前の“何も出ない”市場より、そして今の“出過ぎている”市場より、
ユーザーにとってはずっと快適なのは間違いないのだから。

【コメント】
書いてるうちに、書きたいことがどんどん増えてとんでもない量に。
長く成りすぎたのでPick-UP! から企画記事に変更してしまった。
記事的にまとめが弱いのが、とても気がかり。