【概要】
前世代機からマルチプラットフォーム化が進んだうえに、国内市場の主戦場だった携帯機も3DSからSwitchというハイブリットハードへ移行、PSVitaは撤退してしまった関係で、ある程度知名度のあった中規模シリーズも現行世代でプレイするのが困難となりつつあるため、そういった過渡期で遊ぶのが今後さらに難しくなりそうなシリーズを今のうちに偲んでおこうという記事です。
ルール的にはPS4以降のハードでシリーズ最新作が遊べない、くらいでよろしくお願いします。
喪われつつあるのはこのブログだろって?ははは、確かに。
【プレイ環境が喪われつつあるアドベンチャーゲームシリーズを偲ぼう】
『サウンドノベルシリーズ』
初出:『弟切草』(1992年3月7日)
最終作:『かまいたちの夜 輪廻彩声』(2017年2月16日)
厳密には『428 封鎖された渋谷で』がPS4・Steamで発売され定期的にセールもされているので、シリーズへのアクセス自体は難しくないんだけども、そのほかのシリーズ作は全部まとめて現行機で遊ぶ方法が存在しない。特にマスターピースであり最も高い知名度を誇った(=商業的なハードルをクリアしやすい)『かまいたちの夜』が現行機で一切遊べない、というのはかなり厳しい状況だろう。
プレイ環境が整わない要因は、ちゃんとした新作を出していた90年代~00年代は、SFC~PS3というファーストパーティがアーカイブスをほぼ放棄している期間と丸被りしている影響ももちろんあるが、リマスターなどで再販をかけても、そもそもノベルフォーマットが氾濫しすぎて、金をかけてるわりにサウンドノベルとノベルゲームでの違いが伝わりづらい、というのが大きいかと思われる。そもそもサウンドノベルは当時流行っていた角川ホラーや本格ミステリが母体なので、キャラクターが主軸になっている現在のADV市場とニーズとかみ合っておらず、その辺は元チュンソフトのADV文脈が海外で評価・セールスを得ている打越鋼太郎ディレクションシリーズに合流している現状から見ても社内の立ち位置が何となく想像できるところではある。
サウンドノベルと言えば、分岐による体験軸はもちろんのこと、テキストと同期した多数のカットや臨場感を高める音響など、しっかり予算を組んだ演出による没入感、というのがアイデンティティにあるわけだけども、最終作となっている『かまいたちの夜 輪廻彩声』はリメイク元の『かまいたちの夜』の骨格は同じものを使いながら視覚的な演出はスケールダウンしたものとなっており、シリーズとして存在意義が認められるレベルのカネを角川書店が出す気がないというのも、期待感を削ぐ一因か。
つまり私が言いたいことは、「新作はもう無理なんだろうけど、商業的なミッションこなせるだろうから『かまいたちの夜』トリロジーパックを出してください」ってことですね。
『MISSING PARTS THE TANTEI STORIES』
初出:『MISSING PARTS PARTⅠ』(2002年1月17日)
最終作:『MISSING PARTS the complite』(2012年11月29日)
DCで発売され、『クロス探偵物語』や『シルバー事件』と同じく売れなかった良作として知られた『MISSING PARTS』シリーズも、最終移植がPSPなこともあってプレイする環境が消失していくソフトのひとつと言えるでしょう。
開発元だったF.O.G.は宗清社長の逝去に伴い日本一ソフトウェア傘下→解散でソフトハウス内のブランド化してしまっており、シナリオも完結しているので続編的な作品の可能性は限りなくゼロとみられる。そもそも、後継作としてスタッフが共有している『一柳和』シリーズ(こちらもプレイ環境が消失しているけど、『MISSING PARTS』より優先される可能性は低い)があるため、メーカーも続編は不要と判断をしたと言える。
現行世代への復刻については、日本一ソフトウェアが自転車操業移植に積極的なメーカーでPS2~PSP世代だった『流行り神』をつい最近リマスター化しており、(新川社長は辞めちゃったけど)経営陣も宗清社長と親交のあった世代が残っているので作品として消失してしまう現状を鑑みて候補に挙がってくる可能性はあるかと思われる。知名度はあり一定数のファンもいるシリーズではあるけども、そのファンが多く見積もっても(発売日に定価で買うとなると)2~3000人くらいなのがリマスター化最大のネックか。
トムキャットシステム開発シリーズ(『THE推理』『THE鑑識官』)
初出:『SIMPLE1500シリーズ Vol.59 THE推理 〜IT探偵:18の事件簿〜』(2001年4月26日)
最終作:『SIMPLE DLシリーズ Vol.23 THE 鑑識官 〜File.2 緊急出動!落ちたホシを追え!〜』(2013年11月27日)
『黒後家蜘蛛の会』を下敷きにした短編ミステリの『THE推理』と、それを中編化させていった『THE鑑識官』、世界観を共有した作品も展開されたこのシリーズも3DSへの『THE鑑識官DS』移植に付属された追加エピソードが最終作。低価格帯で構造的に込み入ったことはしていないカジュアルかつ気軽なADVであることが売りだったんだけども、短編ミステリ(というより推理クイズ)っぽいカジュアルゲームというジャンルはスマホとSwitch向けにフリー~低価格帯で発売されており、それらと比べればシナリオやキャラクターの強度は当然こちらが上ではあるものの、商業的なアイデンティティはかなり奪われていると思われる。
開発元のトムキャットシステムズも大久保社長の逝去に合わせて解散済みで、同じテイストの作品は生まれ得ない状況となっており、クリエイティブ・商業両面でかなり不利な状況となっているのは間違いないが、かつてパッケージが5万本規模を捌いた実績はあるので、「探偵・癸生川涼介」がリバイバルされたように世代が一周すれば復活の目はないこともない気もする。肝心な作家性(=代替のなさ)が薄めで、販売元のD3パブリッシャー自体がSIMPLEシリーズをテーブルゲーム以外は放棄している現状、アーカイブスコレクションみたいな感じでサルベージする気があるか?というと、今はなさそうだけどね。
『トワイライトシンドローム』シリーズ
初出:『トワイライトシンドローム 探索編』(1996年3月1日)
最終作:『トワイライトシンドローム 禁じられた都市伝説』(2008年7月24日)
90年代中盤~後半に発生した学園オカルトブームに乗る形で、日常の延長線上に都市伝説を捉えた「肝試し系ホラーADV」として登場した『トワイライトシンドローム』シリーズも、最新作である『禁じられた都市伝説』に至るまでパッケージ以外で展開したことがなく、関連作品を含めて値段は軒並み高騰、プレイ環境を整えるのも年々難しくなっている。初代ディレクター(須田剛一さんはこの人の後任)が自身の手がけた過去作に権利主張をしている関係で、特に初期作は再販が絶望視されているものの、このシリーズの最後の商品展開はネットで遊べるパチンコ台(2011~12年)で比較的新しめなこともあり、『トワイライトシンドローム』というIPの権利はスパイクチュンソフトが持っていると思われる。シリーズとして停滞したのはスパイク以降の作品は評価が低く、最盛期は30年近く前でファン層も高齢とくれば、商業的な理由で新作を出す判断には繋がっていないと予想するのは容易でしょう。(チュンソフト込みならJホラーIPは『弟切草』も所持してるわけだしね…)
ただ、『トワイライトシンドローム』にしろ『夕闇通り探検隊』にしろ、今プレイするとテキストや設定よりロード時間や演出のテンポ感に明らかな時代遅れが生じており、アーカイブス的な再販よりも初代をベースにしたリブート的なものの方が作品的な意義はあるんじゃないかと思われる。思われるけども、やっぱり権利関係がね…。
この作品は等身大なティーンエイジャーと日常感覚への拘りが、ホラーとしての現実感を強める効果があったので、現代的な設定に置き換える違和感より、そこを突き詰めることができるのか?という点が再商品化では最大のネックであり、それこそ『再会』以降の低評価の要因でもある。直近ではインディーズでも一応その手のアプローチはあるんだけど…とりあえずこの記事を見て、そして貴方が感じたこと、それがすべてだと思います。
『SCEパブリッシングゲーム』
シリーズじゃないんだけども、前世代機のファーストパーティ関係では最大のトピックというか、現状として新作・再販ともに期待感ゼロな状況なので…。
SCEと言えばPS~PS2時代の『やるドラ』系譜やPSPでの『銃声とダイヤモンド』『遠隔捜査』『トリックロジック』などADVを一定数出していたメーカーだったんだけども、今はそういった「日本市場で採算をとるのが前提のソフト」は一切出ない状況となっている、のは周知のとおり。原因はPSVita失敗に伴い日本向けソフトのパブリッシング事業をほぼ撤退したことで、2016年にSCEからSIEとなったタイミングで本社機能がアメリカへ移管したのもあって、今のSIEにとって日本市場は「市場のひとつ」であっても「その市場に特化したソフトを出す対象」とはなっていない。まあこの辺りは、PlayStation Japanスタジオを閉鎖(名目的にはTeamASOBIに統合)したり、ローカライズの仕様を統一するために日本文化として定着している決定ボタンのUIを変更したり、最初にユーザーに情報を届ける自社広報が英文の翻訳したものだったり…なんてことが平気で起こったりしている以上、SIE側が何を発信しようと「日本軽視」の言い逃れはしようがないでしょう。
ファミ通で卒業記事が出る程度にはPS~PSPの頃の人材は退社済みで、日本向けのソフトメーカーとしての機能は殆ど残っていない(主導したジム・ライアンが社長を辞め日本人社長になろうとも、そもそも人材も文化もなくなってしまっているので、何かするとしてもコンソールに出戻りしたあとのコナミみたいな再出発をすることになる)ため、SCE時代の日本発の作品は、『ロコロコ』や『パタポン』のようなかつて国際的に評価されたものを除けば、会社内では過去資産以下のIPとされていると思われる。PS4前期・PSVitaまでは日本に向けて展開していた関係で、Vitaのオンラインショップが機能している限りはプレイ環境が整えられるのが唯一の救いだが、いつ終わってもおかしくないだけに確保したい人は早めにDLしたほうがいいかもしれない。
SCE時代のADVって出来自体はだいたい佳作範囲のものしかないんだけど、ソフトラインナップの充実というミッションも担っていたのである程度の予算感の企画がそろっていて、システムは真似れても大きな予算は割けないインディーや採算性を優先してしまうサードパーティーではカバーできない企画力はあったんだよね。特にPSP時代の『銃声とダイヤモンド』と『TRICK×LOGIC』は復刻の価値あり。表面的な演出ではなくゲームプレイに食い込んだ演出の没入感や、作家を招いた本格的なパズラーとしての推理体験(『春ゆきてレトロチカ』はここが致命的にダメだった)は時代を超えた希少性ありだと思う。
【コメント】
喪われている意味では、CSよりもPCの(エロ)ゲームの方が深刻ではありますが。
パックスソフトニカ系では何度も復活し続けていた『ふぁみこん昔話』は、
任天堂がSwitch世代のアーカイブスにADVを入れる気ないようなので
今回の候補になりかけましたが、
ネタがなくなったら突然入れてくる可能性もないことはないかなと思ったので省きました。