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今年の新入生ゼミナール その3

九、 小説『12人の浮かれる男』
1. 概要
筒井康隆著。1975年出版。
題名からわかるとおり、『12人の怒れる男』のパロディである。
部屋が熱かった『怒れる』に対して、この小説の書き出しが「寒くて仕方ない」ということからわかるように、全て映画の逆になっている。
陪審制度が再開され、その第1回目の裁判という想定であり、明らかに無罪であり、アリバイの証明も完璧にできているのに、「マスコミから注目されている第1回目の裁判だから、意外な評決を出して世間を驚かせたい」と、無理やり有罪評決を出そうとして、最後まで抵抗した小学校教頭まで弱みを握っている他の陪審員が脅迫して有罪に変えさせたり、陪審員の一人が被告人の妻を脅迫して関係をもったという出来事まで自慢げに語られる。
2. 感想
「裁判員制度は汚職を指摘されるまでの教頭のように良心と正義感を全員が持って臨まなければ個人的な感情によって被告人の一生が決まってしまうという、悲劇を生むだけである。裁判の民主化、迅速化などの目的を達成することが第一だが、そのためには国民に正しい情報を公開し理解を得ることが不可欠である。単に他言禁止などの罰だけを強調するのではなく、制度の目的や内容など、全てにおいて理解を得て、信頼を得ることが必要だ。2009年からじっしということになっているが、理解が得られるのに時間がかかるようなら、もっと遅らせてでも完全な裁判院制度とすべきである」等。

十、 ヴィデオ教材『12人の優しい日本人』
1. 概要
1991年 中原俊監督 三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ脚本
これも有名な『12人の怒れる男』のパロディで、人気劇作家・脚本家の三谷幸喜氏(私も大ファンで、彼を知った1995年以降の舞台は日本にいるかぎりほとんど観ている)が、所属していた東京サンシャインボーイズ(解散、というか、2024年に梶原善主演『リア玉』で老境サンシャインボーイズとして再開することが約束されているらしいが)のために書いて上演した舞台劇が原作の映画である。三谷氏の得意とする、密室におけるシチュエーション・コメディの真髄ともいえる作品で、「日本人論」としても秀逸である。俳優陣も舞台出身者が多い。
2. ストーリー
日本に陪審制度があるという前提で、21歳の若い女性がだめ亭主に愛想をつかして離婚し5歳の子供を育てていたが、元夫にしつこく復縁を迫られて、トラックに突き飛ばして殺害したという容疑をかけられた事件を評議する。
『12人の怒れる男』と違い、全員無罪で評決をすぐ出そうとしたところ、2号陪審員が「もっと話し合いましょう」と主張し、有罪に意見を変える人を増やしていくが、その過程で事件の全容が明らかになり、結局は無罪の評決になるが、2号陪審員は『怒れる』の3号と同様私情で意見をいっていたことが最後にわかる。
「殺してやる」という『怒れる』のキーワードが、ここでは「死んじゃえ!」でしかも「ジンジャエール」の聞き違いだったり、『怒れる』ではナイフが証拠品だったがここでは宅配ピザが証拠品として注文される等、細かいパロディも面白い。
議論べたな日本人が陪審員をしたらどうなるかということが、「いるよね、こういう人って」という細かいエピソードの積み重ねで描かれ、非情に興味深い。
3. 陪審員の構成
号数 有罪に変える順番 性別 職業 俳優(舞台歴) その他情報
1 9 男 体育教師 塩見三省(つかこうへい作品で活躍) 陪審長。4年前に死刑評決を出した経験を引きずっており、無罪を主張
2 1 男 会社員 相島一之(三谷組) 自分を捨てた妻を被告人に投影し有罪に固執
3 8 男 喫茶店経営 上田耕一 甘栗を配ったり飲み物の注文をとったり投票用紙を作ったりと世話好きだが、意見は言わない。争い事が大嫌いで皆の議論に耐えられず途中で帰ろうとする。
4 男 二瓶鮫一 「フィーリングで無罪」と主張し続ける。
5 3 女 中村まり子 記録魔で何でも細かく記述しているキャリアウーマン風だがアルトマンに登録しており結婚願望はある。
6 7 男 会社員 大河内浩 会社に早く戻ることしか考えていない。ダヨーンおじさんの落書きをしていて叱られる。
7 10 男 会社員 梶原善(三谷組) 自分と年や境遇が似ている被害者が美人の被告人と結婚してヒモになる等女性にもてたことに嫉妬し「死んで当然」と無罪を主張
8 6 女 主婦 山下蓉莉枝(夢の遊眠舎出身) 3歳の男の子の母親。優柔不断。
9 2 男 歯科医 村松克己(劇団黒テント出身) 仕切りたがり屋。議論自体が盛り上がることを目的として意見を変える。何かと5号につっかかる。
10 11 女 林美智子 2号を「心が捻じ曲がっているからそんな想像をするのだ」と優しげにいい無罪を主張。
11 5 男 俳優 豊川悦司(劇団3○○出身) 初め無関心で、「どうせ有罪にしても執行猶予がつくんだから無罪にしましょう」と提案したりしていたが、無罪派が負けそうになった時「弁護士だ」と嘘をついてサポートに回る。
12 4 男 加藤善博 証人を「おばさん」呼ばわりし偏見をもつが、被害者自殺説を打ち出す。
4. 学生の感想
「『怒れる』では、誰もが意見をいうときは論理的な根拠をいっていたのに、『優しい』は、フィーリング、かわいそう、人を殺すような人には見えない、等情緒的・感情的な理由しか言えない人が多かった。また、意見を変えた人を裏切り者扱いするのも日本人特有なのかなと思った。それはある意味危険なのでは。」
「『優しい』の優は優柔不断という意味なのかと思うほど、優柔不断な人が多い」
「『怒れる』と共通の問題としては、2号や7号のように、私情で意見をいう人がいるということ、これは裁判員候補者に質問してもなかなかわからず、避けられない由々しき問題なのではないか」
「4年前に死刑評決をした後、現行犯で冤罪の可能性はないのに、被告人の顔がちらついて仕方ない、もうそんな思いはしたくないから無罪、という1号の感情に非常にシンパシーを感じる。同じ理由で裁判員は極刑を出さなくなるのでは」という意見が多数あった。

十一、裁判員制度対案発表
以上の学習を踏まえて、3つの班それぞれに自分たちが裁量と考える裁判員制度対案について発表させ、互いに以下の点について評価させた。
項目
1 裁判員制度として良い案を提案したか
2 法案やアメリカの制度との対比はわかりやすかったか
3 授業で使った教材を上手に利用していたか
4 プレゼンテーションはわかりやすかったか
5 チームワークが良かったか(みんなで協力し、負担が偏らないように配慮した等)
合計点

以下は、総合点の最も高かった班のレジュメである。
【合議体の構成】
裁判官1人、裁判員6人で審理する。
  ・ビデオ教材のような12人の陪審より、もう少し少ないほうが議論しやすい
  ・裁判官3人では、普通の市民である裁判員が裁判官の意見に流される恐れがある
  ・裁判官3人の意見が一致したときに、裁判員がそれに異論があってもそれを唱えることは容易ではない
筆者注:人数比は3班とも同じ
【裁判員の権限】
事実認定のみを行う
(法令の適用、量刑は裁判官が行う)
  ・量刑まで行うのは、裁判員にとって責任が重過ぎる
  ・裁判員は、法令、判例知識がないので、適当な量刑まで正しく判断できない
筆者注:事実認定のみとしたもう1班ともに、『12人の優しい日本人』の1号陪審員の死刑評決後の後味の悪さに配慮し、量刑に参加しないことによって心理的負担を軽減しようとしている。
【評決】
原則全員一致 但し、議論が尽くされたと裁判官及び裁判員の3分の2以上が判断した場合には過半数による評決を認める
  ・多数派が常に正しいとは限らないのに、過半数とすると十分な議論が行われないまま評決が確定してしまう恐れがある
  ・議論が尽くされ、ほぼ全員が納得しているにもかかわらず、1人や2人が私情を理由にいつまでもかたくなに意地を張っているために評決を出せないということがあってはならない
  ・但し、裁判官は少数意見も考慮に入れた上で量刑を判断すべき
筆者注:他の班から「なぜ過半数を決めるとき裁判官が賛成しないといけないのか」と質問が出たが、DVD教材等で、みんなが無罪または有罪ということで話し合いもしないですぐに解散しようとしたとき、「もっと話し合った方がいい」という意見がいえるのは職業裁判官だと思うから」という説明がなされた。
【選任】
20歳以上の有権者の中から無作為に選んだ候補者を呼び出し、質問手続きを行う。
  ◎質問手続きでは、被告人の情に流されない、強く公平な意思があるかどうか、過去に事件に関するような出来事に関わっていないかどうかなどを質問し、公正な裁判を行うために厳重な裁判員の選定を行う

【裁判員・裁判員候補者の義務・責任】
・裁判員候補者は裁判所に出頭。正当な理由のない不出頭や質問への回答拒否、虚偽回答は罰金の対象
  ・過料ではなく罰金とすることで、より罪であることを自覚させ、責任を持って裁判員としての義務を果たすよう促す

・裁判員は期日に裁判所に出頭。宣誓し、評議で意見を述べる


・裁判員は関係者のプライバシーや合議体のメンバーの意見を一定期間内他言禁止。違反した場合には罰金
・裁判員は生涯事件関係者(被告・被害者・その家族等)への接触禁止。裁判員の立場を利用し、脅迫行為をした場合は懲役
  ・裁判員は無作為に選ばれた市民であり、事件後も生涯にわたって、守秘義務を守らなければならないことを辛く、また負担に感じてしまう人もいる
  ・その上懲役というのは、うっかり言ってしまったり、どの程度まで守秘義務があるのか判断できないまま話してしまったりしたときに懲役は重過ぎる刑である
  ・『12人の浮かれる男』の中で、被告人の妻と接触した者がいたが、その行為は許されるべきではなく、厳重に対処しなければならない

・裁判員は収賄罪の適用対象

【裁判員の保護制度】
・任務のため仕事を休むことによる解雇などの不利益な取り扱いの禁止
・任務のため、仕事や仕事以外でも何らかの損害を被る場合には、辞退を認めるか、国が相当額の補償をする
・裁判員には報酬を支払う(日給8,000円)
  ・教材の中で、評議の最中に時間を気にする場面がいくつか見られたが、評議に集中できるよう、裁判員の受ける不利益を出来る限り考慮し、保護すべき
・裁判員の氏名、住所など個人を特定できる情報は非公開。裁判後も本人が同意しない限り同様


・裁判員、元裁判員への事件に関する接触は禁止。元裁判員には職務上知り得た秘密を知る目的での接触も禁止
  ・取材・報道の方法として、プライバシーの権利を有する個人から情報を得るのは不適切
・殺人事件などの犯罪事実は、国民も関心があり、マスコミは報道すべきだが、裁判員についての情報は、マス・メディアのネタの対象にはなり得ない

【裁判員になれない人】 ※法律家を除くべきかどうか
判事・弁護士・大学の法律学の教授等、法律関係者は裁判員になれない
  ・法律の知識を持たない一般の裁判員が、法律家の意見に引きずられる可能性がある
・ 法律家を裁判員として認めると、裁判官が増えたのと同じことになる。
筆者注:この点は、大学の法学教員でも、一律禁止にせず、個別に選定する際刑法に特に詳しくなければ認める等すべきであるという班もあった。

さらに、裁判官の官僚化により行政訴訟で原告が勝てないことが多いから、行政訴訟には裁判員を入れたほうがいいという提案をする班があった。

十二、最後に
はじめは、1年生でしかも半分は経済学科の学生には難しすぎるテーマかと思ったが、対案を見るとかなり多くのことを学習してくれたようで、また、最初に「マイナス思考」という消極的な学生が多かったが議論を通じて意見を積極的にいうようになり、教師冥利に尽きる幸せである。
なお、本稿執筆時点ではまだ入手できていないが、陪審コンサルタントの腕次第で裁判の結果が左右されるというアメリカの訴訟社会の闇の部分を描いた『ニューオーリンズ・トライアル』(2004年ゲイリー・フレダー監督、原題Runaway Jury)のDVDが入手でき次第、教材として使う予定にしている。

以上

今年の新入生ゼミナール その2

七、 DVD教材『いとこのヴィニー』
1. 概要
原題My Cousin Vinny 1992年米国映画、Jonathan Lynn監督
コンビニ強盗の冤罪で逮捕された若者二人が、弁護士になって間もないいとこのヴィニーの失敗だらけの弁護により、何とか検察官による起訴の取消にいたるまでを、さまざまなエピソードや伏線をとりまぜながらユーモラスに描いているが、前記六、2.の米国刑事裁判手続の流れを知る上で格好の教材である。
2. 映画を見ながらの解説
米国法を学習する上で良い材料となるシーンがふんだんにあるため、その都度映像を止めて解説(以下詳述)した。
(1) NYの若者二人(ビル(『ベスト・キッド』のラルフ・マッチオが演じている)とスタン)がUCLAに入学するために、ドライブを兼ねて車で南部を通ってロスアンジェルスに移動する途中、アラバマ州のコンビニで食料品の買物をしたが、ビルが両手が塞がっているためポケットに入れたツナ缶の清算を忘れていたことを、車でコンビニを離れてすぐに気づいた。伏線として「アラバマ州の死刑執行年齢は10歳から」という会話が出てくる。
→ここで、米国の連邦制度について説明。連邦法と州法のカバーする範囲について解説し、刑法についても、州ごとに全く違い、死刑廃止した州もあるが、アラバマは死刑制度を残しており、しかも厳罰主義であるようだ。
(2) 後ろから追ってくるパトカーに止められ、二人は逮捕されてしまい、Line upが行われる。
→Line upについて説明。
(3) 取り調べられるが、黙秘権を主張するか保安官に尋ねられる。
→ミランダ・ルールについて解説
(4) 二人はツナ缶の万引のことと誤解し、「罪を認め協力します」といってしまう。保安官に”You shot the clerk”といわれて初めて、ビルは冤罪事件に巻き込まれたことに気づく。
→ビルが驚いて”I shot the clerk?”と何度も保安官に尋ねる場面が、肯定文がそのまま疑問文になっているのに、字面からは自白のように見えるのでこれを自白として扱われてしまうことを説明。
(5) ビルは電話でNYの母に助けを求め、いとこのヴィニーが弁護士になったことを聞き、弁護を依頼することにする。
→この時の電話の会話で「弁護士費用は50ドルから10万ドル」という科白があり、弁護士の腕次第で報酬に大きな差があることを説明。また、スタンの「南部の連中はKKKや近親相姦ばかり」という科白について、KKKの意味、および、この映画の副テーマである”New Yorker Meets Southern People”の意義、地域性の格差について説明。
(6) ヴィニー・ガンビーニ(ジョー・ペシ)が婚約者のリサとともに登場。ビルとスタンが収監された州刑務所の周辺にはアムネスティの活動家たちが「ノートンを救え」というデモを行っている。
→アムネスティについて解説
(7) ヴィニーが州刑務所に二人を訪ねてくる。司法試験に合格するまで6年かかり、弁護士にはなったばかり、法廷に立つのも初めてという。
→米国の司法試験制度について説明
(8) ヴィニーが州裁判所の事件担当裁判長チェンバレン・ハラーにinterviewを受けに行く。そこで、NY州の経験豊富な弁護士であると嘘をついてしまう。この嘘がばれたら、弁護活動自体ができなくなるので、ばれそうになる度にごまかし続けることになる。ハラー判事は不審に思いながらもアラバマ州刑事訴訟法の本を貸してくれる。
→Pro hac vice(他州の弁護士が法廷で弁護活動をするための要件・手続)について解説。州によって違い、たとえばハワイではハワイ州の弁護士と共同でないと他州の弁護士は法廷活動ができない(名前を借りるだけのケースが事実上多いようだが)。アラバマ州は、裁判長がその能力・経験を認めれば許されるようである。
(9) リサとモーテルに泊まったヴィニーは、朝5時半に製材所の汽笛で起こされ、朝食をとるために入ったレストランで南部特有の食べ物「グリッツ」を初めて食べる。
→大きな伏線になっていることに注意を促す。
(10) ヴィニーは法廷に行くが、座る場所さえ知らず、また、罪状認否では単に有罪か無罪かをいえばいいことも知らずにくどくどと弁論をしたことや革ジャンで来たことについて、ハラー判事の怒りを買い、法廷侮辱罪で収監されてしまう。
→日本にはない法廷侮辱罪について解説。また、手続の最後に裁判長が保釈金について被告人については20万ドル、ヴィニーについては200ドルと宣言したことについて、日本では無罪を主張すると保釈金を積んでも保釈されないことが多いが、米国では無罪の推定が厳格に守られていて保釈が広く認められること、ハワイ州の裁判所でも保釈中で昼食休憩に弁護人と出かける被告人が多かったことに言及。
(11)リサが保釈金を払ったおかげで保釈されたヴィニーに、リサは「お金が足りなくなってきたから稼ごうと思って昨日プールバーに行ってお金を騙し取られた」という。取り返そうとそのプールバーに乗り込む二人。騙した男JTに200ドルを返せと詰め寄り、JTが「痛い目にあいたいか?」というと、ヴィニーは「君のCounter Offerはそれか?rejectする。私から改めてCounter Offerする、君を殴れたら200ドルくれるか?」と取引をまとめてしまう。その場で喧嘩しようとするJTにヴィニーは金を用意してからだという。プールバーにいたむち打ち症の男にヴィニーは「追突されたのか」と聞き「いや転んだんだ」と答えると、さらに「どこで転んだんだ」「自宅だ」「くそ!」という会話が展開される。
→米国契約法上のCounter Offerの概念を説明。また、むち打ち症の男との会話は、事件性があれば、クライアントになると思ってしつこく聞いていたこと、米国弁護士の蔑称ambulance chaser(救急車の後を追いかけてまで客をつかまえようとする)を説明。
(12)水道の蛇口のパッキングが緩んでいるのかリサの締め方が甘いのかをめぐって証人尋問のようなやりとりをする。
→これも伏線だと指摘。
(13)Pre-trial(予審)
3人の検察側証人の証言と、ビルが”I shot the clerk.”と自白したという保安官の証言。ヴィニーは反対尋問もしないので、起訴相当として、正式起訴が決定してしまい、さらに、また革ジャンで出廷したため法廷侮辱罪でぶち込まれる。保釈されるが今度はモーテルの隣の豚舎の騒音で早朝起こされ、モーテルを変わる事にする。
→Pre-Trial制度や主尋問、反対尋問の制度について解説。
(14)スタンはヴィニーに不信感を抱き、public defenderであるジョン・ギボンズを雇うことにするが、ビルは、ヴィニーの「レンガを積み上げて家を建てるように、検事がいかにもっともらしく証拠を積み上げても、それがレンガでなくトランプのように薄っぺらい紙でできた手品みたいなものだと立証してやる。お前は無罪なんだから。」という言葉に勇気づけられ信じることにする。ノートンの死刑執行でびびるスタンに、ビルは「ヴィニーは有名な手品師のトリックを片っ端から見破ったことがあるんだ。ガンビーニの血筋なんだ」という。
→米国の公選弁護制度に2種類あり、州政府の運営するpublic defenders officeに所属するpublic defenderと、その都度裁判所が任命する普通の弁護士(Court Appoint)があり、その2種類で刑事事件の9割を弁護していることを説明。
真実は一つであるという日本人に対して、法廷での闘争を手品にたとえることが、真実は見る角度によって違うという米国人らしい考え方を象徴している。
(15)ビルの話を裏付けるように、JTに呼び出されたヴィニーが見せ金だと看破してまた取引がお預けになる。移った先のモーテルで今度は朝5時に列車の轟音で起こされる。トロッター検事と話すヴィニー。検事が「弁護士時代に有罪の被告人を何人も無罪にして、罪人は裁かれるべきだと思い検事に転向した」と語り、ヴィニーは「交通違反で裁判所に行った時、警察のミスを認めさせたら、担当のマロイ判事が『君は弁護士に向いている』といったのが弁護士になるきっかけだ。ロースクールに通っている時も何かと力になってくれた」と話す。
→検事の話から、日本にはない米国の法曹一元制度を解説。ヴィニーの話から、日本にある刑事罰・行政罰の区別は米国法になく、日本ならその場で違反切符を切られるような交通違反も裁判所で手続することになると説明。
(16)ヴィニーは検察側の情報を得るためにトロッターを狩に誘い、情報を開示してくれと頼む。相手を丸め込んで資料を入手したと思うヴィニーに、刑事訴訟法の本を読んだリサが「法律上、検事は情報を開示する義務があり、しないと審理無効になるのよ、ロースクールで習わなかったの?」と指摘する。ヴィニーは3名の証人を訪ね、いろいろ質問する。翌朝また列車の轟音で5時に起こされる。
→trialを効率的に行うために、開示制度が徹底されていること、日本ではこうした制度がないことが裁判員導入に際して不安であること(その後裁判員法案と同時に刑事訴訟法が開示制度創設のため改正されたが)を説明。
(17)Jury Selection陪審選定。トロッターが陪審員候補者に質問し、「強盗犯人は電気椅子にかけるべきです」という婦人を陪審員として選ぶシーン。
→陪審員の選任手続(有名事件ほどjury poolが大きいこと、事前にアンケートで絞ることもあること、忌避の制度等)について解説。どんな人物を陪審にするかで評決は決まるので、プロファイリング等を駆使する陪審コンサルタントの重要性(OJシンプソン事件でも活躍)についても触れる。
(18)ヴィニーはハラー判事に呼び出され、「NYに問い合わせたが、ヴィニー・ガンビーニの法廷活動の記録はない」と詰め寄る。ヴィニーは、「俳優時代の芸名:ジェリー・ガロを弁護士活動で使っている」と苦し紛れに説明する。後でリサが「ジェリー・ガロは大物弁護士だけど先週死んだわよ」と指摘し青くなる。トロッターが貸してくれた猟小屋で寝ていた二人はふくろうの声で起こされる。車で寝ようとすると落雷が轟く。翌朝、大雨でぬかるんだ地面にタイヤがめり込み、また、ヴィニーの一張羅の背広が泥まみれになってしまう。JTを殴って200ドル取り返すシーン。洋服屋もクリーニング屋も休みで、仕方なく古着屋で調達した手品師のような燕尾服でtrialに出廷しまた裁判長から注意を受ける。トロッターは第一級謀殺罪(first degree murder)と幇助罪に当たると主張。
→米国の刑法上、殺人にたくさんの類型があり、第一級謀殺、第二級謀殺、第一級殺人、第二級殺人等、それぞれもさらに多くの類型に分かれている。このように構成要件が細分化されていることは陪審制度において必須の条件だが、そうでない日本で裁判員制度は機能するのか疑問。ちなみに強盗殺人は第一級謀殺として扱う州が多い。
(19)3名の証人に尋問するトロッター。ギボンズ弁護士は極度のあがり症でまともな反対尋問はできないことが判明。ヴィニーは、「グリッツを作り始めた時コンビニに入っていった彼らを見たが、5分後グリッツを食べようとしたら銃声がした。だから彼らに間違いない」と証言した男性証人に、「南部の誇り、グリッツは最低15分は煮ないと本場の味は出せないでしょう?」((9)参照)と、矛盾を突き、陪審も大きくうなずく。窓から犯行を見たという男性証人には、窓と現場の間にたくさんの茂みがあったことを指摘する。さらに、ライリーさんという老女の証人については、その場で視力を試して眼鏡の度が合っておらず、よく見えていなかったことを立証する。スタンはギボンズを解雇してヴィニーに戻る。
→次の教材『12人の怒れる男』との関係で重要なシーンだと指摘。
(20)三度法廷侮辱罪でぶちこまれヴィニー、しかし、安眠のため刑務所にとどまることにする。第2回のtrialでトロッターはexpert witnessとして、FBI自動車分析班のウィルバー氏を喚問する。ヴィニーは「不意打ちの証人、とくに反対尋問の準備に時間を要するexpert witnessの予告なしの喚問は違法だ」と裁判長に異議を申し立てるが、却下されてしまう。
→expert witnessの要件等について、さらに異議申し立てについて解説。
(21)ウィルバー氏は、犯人が逃走した際のタイヤ跡が、ビルたちの車63年型スカイラークと同型のものであると証言。ファックスを受け取ってランチ休憩を宣言した裁判長はヴィニーに「ジェリー・ガロは死亡している」と伝える。苦し紛れにヴィニーは「裁判長の聞き違えです。私はジェリー・カロです」といい、その場でNYに問い合わせた判事は「15時にわかるそうだ、それまでに裁判が終わらないかぎりおしまいだ」という。裁判でも経歴詐称でも追い詰められ、絶体絶命のヴィニーはいらいらしてリサと喧嘩してしまう。午後の法廷でヴィニーはウィルバー氏にろくな反対尋問ができない。しかし、リサの撮った写真を見るうちにあることに気づき、保安官に調査を依頼するとともに、リサをexpert witnessとして召喚する。喧嘩中のリサは初め非協力的で、いやいや証人席に座る。ヴィニーは「彼女は私の婚約者ですが敵対的証人です」という。
→通常自分の証人には誘導尋問ができないが、自分の証人でも敵対的証人ならできる、というルールを説明。
(22)リサの専門能力をテストしようとするトロッターの質問に的確に回答し、expert witnessとして承認されるリサ。リサは失業中の美容師だが、家族は全員自動車整備工で、自動車のメカのことには非情に詳しい。説得力ある説明で犯人のタイヤ跡は64年型テンペストだと証言した。そのやり取りは(12)とそっくり。ウィルバーもその正確性を認め、先ほどの証言を撤回した。保安官が戻ってきて、「64年型テンペストの盗難容疑でジョージア州で2人の若者が逮捕され、車からマグナム357が出てきた」と証言。トロッターも起訴を取り消し、大喜びする当事者。招待がばれる前に逃げたいヴィニーをみんなが離そうとしない。とうとうハラー判事につかまったヴィニーはもはやこれまでと覚悟するが、なぜか判事は握手を求めてきた。NYに戻る車の中で、リサは喧嘩した直後にマロイ判事に頼んで口裏を合わせてもらったと告げる。
3.あらすじと感想文の課題を出す。
注意点:刑事裁判傍聴で見た日本の刑事裁判の様子との対比の視点を入れること
感想文には、刑事裁判の傍聴をした経験と比較して、「裁判が検察、弁護人のゲームのようになっていると感じた。…日本の裁判は専門家だけで行われているので、一般の人には裁判を傍聴してもどのようなことが話されているのかわかりにくい。アメリカの裁判では陪審という一般の人がいるので、早口で難しい言葉を並べるということもないので、話がどうなっているのかわかりやすい。これは、重大な事件になればなるほど、わかりやすい裁判というのは特に被害者(遺族)にとってよいものだと思う。…日本の裁判制度もアメリカの裁判制度もそれぞれ一長一短あり、裁判員制度の法案は成立してしまったが、制度が始まるまでにはまだ時間があるので、その間に現在の日本の制度とアメリカ型の制度のそれぞれの良い面を組み合わせたれるようなやり方を考えていくべきである。私は、特に実際の現場が一般の人にわかりやすいように裁判を進める工夫と、裁判の迅速化のために検察、弁護士がそれぞれ情報をきちんと審理できるように完全に準備した上で、それぞれが真実を明らかにするよう務めることが大切だと考える。」というものがあった。
また、「ミランダ・ルールは日本にも必要な制度だと思った。一般的に人は一度自白したのなら、あとで証言を覆そうとしても、その人が犯人であると思い込んでしまう可能性が高く、自白を偏重しがちではないか。…私が傍聴に行った裁判はたまたま第1回で判決まで出たが、多くの裁判は長い時間がかかっているようだ。この映画の中では、裁判は連続して迅速に行われていた。弁護人と検察官は情報を開示し、裁判がスムーズに行われるように、準備がなされていた。早ければ良いという問題ではないが、やはり、時間が風化してしまい、証言や記憶が曖昧になる前に判決が出ることが望ましいと思う」というものもあった。
八、 DVD教材『12人の怒れる男』
「いとこのヴィニー」で刑事裁判の流れを学習したので、今度は陪審制度そのものについて学習する。
1. 概要
陪審制度を語る上で必ず出てくる古典的な名作であるが、1957年のオリジナル(主演ヘンリー・フォンダ)が、1997年にリメイク(主演ジャック・レモン)されているが、以下のような理由でリメイク版を使用した。
① オリジナルは全員白人男性だがリメイク版はアフリカ系4名が入っている。
② 男性だけの不自然さを解消するように裁判長は女性になっている。
③ より現代に近い設定になっており、若い学生にとっつきやすい。たとえば、7号陪審員はヤンキース・ファンで野球の試合に間に合うように早く帰りたがっているといった設定がある。
④ 実験シーン等、ひとつひとつのエピソードがより丁寧に描かれている。
⑤ アフリカ系の10号陪審員が、ヒスパニックに対して激しい憎悪を抱いており、そのことが強硬に有罪を主張させたという設定が、ヒスパニックがアフリカ系を上回り、大統領選挙選でもブッシュとケリーの両陣営がヒスパニックの票のために迎合政策を採ろうとしているような現代アメリカの状況を顕著に表している(日経2004年4月25日付記事「経済力増すメキシコ不法移民」を教材として説明に使用)
⑥ モノクロのオリジナルより見やすい。
ただし、オリジナルにしかない、審理が終わって、jury instructionの前に、2人の補欠陪審員が出て行くシーンだけは見せ、多くの州で、陪審員の病気等に備えて初めから若干の補欠をとっておくこと、を、ハワイ州の裁判所の陪審席が14個あることを写真で示したりして解説した。
3. 学習内容
(1)ストーリーは余りにも有名なのでここでは省略するが、陪審員の構成は以下の通りである。
号数 無罪にした順番 人種等 職業 その他の情報
1 9 アフリカ系 高校フットボールのコーチ 陪審長。温厚。
2 6 アフリカ系 銀行員 年配。孫がおたふく風邪。
3 12 白人 メッセンジャー会社経営 家出した息子を被告人に投影し最後まで有罪にこだわる。
4 11 白人 株式ブローカー 終始紳士的・論理的に議論する
5 3 アフリカ系 看護師 スラム出身。ナイフの持ち方について需要証言。
6 6 白人 ペンキ職人 老人に優しい。
7 7 白人 セールスマン 野球試合のために早く帰りたい
8 1 白人 建築士 名はDavis孤軍奮闘で無罪を主張
9 2 白人 杖をついた老人。眼鏡の跡のことに気づく。
10 10 アフリカ系 車の修理関係 モスリム。ヒスパニックに激しい憎悪を持ち人種的偏見を周りから非難される。
11 4 白人 時計職人 東欧移民。なぜ犯行現場に戻ってきたかについての疑問を提出。
12 9 白人 広告代理店 優柔不断で無罪に変えた後もまた有罪に変えたりする。

(2)証拠品のナイフを見ようという提案が出されたところでいったん止め、以下のことを書かせる。
①自分が裁判員になったとしたら、映画の陪審1号から12号までの誰と最も近い言動をするか?かなりばらけたが、8号が3名と最も多かった。
②陪審1号から12号まで(8号以外)について、有罪から無罪に意見を変える順番を予想しなさい。一人も合っていなかった。最後が3号であることは何人かが当たっていた。
③(オプション)ゼミの中に、映画の陪審何号かと同じ言動をしそうな人がいたら、氏名と何号かを書きなさい。
ゼミの行事等で仲が良さそうな子を3号に近い、と指摘する等、本当の人間関係が垣間見えたりした。
(3) jury instructionでの「有罪であるということに合理的な疑いがあれば無罪にしなければならない」という科白について、「無罪の推定」ルールを解説。
(4) NY州の刑法(18歳なら第一級謀殺の対象になること、10以上の類型に分かれた殺人罪)*科白から舞台はNYと推定されるので。
(5) この事件の弁護人がCourt Appointの公選弁護人であることを指摘。
(6) 見終わった後、以下の点について議論させた。
① なぜ、怒れる男なのか、考えてみよう。ちなみにオリジナルでは白人男性ばかりだった。
→1957年当時は、米国でも男女差別があって、有色人種や女性は陪審員にあまり選ばれなかったのではないか。リメイク版では、有色人種を入れるだけでなく、裁判長を女性にしてその辺の違和感を軽減する工夫をしている。ちなみに現在はperemptory challengeを特定の人種や性別を排除するために使ったら、審理無効になる。
② 10号陪審員はなぜ被告人有罪にこだわったのか→1.参照
③ 3号陪審員はなぜ被告人有罪にこだわったのか?→1.参照
④ 8号陪審員が評議の場で行ったことを、『いとこのヴィニー』の法廷で行われたことと比べてみると?
証人の視力を疑って実験してみるというのは、『いとこのヴィニー』では弁護人がやっており、本来弁護人がやるべきことである。
⑤ この事件の弁護人について考えてみよう。
→やるべきことをやらないのは、やはり報酬の少ない公選弁護人制度の弊害なのでは。
⑥ 見終わって改めて自分と似た言動をとる陪審員は誰か考えてみよう。
(7) 見終わった後感想を書かせた。
感想の中には、「無罪に意見を変える人がいう『合理的な疑いがあるからだ』というフレーズが気に入りました」「3号や10号のように私情で判断しようとする人は必ずいるだろう。でも、陪審員を選定するときの質問だけで、そういう人かどうか、また、事件が何らかの私情を刺激するようなものかどうかは判定できず、危険なのではないか」「人間の能力や感情、信条で被告人の人生が大きく変わってしまう危険性がある。これらは人間が人間に対して行う裁判である以上、完全に防ぐことはまず不可能であるが、裁判官のみの裁判と裁判員という素人がかかわる裁判を比較すればもちろん後者だろう。こうした危険をどのように小さくするかは非常に大きな問題だ。まずできることは、なぜ裁判員制度が考えられ、実施されることとなったのかについて国民に理解されるモアでしっかりと説明を行うことである。5年後に実施と決まったからといって、あせって理解が得られないまま始まってしまったら大変なことになる。」

今年の新入生ゼミナール その1


大学における米国裁判制度に関する教育メソッドの紹介

一、 はじめに
裁判員制度法が今年の5月21日に成立したが、これは、日本の司法制度を根本的に改革する重要なものであるが、この制度を導入するためには、解決すべき問題が山積している(国際商事法務Vol.32, No5『裁判員制度導入への懸念』に詳述)。しかし、裁判員制度は、これから社会科学を本格的に学ぶ本学の1年生の授業には格好の題材と考え、今学期、裁判員制度をテーマにした授業を行った。ここで用いた、教育メソッドについて以下で詳細について解説する。

二、 対象・狙い
この授業は、「新入生ゼミナール」といい、本学の経済学部1年生全員を少人数のクラスに分け(各クラス経済学科と経済システム法学科の学生の混成)、大学で経済や法律を学ぶための入門的な授業を各担当教員の裁量で行うものである。
私の担当クラスは、経済学科8名、経済システム法学科7名(男子8名、女子7名)、計15名のクラスである。
授業の目標は、①大学での勉強の仕方・議論の仕方を学ぶ、②議論を通じ民主的に組織を運営する、③裁判員制度について学ぶ、④スティグリッツの非対称情報の経済学を学ぶ、の4つを掲げたが、本稿では④については省略する。
具体的には、ヴィデオ教材、小説等を用いて日本の刑事裁判制度と、米国の陪審制度を含む刑事裁判制度を比較し、それらの学習をふまえ、学生に班ごとに「裁判員制度対案」を作成・発表させ、互いに評価させるということを目標にした。

三、 第1回講義
1. 自己紹介
初めて顔合わせするということで、各人に自己紹介をさせ、その結果を表にまとめ、集団の特性も合わせて分析することを次回までの課題とした。ちなみに結果を見ると、「まじめだが消極的な人が多い」という分析結果が多かった。また、自己紹介を聞いただけの段階で「自分が刑事被告人になったら裁判員になってほしい人、ほしくない人」についても書かせることとした。同じ質問を学習がかなり進んだ段階で行い、比較するため。
2.アンケート
さらに、裁判員制度についての知識を問う以下のようなアンケートを行った。(回答14名)


一、 裁判員制度について
1.日本に裁判員制度を導入する予定があることを知っていましたか?   
はい  9     いいえ  5
2.日本に裁判員制度ができるのはこれが初めてである。
正しい  7 正しくない    7
【以下は、3月に閣議決定された裁判員制度法案について】
3.アメリカと同じで裁判員の合議には裁判官は参加しない。
正しい  3 正しくない   11
4.アメリカの陪審は民事事件に付くので日本でも刑事・民事とも付ける。
正しい  5 正しくない  8    無回答   1
5.あなたは裁判員になってみたいですか?
なりたい 5 どちらかといえばなりたくない 6 なりたくない  3 
6.5.の回答の理由は何ですか?
なりたい…一度くらい経験してみたい、興味がある、等
どちらかといえばなりたくない…責任が重過ぎる、法律知識がないので無理、等
なりたくない…法律知識がない、誤審してしまうかもしれない、等
7.あなたが刑事事件の被告人になったら(仮に選べるとしたら)裁判員付きの裁判を望みますか?
望む 5 従来どおり裁判官に判決を出してほしい。
8.7.の回答の理由は何ですか?
望む…その方がより公正、慎重、冤罪を防げる、等
望まない…その方がより公正、法律知識がある人に裁かれたい、裁判員が入ると、感情、世論に左右されそう、等
9.その他、あなたが裁判員制度について知っていることがあったら書いてください。(足りなければ裏面も使うこと)
ランダムに選ばれる、拒否できない、司法を身近にするために導入が検討されている、マイケルジャクソン報道


3. 日本の刑事裁判
(1) 刑事訴訟法、刑事訴訟規則、最高裁判所事務総局作成のパンフレット『法廷ガイド』を教材として、冒頭手続、証拠調べ手続、弁論手続等について解説
(2) ヴィデオ教材NHKドラマ『続・続 事件―月の景色―』(1980年放映)の一部を見せる。
① ドラマのストーリーは、19歳の予備校生(佐藤浩市)が母親(岸恵子)との近親相姦が遠因になって、知り合いの少女を絞殺してしまったというもの。
② 法廷シーンが多く、しかも「第1回公判」「検察官主尋問」「被告人質問」等のテロップがその都度大きく出るので、教材に適している。このドラマでは、母親が被告人との関係を証言する際、非公開証人尋問(刑訴304条の2)という制度も出てきたのでその解説も行った。
③ さらに、未成年なのに通常の刑事裁判になっていることについて、「逆送」制度について解説、1997年神戸の事件をきっかけに、少年法が改正され、逆送可能年齢が引き下げられたことにも言及。
④ 判決(不定期刑)までいったところで、少年法52条の不定期刑について説明。
4. 刑事裁判傍聴レポートについての指示
日本の刑事裁判制度の理解を深めるため、長野地裁松本支部で刑事裁判を傍聴して書くレポートについて指示を出した。冒頭手続から見学させるため、第1回公判のある日時を予め同支部の刑事書記官室から聴取し、表にして、注意事項とともに配布。同支部の法廷は小規模であるため、傍聴者が集中しないよう、事前調整の必要があるので、学生に傍聴日について第2希望まで書かせた。

四、 日本の司法制度
1. 裁判員制度の概要について解説(教材として、2004年3月3日付朝日新聞の記事を使用)
2. 戦前の日本の「陪審員制度」について解説
3. 開かれていない日本の司法
(1) レペタ事件判決(最高判平成元年3月8日憲法判例百選I77事件)を教材として、法廷で傍聴人がメモをとることさえ、解禁されたのは1989年になってからやっとであること、外国人弁護士であるレペタ氏の提訴がきっかけになったこと、後で見る米国の法廷劇では陪審員が詳細なメモをとり、それを前提に議論していることについて説明。
(2) なぜ裁判官の判断が民意から離れていると思われているのか
 最高裁に人事権を握られた官僚であり、国が被告になっている行政訴訟で国がめったに敗訴しないことや、裁判官が法務省訟務局に出向して国が当事者の訴訟の代理人を務めていることの弊害等について解説。
 野鳥の会にも入れない?!
日本裁判官ネットワーク『裁判官は訴える!私たちの大疑問』(1999年講談社)の中の岡文夫判事による「野鳥の会に自由に入会したい」のコピーを配布し、次回までに感想文を書いてくるように指示。
 感想文には「裁判官が市民と自由に交流することができなければ、誰のために三権分立という考え方があってそのために司法権というものがわからない。裁判官が官僚的になるならば、極端な話、行政、立法、司法が全て官僚に支配されてしまうことになる。…裁判員制度は、裁判に市民の感覚を取り入れるということが検討されている理由の一つであると言われているが、実際にこの制度が導入されれば、ますます裁判官が組織に属してはいけない理由が不明確になる。裁判官も裁判員も同じように話し合いをするのに、裁判官だけが組織に属してはならないというのはおかしい。…裁判官も地域社会を構成する一人の人間である。社会の中で様々な経験をすることで、より多くの人が納得できるような判決を出せるようになるのではないだろうか。」というものがあった。
 米国の制度:裁判官任命への民意の反映
米国では、選挙で直接裁判官を選ぶ州や、知事、上下院議員議長等を含むjudicial advisory committeeが判事を選任するが、任期更新時に人物についての評価を新聞等で広く州民に募る州がほとんどで、裁判官は民主的なlegitimacyを備えていることを解説。

五、 米国の刑事裁判制度
1. 起訴は日本と違って検察官の専権事項ではない
大陪審(grand jury) 例:マイケル・ジャクソン事件
予備審問(Preliminary Hearing)
2.9割が有罪答弁・司法取引で解決
3.Disclosureの徹底
4.陪審は公平か
(1)陪審忌避
正当理由ありの忌避は無制限だが、理由なしの忌避(peremptory challenge)には上限がある。
陪審コンサルタントが実際は評決の行方を決めてしまう。
(2)OJシンプソン事件
民事は敗訴、刑事は無罪。

六、 米国の刑事訴訟手続
1. ハワイ州裁判所見学(本誌Vol.32, No7『ハワイ州陪審制度ロースクールおよび登記制度視察報告』に詳述)時に撮った写真をPower Pointで見せて解説。
① 陪審員控え室の様子
② 法廷の様子
 裁判長、証言台、陪審席の位置関係(日本が裁判長に顔を向けて証言するのに比して、証言の全てが陪審によく見えるように配置され、裁判長はむしろそれを後ろから見守る位置)
 挙証責任を負う検事の机が陪審席に近いこと
2. 手続の流れを解説
(1) 逮捕
(2) ミランダ・ルール
(3) 大陪審または予備審問(Preliminary Hearing)により正式な起訴決定
(4) 罪状認否(Arraignment)
(5) 有罪答弁→量刑または司法取引
(6) 無罪答弁
(7) 陪審員選定
(8) 公判(Trial)
(9) 説示(Jury Instruction)
(10) 陪審による評議→評決(Verdict)