書呆子のブログ -83ページ目

笙野頼子・金毘羅

書評等で話題になっている「金毘羅」を読んだ。
話題になっているからでなく、今生きている作家の中で一番好きで、著作は全て読んでいるので、最新作を読んだということなのだが、今までの彼女の集大成というべき傑作だった。
ついでにいうと、三島賞に続き、芥川賞受賞コメントで「文学の神様に感謝したい」と言っていた意味が、この作品でよくわかった。

純文学論争もよかった(現存日本人作家の中で純文学を背負ってたっているのは彼女だと思う)が、フェミニスト文学者としても一流だと思う。
「水晶内制度」は「ジェンダーと法」で課題図書の一冊に選んだ。

「金毘羅」でも、以下のようなくだりに、眼からうろこが落ちた。

「「本当は男」である女はさまざまな課題を課せられるだけではない。現実の差別社会の矛盾を全て引き受けながら、その矛盾から一切眼を背けていなければならない。つまり、魂が壊れていなければ成立しないのです」

実は2000年11月25日に地下鉄で彼女に会ったことがある。トレンチコートを着て立っていた。
偶然にも私は九段会館で行われた憂国忌に行く途中だった。
彼女は後述するように佐倉からめったに遠出しないようなので、本当にすごくラッキーだ。
三島由紀夫に次いで好きだと思う私の気持ちが通じたのだろうか。
「笙野頼子さんですよね」と話しかけたら、ものすごく意外そうに「よくわかりましたね」といっていた。新宿で詩人の人たちと座談会があるとのこと。「手紙はどこに書いたらいいでしょうか」ときいて、その出版社にすぐ手紙を書いたのだけれど、もちろん返事はなかった。

地方の大学に赴任し、昨年音羽に引っ越した後は、雑司が谷から佐倉に引っ越した彼女にますます親近感をもった。彼女は雑司が谷のマンションの駐車場で、他の住人が気まぐれに餌をやっていたために集まっていた野良猫を、その住人が飽きて放置したあと、近隣と戦いながら保護し、ついにはその猫たち(5匹)のために、佐倉に一戸建てを購入して引っ越したのである。
雑司が谷のそばを通るたびに「ここは笙野さんも通った道かしら」なんて思ったりしている。

毎年のように参加している山中湖三島由紀夫文学館の三島由紀夫文学セミナーで、一昨年、加藤典洋、大塚英志、清水良典という顔ぶれだったのも面白かった。
純文学論争で笙野さんの天敵が大塚氏、そして、笙野さんの伝記「虚空の戦士」を書き、彼女から「武士は己を知る者のために死す」とまで信頼されているのが清水氏だからだ。
シンポジウムはもちろん面白かった(文学の話が記号論に及ぶと大塚氏が「もう帰りたくなってきた」といったのにはちょっとびっくりしたが)し、清水氏から笙野さんの話がたくさん聞けたのもうれしかった。

走れメルスと勘九郎の桃太郎

夫とシアターコクーンにNODA MAPの「走れメルス」を観に行ってきた。

これは新作でなく、28年前に書かれ、18年前まで何度か夢の遊民舎で上演してきた作品。

いつも通り、豊饒な言葉遊びの中に社会風刺を入れた野田作品だが、初期の作品は最近のものより難解だと思った。

ドラマ「7人の刑事」をもじった登場人物(リーダーは「足田」刑事)が出てきたり、そのドラマの主題歌が流れたりするが、今の若い人にはわからないんじゃないだろうか。
28年前といえば、確か、往年の人気ドラマ「7人の刑事」がリメイクされた年。私は中学2年だったが、当時好きだった役者・中島久之(山口百恵の「赤い」シリーズでよく兄役とかをやっていた人。2002年に見た「放浪記」で林芙美子の昔の恋人役をやっていた)が、その一人として出ていたので、よく覚えている。たしか宅麻伸は「ねこ」という愛称の気弱な刑事役でこれでデビューしたのでは(芸名が「たくましい」に通じるのもこの役柄からしゃれだったらしい)?その後しばらく見なくなったが、大河ドラマ「徳川家康」で、妻五徳(田中美佐子)の讒言で舅信長の手前詰め腹を切らされる嫡男信康の役で久しぶりに見た気がしたのを覚えている)
さすがに芦田伸介主演のオリジナルは全く記憶にないが、天田俊明という俳優が唯一オリジナルとリメークの両方に出ていた。


その1週間後くらいに歌舞伎座で勘九郎の「今昔桃太郎」を見た。勘九郎が来年勘三郎を襲名するので、勘九郎最後の舞台に、3歳で初役だった桃太郎を新しく友人の渡辺えり子が書き下ろしたもの。渡辺えり子も大好きな女優のひとり。
劇中、「棒しばり」や「鏡獅子」等、今まで当たり役だった舞踊を次々に踊るシーンもあり、十二分にファンを楽しませる技巧に満ちていた。

次男の七之助は出ているのに、長男勘太郎は上記の「走れメルス」に出ていて、歌舞伎座の方には出ていないが、このことも、劇中で勘九郎が「長男は野田屋さんに奉公に出ている」という台詞があり、笑えた。にしても、スケジュール調整できなかったのかな。

SHIROHの上川隆也

劇団新感線が意外にも初めてとりくむというミュージカル(今までのは音楽劇であってミュージカルではなかったということらしい)「SHIRO」を帝劇で見てきた。

上川隆也が出演するからだが、どうして私の好きな役者は歌が本職でもないのにミュージカルに挑戦するんだろう。
真田広之の「オケピ!」は安心して見られたが、
内野聖陽が「エリザベート」には、ソロのシーンの度にはらはらした。でも、演技力で十分カバーしていたし、「レ・ミゼラブル」ではかなり歌もうまくなっていた。
堤さんも新感線には時々出ているけど、歌はやらないでほしい。

上川くんも、中川晃教と比べるとどうしても見劣りするけど、元々声がとてもいいので、思ったよりずっと歌も良かった。
作品は、戦争の虚しさを訴え、イラク戦争とどうしても重ね合わせて見てしまった。
音楽を伴うことによる強いメッセージ性が生かされていたと思う。