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『新宿鮫XI暗約領域』『房思琪の初恋の楽園』(ネタバレ注意)

『新宿鮫XI暗約領域』

待望の8年ぶりの新作。

拉致情報を取得する取引に使うため、警視庁公安部がタミフルを北朝鮮に密輸するというストーリーで、タイムリーというべきか。

 

前作(桃井警部が殉職したのには心底驚いた)から感じていたことだが、描写が細かくなりすぎ(手洗いをすませ、とか出てくる)、かつてのハードボイルドの味わいは淡くなっている。

 

1991年にスタートしたシリーズを、主人公の年齢をそんなに変更することもできないまま(とっくに定年退職しているはずだから)、スマホが出てきたり、情報革命でそもそも操作手法も大きく変わっていることを自然に取り込みながら長く継続させるのは大変なことだろう。

 

『王家の紋章』は、ずっと「あなたと出会うために私は20世紀からはるばるやってきたの」といっているキャロルのセリフが、いつの間にか「21世紀から」に変わっているし、『ガラスの仮面』は連載開始時の北島マヤは私と同年齢だったのに、年齢はたいして変わらないまま携帯を使っていたりする。

 

新宿鮫シリーズでは、『毒猿』が最も好きだが、『屍蘭』も同様に、騎士道精神かと見まがう男性のプラトニックな関係の女性に対する犠牲心が主題になっている。

しかし、最新作では逆にほとんどの男性にとってファムファタル的な女性が、自分に関心を持たない殺し屋の男性に同じような犠牲心をささげ命を落とすという設定になっているのが興味深い。

 

主人公鮫島のファーストネームはやはり明らかにされていない。かつての恋人でロックバンドのボーカルとしてメジャーデビューした晶も「あんた」としか呼んでいなかった。

 

オックスフォードの校舎を見て懐かしむ以上の面白さではまっている『モース オックスフォード事件簿』の原作(英国でシャーロックホームズ以上に人気のシリーズになっている『刑事モース』を愛するあまり、原作にはない若い時代をオリジナルドラマとして制作したもの)でも、モースのファースト・ネームはドラマの中で問われても、「ただモースと呼ばれています。モースと呼んでください」といって、なかなか答えようとしなかった(事件の共犯者で刑事なのに裁判で偽証するほど好意を持った女性からの質問にも答えなかった)のだが、第9話で、クエーカー教徒の母親とクック船長を尊敬する父親に付けられたEndeavourだということが明らかになり、オックスフォード事件簿のドラマの原題もEndeavourになっている。

 

『房思琪の初恋の楽園』

13歳で憧れていた塾講師にレイプされ、自分を惨めにしないために恋愛関係にあると言い聞かせて何年も愛人関係を続けていた美少女が発狂するまでを描いた作品。原作者は出版の二か月後に自殺。

 

進学塾の講師という職業のステータスの高さに、台湾の歪んだ学歴社会を感じる。

 

東西の古典の知識に裏打ちされた美しい修辞に満ちた華麗な文体に息をのむが、これが自伝だとすれば、まさにそうした教養への愛こそがレイプを告発できなかった理由の一つだと考えるととても切ない。

 

夫のDVから逃げることのできた若い女性のエピソードが、もう一人のありうべき主人公だと考えると少しだけ救われる。

各国の感染者数は当てにならない

【そもそも医療サービスが】

感染者数が少ない国=蔓延していない国ではない。

 

そもそも、衛生状態が悪く清潔な水が不足していたり、医療サービスの水準が低く、乳幼児死亡率が極めて高い国もたくさんあるし、感染者数を把握しようとする政府ばかりではなく、腐敗が進んだ国は、政府高官等だけが外国に避難したりして責任を放棄したり、把握しても外国にそれを正直に発表しようという透明性もない国があるから。

 

中国も、日本以上に生活水準が向上しているのはごく一部の都市だけで、地方では水洗トイレもない所も多く、人口的には圧倒的にそういう方が大半である。延期されていた全人代*を5月22日に開催するというが、国中から人を移動させるのは本当に危険だ。

 

中国は恐るべき管理社会で、政府がスマホで個人の行動を管理できる。クラスターが起きた場所に行っていない証明書を政府が出してくれて、それを提示しないといろいろな場所に入れない等の方法で感染拡大を防いだのである。

 

*中国の立法機関だが、会期は毎年3月のみ。それ以外の時期の立法機能は常務委員会が担う。

 

そうすると、日本一国だけがウイルスを抑え込んでも、どこからウイルスが入ってくるかわからない状態がいつまで続くかわからないことになる。

 

【コロナの副産物】

何もいいことはないのが基本として、少しだがいいこともある。

1.リモートワークの有効性が見直され、ワークライフバランスが進展する。

2.移動が減ることによって、排出ガス削減ができる。

 

【青年団も中止】

平田オリザはなかなか中止に踏み切らないだろうと思っていたのに、6月7日にチケットを買っていた青年団の公演が中止になった。

私の行く予定だったイベントの中止はこれで30件目。

 

青年団と言えば、最近亡くなった志賀廣太郎の所属劇団。

彼が出演した芝居を吉祥寺シアターに見に行ったことがあるが、舞台上よりも、劇場の前にある喫煙所にいたのを先に見かけた。

 

 

【コロナがあぶり出した階級社会としての米国】

アメリカに感染者が多いのは、貧富の差が大きいことにも関係している。

 

日本のような皆保険制度がないため、医療保険は民間保険会社が提供するものが大半で、保険料も高い。

会社の福利厚生の筆頭にこの医療保険を会社が保険料を払って提供している、ということが挙げられたりしている。

 

そのため、貧困層は保険がなく、病院にもかかれず、仕事も休めないので、感染が拡大することになる。

 

セーフティ・ネットのない怖い社会なのである。

 

日本では、オムロンの元社長や岡江久美子が亡くなるように、「貧困ゆえにコロナで死ぬ」という現象は目立っていない。

 

目立っていないだけで、ないわけではない。

 

ブルーカラーは出勤しなくては仕事にならないし、ホワイトカラーも、リモートワークのインフラが整っている大企業(これも、働き方改革がなかったら無理だったろうけど)の社員は出勤しなくても仕事ができるが、そうでない企業では、という問題がある。また、在宅勤務ができるのは正社員だけということも多い。

 

私も在宅勤務の経験はあるが、セキュリティ対策を施したイントラネットがつなげるノートパソコンは、業界1位の大企業でも一人一台はない。

 

いきおい、感染リスクにさらされる人の属性はある程度決まってくるのである。

 

岡江久美子は、かつてNHKの朝ドラと並んで新人女優の登竜門だったTBSのポーラテレビ小説の『お美津』というドラマでデビューした。

記憶はあまり定かではないが、関東大震災で恋人とはぐれ、親の決めた大店の跡取り息子(吉永小百合と日活映画でよく共演していた浜田光夫)と結婚するがこれがろくでなしで、健気に家業を支える、というようなストーリーではなかっただろうか。

 

そのときの初々しい姿は今でもよく覚えていて、40数年後に伝染病で亡くなることになるとは夢にも思わなかった。

 

1977年の大河ドラマ『花神』では高杉晋作(中村雅俊)の妻お雅(城下一の美人という設定)を演じていたが、愛人おうの役の秋吉久美子の演技があまりに上手なので中学生ながら引きこまれた。

 

私の好きな俳優の一人であるピアース・ブロズナンが主演したアメリカのTVドラマ『レミントン・スティール』でヒロインの声の吹き替えもしていた。とても面白いドラマだったが、再放送しないだろうか。

 

【トム・ハンクス】

オーストラリアで感染したトム・ハンクスは、同国で名前がコロナに似ているからといっていじめにあっていた少年に、タイプライターと「コロナは元々太陽に関係する言葉だ」という励ましのメッセージを送ったということだ。

 

なぜタイプライターかというと、彼がタイプライターの収集家だから。

 

彼の短編集『変わったタイプ』は処女作とは思えないほど手練れで本当に感心してますますファンになったが(といっても私は初期の『ビッグ』『スプラッシュ』が好きなのだが)、本の挿絵にもタイプライターの写真が多用されていた。

 

今この時に制度改革を検討する愚

【9月入試】

政府が9月入試を正式に検討するとかいっているが、信じられない。

 

何十年も続けてきた制度を変えるには長い検討期間と準備期間が必要で、それが国の根幹にかかわる(資源のない日本では人という最も重要な資源に関わる)教育についてならなおさらだ。大学教員の経験からも、現場の混乱は計り知れない。

 

今は、限られた政治資源をそんなことに割いている場合ではない。

 

【同調圧力に頼るenforcementの限界】

神戸市内のパチンコ店は、法律に基づく要請から一段厳しい指示にしても閉店しないという。

しかし、罰則はなくこれ以上のことはできないとのこと。

 

法律やルールはenforement=執行されないと意味がない。

 

他の先進国では罰金を科すなど戒厳令に近い外出禁止体制にしているが、日本では、「こんなことをして非難されるのが怖い」という同調圧力に弱い国民性に頼ったコロナ対策だといえるだろう。

 

これの怖いところは、必ずしも善悪という評価基準ではないため、集団心理によって左右されることもあり得るということだ。古いたとえだが、『菊と刀』にあった罪の文化と恥の文化の違いである。

 

日本は憲法があるから欧米のようなことはできないというが、近代的な憲法はもちろん厳しい外出禁止体制を敷いている国にもある。

日本国憲法においても基本的人権も万能ではなく、「公共の福祉」によって制約される(12条)ので、できないことではない。ただ、政府が怯懦であるだけである。

 

補償をしなければならないのは私有財産を公共のために収用する場合(憲法29条3項)であって、伝染病感染拡大防止のために経済活動を合理的な範囲で制約するのはこれには当たらない。

 

 

【どうして祝日に正式決定するのか】

緊急事態宣言の延長は5月4日に正式決定するようなことを首相はいっているが、どうして平日である5/1中にしなかったのか?

 

5月6日までという前提で全面的に休業している機関もあり、それを延長するとなると、ウェブ会議だけでは済まず、物理的に出社して何らかの手当をしなければならないところも多かろう。

 

平日でさえ動くなといっているのに、休日に出勤する必要が生ずるのではないか?本末転倒である。

 

【公務員給与も減るのでは】

橋下徹は、給与もボーナスも一円も減らない公務員は10万円の給付を受け取るべきではないといっていたが、2つのいみで誤っている。

 

1.東日本大震災の際、一般公務員の給与は1年間、一割くらい一律カットされた。

国家公務員である夫はもちろん、当時独立法人化した公立大学に勤めていて厳密にいえば公務員でなかった私もカットされた。

 

人事院勧告に基づかない減給は違法だとして国家賠償訴訟が提起されたらしいが、原告敗訴だったらしい。

 

今回も似たような減給が行われることが予想される。

 

2.公務員の給与は民間にスライドして定められる。民間の給与水準が下がれば、時間差はあっても公務員の給与も確実に減る。