指揮権発動の悪夢再びー検察庁法改悪
検察庁法改正のことだが、この時期にどさくさに紛れて三権分立を揺るがすような法案を通そうというのが許せない。
香港でも、コロナのどさくさに紛れて、民主化デモの幹部を大量に逮捕したのがとても残念だった。
時の政府の不利な起訴を止めようとした事件といえば、1954年に犬養健法務大臣(515事件で暗殺された犬養毅の息子で、当代きっての名女優安藤サクラの祖父に当たる)が、造船疑惑で逮捕されそうになった佐藤栄作首相の起訴を止めるために、今まで一度も発動されたことがなく、その後も発動されたことのない法務大臣の指揮権を発動したことである。
犬養健はそのために法務大臣辞任に追い込まれるのだが、逆に言うと、政府が都合の悪い起訴をやめさせようと思うと、そのような乱暴な手段しかないのである。
しかし、この法案が通ってしまえば、実質的に政府が起訴・不起訴をコントロールし、司法の独立を侵害することが容易になるという恐ろしい事態になる。
公務員定年延長法案とセットで通そうとしているようだが、公務員定年延長法案自体は、民間に遅れており、何年も準備されていたが、今回検察庁法の改悪を目立たせないために突然日の目を見ることになり、漁夫の利というかなんというか。
多くの芸能人が反対の声をあげていることが驚かれているが、日本の芸能人が政治的発言をしなすぎるのである。
欧米では、公人である限り、何らかの政治的メッセージも発するのが当然と考えられている。
ナショナル・シアター・ライブという、ロンドンの劇場の劇場中継を日本の映画館でも見られるものがあるので、『ハムレット』、『リーマン・トリロジー』(リーマン・ブラザーズの創立者の三兄弟の伝記を三人芝居で演じる)などの作品を見たのだが、ハムレット役のベネディクト・カンバーバッチがカーテンコールのときに、「皆さんが劇場で演劇を楽しんでいるこのときにも、シリアの難民キャンプで多くの子供たちが苦しんでいる。どうか、寄付をお願いします」といって、URLを連呼したり、映像化されたときに字幕が出る辺りを指さしたりしていたのに感銘を受けたのだった。
家賃減額請求権
【家賃減額請求権】
休業により家賃が払えなくて困っている人たちがいるが、借地借家法に以下の条文がある。
| 借地借家法第32条(借賃増減請求権) | |
| (1) | 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。 この「その他の経済事情の変動」に今回のことを含めることは可能ではないか? 租税の増減、価格の上昇等の例示に類似している事項とするのが一般的な解釈だが、裁判になったときにその解釈が否定されるとは言い切れない。 ただ、この請求権を行使しても、形成権ではないので、当面は相応の家賃を支払わなければならない(32条3項)という問題がある。 【コロナの副産物】 選挙権年齢を引き下げたのは、改憲のための国民投票をもにらんでのことで、憲法改悪を非常に恐れていたが、コロナのせいでその計画は頓挫しそうである。数少ない怪我の功名。 【麒麟が来る】 信長・帰蝶像が従来と異なっていると話題になっているが、信長は、親への愛に飢えているアダルト・チルドレンとして描かれている。 母親が弟を溺愛し自分を軽んじたという戦国武将は多く、伊達政宗に至っては、母のお東の方に毒殺されそうになった。戦国ではないが、徳川家光も母に愛され跡継ぎに押された弟忠長を切腹に追い込んでいる。 が、染谷将太のサイコっぽい演技(父を喜ばせるために家康の父広忠を殺すというのは、家臣に殺されたという史実を曲げているのでは?)からは、むしろ、『日出処の天子』の厩戸皇子が思い出された。母の間人皇女が自分の超人的能力を疎んじて弟の久米王子ばかりを溺愛することへの苦しみが、モンスター的な能力をより強化していったのであった。 その中で救いになっていた蘇我毛人への友情が愛情に変わっていくのだが、天才と凡人のコンビ、しかし、心理的には天才はそれゆえに修羅の苦しみを味わい、そのような修羅を知らない相棒の平凡さに癒され、実は依存しているというフォーマットはいろいろな作品にある。 ホームズとワトソン、『陰陽師』の晴明と源博雅など。 第15回で齋藤義龍が腹違いの弟を病気を装って見舞いに来たところを暗殺するエピソードが描かれていたが、それは信長が弟を暗殺する際に用いた方法としてよく描かれている方法である。 帰蝶がこれほどの権謀術数をめぐらす策士であるという描き方も大河では初めてだろう。 沢尻エリカの代役の川口春奈は健闘していると思う。 大きな役の代役は、演技力はもちろん必要だが、スケジュールがたくさん空いていないと務まらないので、実力はあるのにそれほど売れてはいなかった俳優にとっては大きなチャンスになるであろう。 『西郷どん』も初めは堤真一がキャスティングされ、一部スポーツ紙はフライング報道してしまったが、第二子が生まれることがわかって家庭を優先するために辞退したために鈴木亮平になったらしい。ドラマの主役をやったことはなく、映画の主演は福田雄一の『変態仮面』のみという彼に白羽の矢が立ったのは上記のような事情であろう。 重要な役を務める女優の逮捕による降板、コロナによる撮影中止と災難続きの今年の大河だが、最も割を食ったのは明智熙子役の木村文乃ではないか。 芭蕉が「月さびよ明智が妻の話せむ」と詠んでいるほどの賢妻で有名な熙子だが、彼女の登場するシーンにしわ寄せがいったらしく、結婚申込みも初登場から二回目で並んで歩きながらの唐突すぎるものだった(それなりの格式のある武家の婚姻がそのような親も通さないカジュアルなものであるはずはない)し、婚儀のシーンも省略されていた。 あれほど親しくしていたお駒を袖にし、再会したばかりの熙子と結婚する理由は子どもの頃戯れに結婚の約束をしたことしか思い当たらない不自然な結婚の経緯であったのは、放送回数が減ったためはしょったからだろう。 【消費者金融のCMが増えている】 ビジネスチャンスと判断されているのか、以前よりも消費者金融のTVCMが多くなった気がする。 |
『スカーレット』『なつぞら』
前のエントリーにも書いたが、2019年度下半期の朝ドラ・スカーレットは素晴らしい作品だった。
これまで見た中では
1位 カーネーション
2位 あまちゃん
3位 ちりとてちん
だったが、スカーレットは2位にランクしたい。
ストーリー、人物造形、フェミニズム、構成、どれをとっても文句なしだった。
脚本は最も好きな脚本家の一人である水橋文美江。
1991年の『さよならをもう一度』(秋吉久美子、石田純一主演)が、いわゆるトレンディドラマでは最も好きな作品で、アメリカに留学中だったが、ボストンの日本食品店で、ビデオを借りて見ていた。
スカーレットは、陶芸家神山清子をモデルにした作品で、高橋伴明の映画『火々』(田中裕子主演)でも描かれたことがある。
劇中に出てくる陶芸作品も神山氏が提供している。
【あらすじ】
ドラマの役名は川原喜美子で、1937年生まれ。
大阪で生まれ、戦後事業に失敗した父親(北村一輝)が戦友(マギー)を頼って滋賀県信楽に一家で移り住む。
山師的性格の父親で生活は貧しく、給食費にも事欠く中で、「女に学問は要らない」という父親の一言で、中卒で大阪の下宿屋で毎朝4時半に起きる月給数千円(全額実家に送金)で賄いの仕事をし、また家庭の事情で信楽に呼び戻され、親友(大島優子)の父親の経営する陶器会社の食堂で働くことになる。
子どもの頃から絵が好きだった喜美子は、会社の主力商品である火鉢の絵付けの師匠(イッセー尾形)に出会い、絵付け師の見習いになり、京都工芸大学を卒業し商品開発課に就職してきた八郎(松下洸平)と知り合い、結婚する。
陶芸家として有名になった八郎と工房を一緒に営み、息子武志も授かった喜美子は、夫の後援者に「個展の時奥さんはいつも通りずっと奥の方に控えててな」といわれても逆らわず、夫を支えていたが、穴窯という製法の存在を知り、借金をしてまでのめりこんでいき、離婚に至る。
喜美子は穴窯を度重なる失敗の末成功させ、陶芸家として名を成すが、息子の武志(伊藤健太郎)は父と同じ大学を卒業後陶芸家を目指すが、白血病で若くして亡くなってしまう。
【声高ではないが説得力のあるフェミニズム】
モデルとなった神山氏の夫は女性の弟子と駆け落ちしたが、ドラマでは、その弟子(黒島結菜)との関係の描き方はもっとドラマチックなものだった。
自分より才能のある妻に内心は嫉妬している八郎が、やはり天才型の元恋人とうまくいかなかったという弟子の話を聞いて、同じサリエリ同士としてシンパシーを感じ合うという設定だった。
同性同士でも、モーツァルトとサリエリの関係は辛い。秀才に過ぎないが、天才を天才と認められる才能は持っているのがまた残酷である。
それが、夫と妻の関係であったら、日本のような男女の役割分担意識の強い社会ではもっとやりきれないだろう。
しかも、自分より才能のある喜美子は大量製作品以外の自分の作品は作らず、ひたすら八郎のサポートに徹しているのだからなお辛い。
ある意味、平凡な恋愛関係よりもっと強い部分で八郎と弟子は共感してしまったのかもしれない。
生活力のない父に「女に学問は要らない」といわれて中卒で働かされても、夫の後援者に「ずっと奥に控えていろ」といわれても逆らわなかった喜美子の芸術家魂は、穴窯という製法に出会って爆発し、借金を重ね、夫とも離別しながら、何度もの失敗を経て、ついに成功する。
大阪の下宿屋時代に知り合い、のちに市議会議員になる女性ジャーナリスト(水野美紀)は、働く母親の会を主宰して喜美子を誘ったりする。
「うちら、家のことや仕事が忙しくてスカートなんかはいたことないもんね」というセリフがあったが、喜美子は本当に子どもの頃もオーバーオールを着ていて、スカートのシーンが一度もないのだった。セーラー服の中学生のときも、下はもんぺという徹底ぶりだった。
八郎役の松下洸平(ドラマ『カラマーゾフの兄弟』でスメルジャコフ役をやっていた。大津出身ということもキャスティングの決め手になったであろう喜美子の親友役林遣都は三男役だったので再びの共演である)の演技も素晴らしく、関西弁もすごく上手なのだが、東京出身と知って驚いた。歌手としてデビューしミュージカルにも出ているというから、耳がいいのだろう。
いとおしく、切ない物語に、何度も泣かされ、胸を打たれる素晴らしい作品だった。
モデルになった神山氏は骨髄バンクの設立にもかかわったというので、登録しようとしたが、年齢制限でだめだった。
『なつぞら』
女性アニメーターの草分け奥山玲子氏をモデルにした作品。ただし、宮城県出身。
ヒロインの名前は奥原なつ。
面白かったが、ハイ・コンテクストな作品であり、つまり、モデルになったアニメ作品、人物、そして演じている俳優のバックグラウンドを思い浮かべて初めて感じる面白さで、そういう意味では作品の楽しみ方が作品外のことに依存しているという限界があった。
ヒロインの夫は(現実には奥山氏の夫ではないが)高畑勲がモデル、同僚には宮崎駿(染谷将太)をモデルにした人物もおり、手掛ける作品は、『白蛇伝』『魔法使いサリー』『タイガーマスク』(キックジャガーというタイトルになっている)『ホルス』『アルプスの少女ハイジ』になぞらえて初めてああ、とわかる。
『火垂るの墓』の着想も、兄と空襲の中逃げ回ったなつの経験から得たということが最後の最後で明かされるのもアニメファンでなくても憎いと感じる演出である。
親友(山田裕貴)が開発する「おばたあんサンド」、実際の商品名は「あんばたさん」。しばらく札幌では品切れが続いていた。「あんばたさん、あんばたさん、ああんばあたあさん」というCMは耳に残る。
ハイジがモデルになっている作品では、ローラ・インガルス・ワイルダーの『大草原の小さな家』を原作にした北海道の開拓者一家を主人公にしており、草刈正雄演じる頑固な老人がヒロインの純真さに心を開いていくというストーリーに何か既視感があるな、と思っていたが、それを見て初めて、ああ、ハイジとおじいさんの関係だったんだ、と気づいたのだった。
新宿中村屋と、そのマダムで荻原碌山のミューズで重要文化財「女」のモデルになった相馬黒光の孫(比嘉愛未)、紀伊國屋書店社長(リリーフランキー、ドラマでは角筈屋、ヒロインの広瀬すずは、初舞台の『Q』で紀伊國屋演劇賞を獲った。初舞台とは思えない堂々たる演技だった)も、モデルを思い浮かべて初めて、という感じ。
キャスティングも、朝ドラ100作目ということで、歴代ヒロイン女優がワンシーンだけも含めて10人以上出演したり、山寺宏一、区役所職員役の田中真弓(ルフィの声)が出たりと声優陣が多数出演したり、北海道ということで地元出身のチームナックスのメンバーが全員出演したり。
ナックスはほぼレギュラーが音尾琢真、安田顕、戸次重幸だったが、全員職場が別なのに、たまに同時に出るシーンだと、不自然なほど寄っていたり、一度だけ開発庁十勝支庁長の役で出た森崎博之は「リーダーの私が」というセリフをいうのも、ナックスのリーダーだ知らなければ全く面白くないしむしろ不自然、大泉洋は最後の方でアニメを提供している「ミルカス」社の社長の役で出てきた。ドラマでは会社の創立者が北海道の開拓民だったという設定だったが、実際のカルピスの創始者はモンゴルで商品のヒントを得ている。
朝ドラをいつも見ている私の母親は、アニメのことも、声優のことも、ナックスのことも知らないので、面白さは半分も味わえなかっただろう。そういう視聴者は多かったのではないかと思う。
また、ヒロインは出産後まもなく、『キック・ジャガー』の作画監督という重大な役職に就くのだが、その割に、家が荒れていなかったり、あまりリアリティがなかった。なんか、きれいごとで明るい感じが貫かれているのがスカーレットとは対照的なのであった。
私が1995年に結婚した銀行員時代、どうしても認められなかった(2年後に転職した都市銀行でもその半年前から旧姓使用ができるようになったばかりだった)旧姓使用もアニメーターの世界では当然のように認められるのはうらやましかった。
広瀬すずは『チコちゃんに叱られる』に初出演時に二回も正答するなど、頭が良く、なんでも器用にこなせる人なのだろう、それが、役に陰影をもたらすことができないという憾みがある。
【スカーレットとなつぞらの共通点】
というように、全く作風の異なるに作品だが、共通点は多い。
1.ヒロインが1937年生まれ。
2.父親の戦友に厄介になる形で遠くに移り住む。
3。複数の「姉妹」がいる。なつぞらは血縁関係はない者も含むが。
4.男女一人ずつの親友がいる。
5.男の親友と「妹」が結婚する。
6.ファースト・キスは女の親友が相手。
7.どちらも絵を描くのが好きでアート関係の仕事に就く。
8.子供は一人。
9.顔と雰囲気がそっくりな俳優が出ている。山田裕貴と伊藤健太郎
10.キックボクサーの沢村選手の名前が出てくる。スカーレットでは息子の憧れのスタートして、なつぞらでは、『キックジャガー』を説明するときに引き合いに出される(私は武司とほぼ同じ年齢だが知らなかった)