《妄想物語》はじめては ほろにがく 最終章【mk side】 | みんなちがってみんないい

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田中圭くんを中心に
過去や現在大好きなもの
日常の中で思う事
発達障害の息子の事
そして
おっさんずラブ春牧onlyで
二次創作を書いています

大好きなものを大切にして
自分と違うものにも
目を向けてみる

皆違って皆いい
好きなものを好きと言おう

男2人が手を繋いで歩く光景に、何人か振り返る人がいたが、春田さんは何も気にしていないようで、時々俺に穏やかな顔を向けてくれた。

俺は逆に人の目が気になっていたけれど、春田さんの顔が少しも曇らないのを感じて、次第に人の目も気にならなくなっていた。

しばらく歩いて、人通りがなくなった所で、ふと立ち止まった。


『凌太…どうした?』

『俺もごめんなさい。手作りチョコの準備出来なくて…今日、材料を買いに来たんです。春田さんが帰ってくる前に作って、春田さんを驚かせようと思ってたんですけど、駄目でした。事前に準備出来なかったのが、情けなくて…。』


やっと、謝る事が出来た。すると、春田さんがほっとした表情を向けた。


『よかったあぁ~。』

『え?』

『俺、凌太がなんか悩んでるのかと思って心配したわぁ。』


そっか、俺が春田さんを心配してたように、春田さんも心配してくれてたんだ。
同じ事思ってた…。
春田さんは、優しい眼差しで俺を見た。


『凌太が忙しいの、知ってるから。大丈夫だから…さ。俺は凌太の気持ちだけで十分うれしい。』


春田さん……。


『俺も……。うれしかったです。』

『でも、結局チョコ買わなかったぞ。』

『いいんです。気持ちだけで……。』


ほんとに嬉しかった。春田さんが初めてのバレンタインをこんなに大切に考えてくれてたなんて…。


『凌太、帰ろ。』

『うん。』


気持ちが満たされて胸いっぱいになっていたが、手作りチョコは間に合わない事に気づいた。
チョコのないバレンタインなんて……と思った時、頭に一つのレシピが浮かんだ。


『春田さん、スーパーに寄っていいですか?』

『いいよ。』


これなら簡単ですぐ食べれると思い付き、板チョコ3枚とフルーツを買って、家に帰った。
家に帰ってすぐ、春田さんには黒のスウェットに着替えるように言った。
春田さんの事だから、子供みたいにチョコをこぼして汚しそうな気がしたからだ。
自分は汚さない自信があったが、春田さんに汚される可能性も考えて、自分もわざと黒っぽい洋服を着た。
春田さんは、いつも着ないような服を着ている俺を見て、不思議そうにしている。

まず、春田さんが大好きな唐揚げを作ってご飯を食べてから、チョコに取りかかった。
春田さんにもイチゴのへた取りを手伝ってもらいながら、チョコを溶かして、キウイやパイナップルをお皿に乗せた。


『さぁ、出来たからチョコが固まらないうちに食べましょ!』

『どうすんの?』


春田さんは、チョコフォンデュも知らないようだ。


『チョコフォンデュですよ。好きなフルーツにチョコをくぐらせて食べるんです。』

『へぇ~。じゃあ、俺パイナップル!…うぉっ、ちょーうめぇ♪凌太すげぇな。』

『いや、チョコ溶かしただけだから。』

『でも、立派な手作りチョコじゃん!』


大したことしてないのに喜んでくれる春田さんが可愛いなと思いながら食べていたら、案の定、春田さんがチョコで頬を汚していた。


『春田さん、口の横にチョコいっぱい付いてますよ!まったく、子供っぽいな。』


すると、春田さんが嬉しそうな顔をして言った。


『そっか…、じゃあ舐めて。』

『は?何言ってるんですか?早く自分で拭いてください!』

『やぁだぁ~。凌太舐めて。』


しょうがなく、春田さんの頬のチョコを舐め取った。


『はい!取れました。』

『ありがと!じゃあ、凌太食べさせてあげるから!』

『ちょ、ちょっと!』


春田さんは、わざと食べさせるふりして、俺の頬を汚した。


『あ、汚れちった!舐めてあげるから。』

『春田さん、わざとやってるでしょ!』

『へへっ、バレたか。』

『春田……さ…はぁむぅ……。』


そのまま、春田さんは、俺の唇を啄んだ。そのうちに俺もスイッチが入ってしまい、チョコを付けては舐めたり、キスしたりしていく度にお互いの熱が上がっていった。

でも……何だか手も顔もベタベタしてきた。


『春田さん……もう…終わり…。なんかベタベタして……。お風呂入ってきてください!俺……その間にテーブル片付けますから…。』


なのに、春田さんはもう、止まらない。
俺を後ろから抱きしめて、耳の側で囁く。


『一緒にお風呂入ろ……?』

『駄目……、片付け…ない……と。』

『じゃあ……、一緒に片付けるから…一緒に入ろ……?』


春田さんの誘惑に負けて、片付けもそこそこにお風呂になだれ込んだ。
狭いバスタブの中で春田さんに後ろから抱かれるように入った。
春田さんにスイッチが入った時の、少しゆっくりで甘い声が、お風呂の狭い空間でより甘く響く。


『凌太さぁ…、もしかしてチョコでイチャイチャする為に、黒い服着たの?』

『違います!』

『ほんとにぃ~?』


春田さんが疑いの目を向けながら、唇を首筋に付ける。

『ほんとです!!!』

『そんなに、強く否定しなくてもいいし。』


春田さんは、笑いながら俺を振り返らせて、向かい合わせにした。


『凌太…ありがとうな。でも、前にも言ったけど、全部頑張らなくていいからな。』

『春田さん……。』

『まぁ…俺もバレンタイン失敗したけど、それでもこんなに幸せな時間になるんだよな。……凌太といるだけで。』


そういって俺の目を真っ直ぐに見て、優しく笑いかける春田さんが、とても愛しい。

春田さんが俺に笑顔を向けてくれるだけで、俺はずっと幸せでいられる気がする。


『何でこんなに夢中にさせんだ?……凌太…。』


kissの雨は降り続く。

俺も春田さんも初めてのバレンタインは、うまくいかなくてほろ苦い思いをしたけれど、その先には、こんなに甘い時間が待っていた。

春田さんがいるだけで……幸せ。


『明日休みだから、バレンタイン長くなったみたいでうれしいな。』


この甘い時間をもっともっと長く……。


『創一……、夜はまだ…長いから……。』

『凌……太…。』


この甘い時間をもっともっと…甘く。



おわり