今までバレンタインコーナーなんて立ち寄った事も、ましてやチラ見した事もなかった。
こんなに種類があるんだな……。
しかも、値段も安いものから高いものまで……。
えっ?6粒しか入ってないのに5000円!!!
嘘だろ………。
甘いとか苦いとか、そんな単純なものじゃなかった。
抹茶やきな粉等を使った【和】チョコぉ?
すげぇ~、なんか惑星みたいなチョコある。
これ、すごくね?
何でこんな複雑で綺麗なチョコ作れんの???
猫とか犬のチョコもあるな……
チワワのチョコあったら、迷わずそれにするんだけどな♪♪♪
てか、チョコレートだけじゃなくて
ファナンシェ?ブラウニー?フォンダンショコラ?
これ……何がどう違うんだ???
わっかんねぇぇぇ~っ!
見れば見るほど目移りして、どれがいいんだか、さっぱりわからなくなった。
どれも買いてぇ~
てか、選べねぇ~
凌太…どんなの好きなんだろ……。
聞かなきゃわかんねぇな……。
めくるめくチョコの誘惑に、少しクラクラしながら、バレンタインコーナーから抜け出そうとしたら、最後に目に飛び込んできたカラフルなチョコがあった。
ドライフルーツチョコ?
まるごとのイチゴや輪切りのオレンジのドライフルーツをチョコでコーティングされている。
見本は、半分に切って断面を見せていて、とても綺麗で可愛いチョコだった。
宝石みたいだな……。
凌太は、朝食と夕食に必ずフルーツを出すから、フルーツ好きなのはわかってるけど、チョコとドライフルーツって、好き嫌いあるかもな…。
凌太に探りを入れたいと思ったあげく、出てきた言葉が、酢豚にパイナップルだ。
でもなんか、いまいち凌太の好みが聞き出せなかった……。
あれから、何回かバレンタインコーナーを覗いたが、悩むばかりで今一つ決め手に欠ける。
チョコレートは、ガーナの板チョコくらいしか知らないし、それが一番美味しいと思ってる俺には、難しすぎる選択だ。
『どうすればいいんだぁぁ~!』
『何、この世の終わりみたいに叫んでいるんだ。』
『た、武川さん!!!』
今日は2月しては、少し暖かくて、久々に屋上で一人ご飯を食べていた。一人だと思って、考えるのに夢中になって、いつの間にか考えている事を思わず声にしてたらしい。
『武川さん、何でこんな所に?』
『今日は少し暖かいから、誰もいないだろうと思って屋上に来たんだがな。』
武川さんは、俺の座っているベンチに座って、グイグイくっついてきた。あいかわらず、距離が近いな武川さんって。
『なんだぁ、コンビニのおにぎりか。どうした?牧と喧嘩でもしたのか?』
『喧嘩なんてしてませんよ!!!』
『フッ、俺と付き合ってた頃は、毎日欠かさず弁当作ってくれたがな。』
『武川さんと付き合ってた頃は、まだこんなに仕事が忙しくなかっただけです!!!』
『ハハッ、何ムキになってるんだ。』
武川さんが煽ってくるからだ……。
たぶん俺より凌太の事を知っている人だろう。
唯一勝てない相手となると、認めたくないが武川さんだけだと思っている。
『わかってるよ……。それで、何を悩んでたんだ?』
『えっ?』
『さっき、なんか叫んでただろう。』
『あ……。』
そういえば、凌太の好み……、付き合ってた武川さんなら知ってるだろうな。
『武川さん、凌太ってどんなチョコレートが好きですか?』
『ん?あぁ…バレンタインか。……さぁな。俺は和菓子の方が好きだからな。牧にチョコレートなんて贈った事はない。』
『そうなんですか?』
『だいたい元カレに聞くような事か?』
『あ……すみません。』
そうだよな…。俺、何聞いてんだ。
すると、武川さんは立ち上がって俺に背を向けて言った。
『お前のそういう所だよな……。俺がお前に敵わない所は。』
『え?』
『俺がもっと、あいつの前で素直になれてたら……。』
『武…川さ……ん?』
武川さんが急に振り向いて、俺のネクタイを強く掴んで、グイっと引き寄せた。
至近距離で武川さんの細くした目が、鋭く俺を睨んだ。
『牧の事、絶対幸せにしてくれ。泣かせたらタダじゃおかん。』
『は、はい。』
『……さっさと食べろ。もうすぐ、休憩時間終わるぞ。』
『あっ…。』
武川さんは、少し表情を柔らかくして、戻っていった。
凌太は本社にいるから、舞子さんやマロの冷やかしが無い限り、凌太の事を話すことはない。
まして、武川さんと凌太の話をしたのは、ほとんどなかったけれど、武川さんにとって凌太は今でも特別なんだろう……。
だから、武川さんの熱に触れると俺は焦ってしまう。
考えてみれば、凌太が好きだと気づく前から、俺は武川さんの存在にザワザワしてたような気がする。
俺は一体……いつから、凌太の事好きだったんだろう……。
………俺、ほんとに馬鹿だよな。
遠回りし過ぎたんだよな……。
つづく