《妄想物語番外編》町の小さな写真館 ② | みんなちがってみんないい

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田中圭くんを中心に
過去や現在大好きなもの
日常の中で思う事
発達障害の息子の事
そして
おっさんずラブ春牧onlyで
二次創作を書いています

大好きなものを大切にして
自分と違うものにも
目を向けてみる

皆違って皆いい
好きなものを好きと言おう



大晦日、
結婚して親の元を離れた娘が
毎年、東京から帰ってきます。

子供も産まれて、孫も出来ました。

美優という女の子で、早いものでもう5歳。

最近は、美優が年末に来るのが
楽しみでしょうがありません。


『じぃじ!ばぁば!来たよ!!!』

『みゆ!いらっしゃい!』

『ご無沙汰してます。』

『ただいま。』

『雅司さん、よく来てくれたわね。毎年、ありがとうね。』

『いえ!僕も楽しみにしてますから。』


娘の旦那さんも、ほんとにいい人で、
美優も健やかに育っていて、
心配する事もなく、
穏やかな日々を過ごさせてもらっています。


『ばぁば!あした、どこにいくの?』

『ごめんね、みゆ。実は明日とあさって、じぃじとばぁば、お仕事なの。』

『そうなんだぁ…。』

『3日の日は、あそびに行くからね。』

『わかったぁ!』

『あら、お母さん達、元日から仕事なの?』


いつもは、仕事入れないので、
娘も不思議に思ったようです。


『うん。ちょっと断れない仕事でね…。』


すると、美優が無邪気に言った。


『じゃあ、あした、おしごと、みにいっていい?』

『いいわよ。でも静かにね。』

『わかったぁ!』




次の日、ひいきにしている旅館で
待ち合わせる事になっていました。



『すみません。創一さんと凌太さんですか?』


声をかけると、2人とも不思議な顔をしていました。

やっぱり、2人とも
武川さんから話を聞いていないようです。

それにしても……、私もびっくりしました。
なんて、絵になる二人なのでしょう。


夫がウェディングフォトの説明をしていると、
明らかに一人の顔色が変わってしまいました。

私が心配してた状況でした。

プレゼントの経緯は、しゃべれないので、
知らないふりをして、話しかけました。

『もしかして、お二人とも了解せずに、誰かが話を進めたのかしら?』

『実は、そうなんです。』

『あらら…、そうなの……。どうしようかしら…。』


ほんとにどうしようかしら…。
でも、無理して撮っても、
二人の表情が雲っていたら、
ウェディングフォトとしては、残せません……。

『なぁ、凌太。どうしようか?』

『あ……、はい。大丈夫です。』


年上かなと思う創一くんに促されて、
凌太くんも承諾はしてくれましたが……、
これからが、私達の仕事です。


『じゃあ、まずタキシードに、着替えましょうね!』


創一くんを夫に任せて、
別の部屋で
私は凌太くんの着替えを手伝う事にしました。

まず、ズボンの方だけは、
一人で履いてもらって、
その後、私は中に入りました。


『どうですか?ズボン、きつくない?』

『はい。大丈夫です。』

『そう、良かった。』


凌太くんは、優しい微笑みで、返事してくれます。

上を着せて、細かい調整をしていると、
凌太くんに話しかけられました。


『あの!』

『どうかしましたか?』


凌太くんの視線の先に目をやると、
私と夫の写真がありました。


『あの写真は、ご夫婦の写真ですか?』

『そうよ。もう、30年くらい前の写真ね。あれが、私のウェディングフォトなの。』

『え…?』

『それが、30年前の精一杯のウェディングフォト。悔しいから、私達は、この仕事をするようになったの。』

『悔しい……ですか?』

『いろいろあってね……。結婚式も出来なかったし、タキシードもウェディングドレスも着れなかったから……。』

『……そうなんですか…。でも、とても素敵な写真ですね。』


社交辞令で言われたのかと思い、
凌太くんの表情を見ると、
穏やかな表情の中に少し憂いを抱いてるのが、見えました。


この子……なぜこんな顔するんだろ……

創一くんへの、不安?


気になりながらも、着付けを終えて、
外に出ると創一くんと夫は、
すでに着付けを終えていました。

私の後から付いてきた凌太くんは、
まるで私に、隠れるように前に出ようとしません。


『凌太くん!自信持って!すごくかっこいいから!』


そうやって凌太くんの背中の方に回り、
背中を押すと、
凌太くんが、恥ずかしそうに
創一くんに話しかけました。


『あ……、どうです……』


すると、凌太くんが、言い終わる前に
創一くんが駆け寄って
抱きしめました。


『凌太ぁ!!!すげぇ、綺麗!』

『はぁ?何っ?』

『うわぁ!!!もう俺、凌太のタキシード姿見れただけで、満足!』

『何、人前で抱きついてるんですか!』


2人の様子を見た夫が、静かに呟いて、
カメラを構えました。


『幸せそうだな……。』

『……そうね。』


創一くんは、凌太くんの事、
ほんとに大好きなんだと思いました。

2人に気づかれないように、
夫は、2人を撮り始めました。

私は、その中で、
あんなに創一くんに愛されているのに
凌太くんの顔に翳りがあるのか
理由を考えていました。



凌太くんを曇らせているものは…何だろう。



そんな中で、創一くんは、
まっすぐに凌太くんに気持ちを伝えています。


『いいじゃん!俺、幸せ。』

『……春田さん。』


今まで強ばっていた凌太くんの顔が、
柔らかくなって、
照れながらも幸せそうな顔になりました。

お互い想い合ってる二人…。

なのに、凌太くんは、何を抱えているんだろう……。


『まぁ…とても幸せそうで、いい表情ね。』

『ほんとだな。いい画だ。撮っている私すら、幸せな気分になる。』


私達の呟きが聞こえてしまい、
凌太くんの顔が少し赤くなりました。


『春田さん!もう!!』

『あ、ごめん…。』


そう言って、凌太くんは、創一くんの後ろに
隠れてしまいました。


『凌太?』

『やっぱり、恥ずかしくて無理。』

『何でだよぉ。凌太。』

『……。』


やっぱり、ちょっと難しいかもしれません。

夫が小さな声で、


『大丈夫。いい写真は、撮れたから、終わりでもいい。』


と、呟きました。

すると、創一くんも、凌太くんに
小さな声で、言ったのです。


『凌太…。無理しなくてもいいから。』

『え?……でも…。』

『大丈夫。こういうの、無理してやる事じゃないし。二人が望んでやる事だろ。』


私も同意しました。


『素敵な一枚が撮れたから、十分よね。』

『そうだな。』


その時でした。


『じぃじ!ばぁば!』

『あら!みゆ!』


早速、孫が来ました。
ところが美優は、私達の所ではなく、
創一くんの方に目を向けていたのです。




つづく