「ダイバーシッシュ」(似非ダイバーシティ)と言われないための10のガイド | 艶(あで)やかに派手やかに

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「女性」✕「発達障害」✕「アラサー」×「グローバル」の立場からダイバーシティ(多様性)について発信しています。

ダイバーシティをアピールしながら実態は「どの人材が自社に合わせられるかに基づいた選り好みの激しいインクルーシブ」な企業を揶揄し、本当のダイバーシティへのコミットメントを呼び掛ける広告"diversish" (ダイバーシッシュ )が、今年のクリオ賞のパブリックリレーションズ部門のブロンズ賞に選ばれました。クリオ賞は1959年に設立され、広告、デザイン、コミュニケーションにおける国際的な名誉ある賞で、ザ・ワン・ショー、カンヌライオンズと並び世界三大広告賞の一つ。映像、デジタル、ソーシャル、デザインなど多くのメディアを対象としており、トロフィーが授与されるブロンズ、シルバー、ゴールドに選ばれるのは、各カテゴリーにエントリーされた作品のうち5%以下。毎年9月上旬に発表されます。

この広告を発信したのは、Valuable500という障害者雇用にコミットメントするグローバル企業500社を集める運動団体。

 

こういう広告が著名な広告賞を受賞したことは、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を掲げ発信する企業が増えてきたものの、それに伴う弊害への問題意識が特に欧米で高まってきていることの表れではないでしょうか。

 

グローバル企業で相次ぐD&I方針と実態の乖離が疑われる問題

 

グーグル社内で男性エンジニアが「女性エンジニアが少ないのは性差別ではなく能力不足が理由」と持論を展開したメモを対外発信したことや幹部のセクハラとそれに対する社員ストライキが問題になりました。フェイスブックの元従業員が社内の人種差別を告発する投稿をブログに行っていた問題もありました。ユニコーン企業ともてはやされながらIPO頓挫・CEO辞任で時価総額が急落したウィーワークもおぞましい内情が報じられています。これらの企業はどれも多様性に寛容な社風を対外発信してきましたが、実態との乖離が疑われることになりました。

 

いま、グローバル企業の90%がD&Iを方針に掲げていますが、その多様性アジェンダに「障害者」を加えていたのはわずか4%とも言われています(Valuable500)。確かに英米など障害者の法的な雇用義務がない国も多くあります。「ジェンダー」や「人種」に比べ「障害」はパフォーマンスやコストに影響するので多様性アジェンダに加えにくいと考えられているのでしょう。ヘッドカウントの考えが強く健常者と同じ仕事のできる障害者の採用しか進められないという企業は少なくありません。しかしそれは正しい見方でしょうか。それこそ日本の法定雇用率を上回る数の障害者を雇用して生産性を上げている企業は数多く存在します。Valuable500はグローバル企業に対し、多様性アジェンダにジェンダーや人種やLGBTと並んで障害者を加えることを呼びかけています。

 

そして何より、マイノリティ社員に優しくないマネジメントを仕方がないと見過ごしながら、それをオープンにせずD&Iを大々的にアピールすることは、マイノリティ当事者やそのアライ(賛同者)の信用を失うことにならないでしょうか? 「ダイバーシッシュではないか?」と疑われるような実態は、社員の自社に対する期待値の低下、採用活動への悪影響につながらないでしょうか?

 

ボストン・コンサルティング・グループが英国の従業員2000人を対象に行った調査では、ダイバーシティについて雇用主を信頼していない従業員は、仕事を辞める可能性が3倍高くなる(PINGINC)そうです。自分の勤務先はD&Iを重視していると考える従業員の割合は相対的に、女性、LGBT、黒人・アジア系・少数民族のグループでは低く、白人男性のグループでは高くなるそう。リポートには障害者の回答者は出てきませんが、もしやっていたらもっと悪い数字が出たかもしれません。D&I方針と実態との乖離で人材流出にもつながりそうです。

 

ダイバーシッシュ・コミュニケーションガイド

 

企業の対外発信に伴う弊害にはこれまでにも、「グリーンウォッシュ」(greenwash)という環境配慮をアピールしながら実態はかけ離れた問題、「SDGsウォッシュ」(SDGswash)というSDGs(国連の定めた持続可能な社会に向けた17の目標)を掲げながら実態を伴わない問題がありました。「ダイバーシッシュ」もそうした問題と関連付けながら考えることができます。

 

そこで、「ダイバーシッシュ」と言われないためのガイド(ダイバーシッシュ・コミュニケーションガイド)を、英国のコンサルティング会社Futerraによる「グリーンウォッシュ・ガイド」と、電通による「SDGsコミュニケーションガイド」を参考に作ってみました。

 

1.言葉の意味が限定しにくく曖昧な印象の言葉は避ける

明瞭な意味を持たない言葉や用語(「LGBTフレンドリー」など)の使い方には注意。

2.雇用環境がブラックなど印象が悪い企業は、ダイバーシティをアピールするのを避ける

例)ハラスメント、長時間労働、人員使い捨てが常態化している職場で「女性活躍」「障害者雇用」

3.事実と関係性の低いイメージ図を使わない

証明されていないにもかかわらずダイバーシティなインパクトを暗示するようなイメージ図。

例1)女性が活躍しているイメージを使っているが、実態はごく一部の同一部署にしか女性が配属されていない。

例2)障害者対象のボランティア活動のイメージを使っているが、実態は法定雇用率は大幅未達成。

4.的外れの主張は避ける

それほどでもないダイバーシティへの取り組みを大きく強調して訴求したり、小さな取り組みを大げさに取り上げる。

例1)日本人男性が9割の年功序列の企業で「出身学部に関係なく」多様な人材が活躍していることをダイバーシティと訴求する。

例2)法定雇用率は大幅未達成なのに、雇っている障害者1人だけを強調する。

5.ドングリの背比べは避ける

ダイバーシティが大幅に遅れている産業のなかで同業者と比較し、「同産業で最高レベル」と主張すること。また、その他企業よりも若干ダイバーシティが進んでいることをアピールすること。

6.明らかに論理性に欠ける場合は避ける

業績が悪化しリストラが始まりそうな企業がダイバーシティをアピールしたところで、実態は伴ってきそうにもないのは明らか。

7.あからさまなウソ、根拠がない表現は避ける

数字の水増しは論外。正しいかもしれないが、根拠がない表現も避ける。

8.国・世代などで価値観・文化の違いがあることを認識しておく

差別やハラスメントに関する感覚は、国・世代などで異なる場合がある。かつては「厳しい指導」で済んだ行為も現在ではパワハラで処分される行為は多くある。そして今はグレーとされている行為も将来的にはどうなっているかわからない。国別でもしかり。

9.現実を直視する

ダイバーシティを完全に実現できている企業はない現実は誰もが理解している。現在のポジションを認識し、遅れている部分は遅れていると正直に伝えたうえで、現在の進捗状況を伝えれば、悪い印象は持たれない。

10.自分達を過信せず、マイノリティ当事者や外部専門家の意見に耳を傾ける

「自社はダイバーシティが他社より進んでいる」と思い込んでいると痛いことになる。もっと進んでいるところは自分達の知らないところに多くある。発信は、外部の専門家の協力を得たり、マイノリティ当事者社員から説明するようにする方が、信頼感が増す。