シャヒーダーがかわいいなぁ、と思っていたら、サスペンスに次ぐサスペンスで、あっという間に壮大な迷子になってしまった……。すごいテンポ感。

 パキスタン側のカシミール地方に住む、声の出せない少女シャヒーダーは母と共にデリーの聖廟に礼拝に行った帰りに、事故で停車していた電車から、母の眠っている隙に外に出てしまったことで、インド側に取り残されてしまいます。同じ方向に向かうと思って乗り込んだ貨物列車が全然違うところに行ってしまったため、どことも知らないところに辿りついてしまったシャヒーダー。そこで善良な青年パワン(あだ名がバジュランギ)と出会い、彼が身を寄せるデリーの家庭で過ごすことに。声が出せず、就学していなかったため文字も書けないシャヒーダーはそこでムンニ(お嬢さん)と呼ばれ可愛がられますが、ひょんなことから出身地が判明し、パワンが家へと送り届けることに。

 ここで、めちゃくちゃ影響するのがインドとパキスタンの国際関係です。第二次世界大戦後に分離独立して以来、3度戦争しています。それこそカシミール地方は、その帰属をめぐってインド、パキスタン、そして中国も対立している地域。それでも第3次印パ戦争が1971年で、Netflix版ドラマの『三体』で言及されたカルギル紛争は1999年。本作でもまだまだ戦争の記憶を生々しく持っていて、相手国を憎む人がいるという描写があります。冒頭でも、デリーへの礼拝の旅行では、シャヒーダーの父親が「自分は兵役についていたからビザが降りない」って言ってたし。本作が舞台にしている時代はそこまで明確には示されませんが、スマホや動画投稿サイトがあるので、大体製作年代当時でいいのかなと思います。てことは、今でも双方の国にそういう人はたくさんいるのでしょう。そういえば、2008年ごろにインドに旅行に行ったことろ、橋の写真を撮ってはいけないと言われたことを思い出しました。軍事目標になりうる施設だということで。

 そんなわけで、シャヒーダーをパキスタンに送り届けること、それもパスポートはおろか身分を証明する書類が一切ない少女を連れて国境を越えることは当然とても難しいことになります。在インドのパキスタン大使館は、暴徒に襲われて閉鎖しちゃうし。その難行を、パワンはその善良さ、善行を信じる心と、ハヌマーンへの信仰心で、一歩一歩遂行していくわけです。

 後半は無垢なシャヒーダーと善良なパワン、彼らの事情を知り行動を共にするフリーの記者チャンド・ナワーブの、司直から隠れながらのロードムービーになります。危険と背中合わせでありながら、いろんな町や景色が観られてちょっとほのぼのした雰囲気も。そのシャヒーダーの無邪気な様子とパワンの献身を収めたチャンド・ナワーブの動画が、のちに人々の心を刺激してパワンのインドへの帰還を後押しして感動のクライマックスへ。そして最後のシャヒーダー……! マクロにもミクロにも感動的なラストでした。

 

 しかしまあ、いろいろ考えてしまうよね。『ストリートダンサー』でもインドとパキスタンの対立は描かれていたけれど(そして本作同様クリケットの試合がかなりの重大事として扱われていた)、本作はもっと生々しかったなと思う。本国に、国境を接して住んでいるとなおさらなんだろうなぁ。観ながら少しベルリンの壁とか、朝鮮統一問題とか、ガザとかを思い浮かべてしまった。第二次世界大戦や戦後処理の影響は、まだまだあるんだな、と思い知らされる。