さわりにすぎなかった〈その1〉
構成を分析した〈その2〉
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につづき、今回はパクリの件について。
パクリ云々は、ヂョーさんのブログで知りました。
主旨をかいつまみますと、
今敏(こん・さとし)監督の『PERFECT BLUE(パーフェクト・ブルー)』(1997)の、
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ストーリー基本骨子から,
場面設定、
はては個々のショットまで、
パクリが明々白々なのに、
ダーレン・アロノフスキー監督は完全否定。
これに対するネットの論調はおおむね、
「しらじらしい」
「ふてぶてしい」
「なぜしらばっくれる」
といった感じらしく、
最近何かと話題(笑)の、映画評論家の町山智浩氏も、
『ブラック・スワン』を「傑作」と前置きしたうえで、
「引用は恥ずかしいことじゃない。
タランティーノは自作のパクリを、先輩諸氏へのオマージュだと堂々と広言してる。
今(こん)監督が昨年逝去されたこともあり、日本公開バージョンにだけでもせめて、献辞を捧げれば満点だったのに」
という主旨の発言をされている。
該当するポッドキャストを聴く。
どの意見も、それぞれの立場からするともっともなんだけど、
クリエーターに、元ネタだとかパクリ云々の話をもちかけても話がかみあわず、平行線のままで終わる可能性がきわめて高いと思い、それがなぜなのかを書いておきたい。
いえ、別に他者の例を持ち出すまでもなく、自分でも経験したことなので。
ちなみに私も、元ネタ探しは大好きです。
↓これと、
↓これの間の1枚について、
インタビューに同行したついでに、当事者本人に訊いてみても、
「なぜ自分への海外ファンへの敬意が示されて良いムードなのに、そんな無粋な質問をするのか」
という感じだったし、
高名な作品のリメイク企画を提案し、オリジナルで弱かった部分を理路整然と整えて提案しても、「そんなことに何の意味がある?」といった感じで、原作者にまるで理解を示してもらえなかったのも、一度や二度じゃない。
クリエイターっていうのは、自作こそがサイコーという自負がないと、その仕事を続けられなくなるからね。
で、アロノフスキー監督が、今監督の『PERFECT BLUE』から多くの引用をしたのは、『ブラック・スワン』が最初ではなく、『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000・未見)でもやっていて、
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そのプロモーションに合わせて、来日した際に、今監督とも会っている。
この時の今監督の感想は、「おいおい、無断でパクッといて、オマージュもクソもないだろう」って感じに読み取れる。
一方でアロノフスキー監督は、『PERFECT BLUE』にはとにかくご執心で、実写化権を獲得しようと奔走し、(上述の今監督のブログの段階では未遂)『ブラック・スワン』でもまたしてもたくさん引用しているが、その気持ちはおそらく、元ネタに敬意を示すと言うよりは、「パーツはサイコーなのに、なんで完成品がこんなにいびつなんだ? クソつまらねえ映画にしちまって! よろしい、俺が超一級品の、誰がみても面白い実写映画に作り直してやるぜ」って意気込みだった気がする。
そしてその意図は『ブラック・スワン』で見事に成功している。
だからアロノフスキーとしては、『PERFECT BLUE』のままだったら、世に埋もれて忘れ去られたアイディアを、俺がしっかり昇華させてやったぜ!という思いなのに、世間は「どうせこれのパクリじゃん」で終わらせたがる事への「そこかよっ!」ってツッコミの気分なんだと思う。
絵で描けば成立するアニメと、それを生身の俳優を使って実写で成立させるのと、どちらがタイヘンか。
私は今監督の作品は『パプリカ』(2006)しか観てないが、
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作画のクオリティには感心したが、話はつまらなくてホトホト参った。
上記のブログで、今監督は、「依存症の映画を監督したアロノフスキーに、タバコや酒等の依存症の傾向がないことに驚いた」と書いているが、この誤解こそが、今監督の最大の弱点だったと思う。
氏の作品は、現実と夢が交錯するストーリーが大半だったそうだが、観客も、途中から現実と虚構や幻想の区別がつかなくなるようなものばかり。
「あたりまえじゃん。そういう話なんだから」と思ってたんだろうけど、
そういう一種の「夢オチ」は、観ている者の作品への興味、関心を著しく削ぐことに気づいていない。
「そんなんだったら(=劇中できちんと、なぜそうなってるのか説明する気がなけりゃ)なんでもありで、どんなに無責任にでも大風呂敷を広げられるじゃん!」
「観客を惑わす以前に、作り手が混乱してるんじゃないの?」
と感じさせたら(見透かされたら)、終わりだと思う。
『ブラック・スワン』の主人公は混乱してるが、観客は混乱させられることはなく、筋立てや構造を見失うことはない。
これは大きな違いである。
このようにアロノフスキーは映画の極意を掴んだから、前作よりも新作の方が、よりおもしろい。
今監督の初作品が『PERFECT BLUE』で、『パプリカ』は5作目。
5作目でもクソつまらなくて、寝ちゃったよ!
などということを正直に吐露すると、いろいろとカドが立つし、死人に口なしで、今監督には反論のしようもないので、アロノフスキーは面倒くさいから、この件に関してはノーコメントを貫いているのだと思う。
※あくまでも私個人の感想であり、実際にそういう事実があったわけではありません
シャマランに、「この映画は、○○が元ネタですよね」と確認しても、
「そこかよっ! あのしょーもない映画を、こんなに魅せる(見せる)作品にみちがえらせた、オレの演出手腕に敬意を表す気はないわけ?」とか、「だから何? よしんば評論家ふぜいの言い分が正しかったとして、その評論家がオレより面白い映画を作ったりしてくれるわけ?」とヘソを曲げられるのが関の山だったり、
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※あくまでも私個人の感想であり、実際にそういう事実があったわけではありません。
ダース・ベイダーの元ネタが、『変身忍者嵐』の血車魔神斎で、ストームトルーパーの元ネタが『イナズマンF』のマシンガンデスパーなのが事実だとしても、
「だから何? そのままだったら顧みられずに終わった、一島国の子供向け番組のデザインが、世界最高のヒット映画に化粧直ししてもらったんだから、感謝してもらいたいくらいだよ」「それとも何、盗作だって訴えて、金をせびりたいわけ?」
って開き直られるのと、通ずるような気がする。
※あくまでも私個人の感想であり、実際にそういう事実があったわけではありません。
『ブラック・スワン』については、これでおしまい。