昔、『リバーランズスルーイット』というフライフィッシングを通じて家族愛を映し出す良い映画だった。その映画のワンシーンで、少年期のノーマンとポールの兄弟そして父親と釣りをするシーンがある。兄弟がそれぞれ釣れた魚を並べて見せ合っている。そのあとで父親がそれらよりかなり大きいマスをクリールから取り出して父としての威厳を表す、そのような場面。そのときに、兄弟が釣り上げたマスは普通の銀色と薄いピンクの虹鱒らしい色をしているのだが、父親が釣り上げたマスは大きくかつ茶色がかっていた。その色の違いを不思議に思ったシーンだった。
(映画のワンシーン)
プレッシャーの高い条件でどうやって魚を釣るのか、というのはずっと考え続けてきたことである。
プレッシャーが高い条件というのは、釣り人がたくさん入っていて、渇水気味で、かつ、水温が上がっていて、など。あと、バラされたあるいはリリースされた魚はどこに逃げ込むのだろうか、それを釣るためにはどうすればいいのだろうか。こういった疑問はこの釣りを始めた当初からずっと持っていた。というのも、昔、故西山徹氏の釣りの様子を書いた記事を読んだことがあった。プレッシャーの高い川でも氏はそれでも魚を釣る、他の人が攻めても釣れない条件でも、魚を出して釣り上げるのだと。ということは厳しい条件でも熟練している釣り人は釣る方法と魚の習性を知っていてどこに魚が逃げ込むのかということを知っているのだと。
夏の釣りは難しい。気温水温とも高くなり、魚は水温の低い深い淵に沈んでしまう。またカゲロウやカワゲラの羽化が少なく成りマスは水面近くに出てこなくなる。
そんな時期に三連休ということ、アパラチア山脈のスモーキーマウンテンズと呼ばれる地区の一部、チェロキー地区を流れる川に釣りに出かけた。一日目は移動で、現地に到着したのが午後5時前ぐらい。それでも釣り人の車がそれぞれのポイントに数台ずつ停まっている。魚へのプレッシャーが高くなるのは予想通りだったが。
釣りを開始したのが6時少し前だった。四月にその川に訪れたときは夕方のその時間からでもよく釣れたし魚も出てきてくれたのだが、夏ということで魚は出てこない。かろうじて出てきたのが30cm未満のニジマスが数匹のしょぼい釣りだった。先に現地に到着して釣りをしていた友人は数時間前に60cmクラスを釣り上げたというのだから、魚がいないというわけでわない。ただ渋いのだ。プレッシャーともいう。連休の一日目でしかも真夏。魚が釣れやすい条件としてはあまりよくないことは確か。その日はそれだけでキャンプ地のコテージに戻った。
翌日、二日目。早朝から釣りを開始したけれども、状況はあまり変わらず。川の流れも渇水気味。よくない。
一雨降れば状況が変わると思っていたところに、恵みの集中豪雨があった。雨がやや小降りになってきた頃に再び川にいった。
準備をして川に降りると、雨が止んだあと急激に気温が上昇したせいで水面上に水蒸気が覆いかぶさっていた。最高に良い条件が整った。
その場所は道から河原に出る場所にちょうど大きな淵がある。ここに来る釣り人はほぼ全員がこの淵を狙うのだ。とすれば、魚はどこに逃げ込むのだろうか、とするとその次のちょっと深みになっているところか、あるいは日陰になっている瀬にいるか、と考えて両方をカバーする形で毛鉤を流すことにする。そして毛鉤の種類は?と考えたのは、水生昆虫はどこを見ても飛んではいない。左右両岸の樹木は広葉樹である。ということは陸生昆虫(テレストリアル)か。普段はあまりマッチザハッチを意識することはないのだが、まさかなぁと思いつつカナブンに見立てた黒く沈みにくい毛鉤をドロっパーに。リードフライにはなんにでも対応できるシルバーサルタン#14にした。
対岸の少し深みのある流れに毛鉤を送り込み、その流れがその横の瀬に重なるところまで流し、瀬のど真ん中をスイングさせて回収するというイメージで毛鉤を流してみた。
しばらくするとマスらしくなく一度だけのグンっというあたりがあった。小さいマスか?と一瞬思ったが、毛鉤を加えたままそこの方にじっとしている。そしてゆっくりと首を振り、体をよじり始めた。比較的大きい魚だろう。竿が4番ということでなかなか寄ってきてくれない。結局、取り込むまでにかなりの時間かかってしまった。
取り込んだ後、何枚か写真を撮り、魚を流れに返した。腕がだるい。
少し休憩するべく川原の大きな石に腰掛けてタバコに火をつける。
なぜ、ドロッパーのカナブンフライを食ったのだろうか。ここの魚は陸生昆虫を食っているのだろうか。。。どうだろうか。。。と疑問を持ってしまう。この解答を簡単に得るために、ストマックポンプを使って胃の内容物を確認すればよかったのだが、ストマックポンプを持ち歩いていないし、そのときはすっかり失念していた。
一服したあと、もう一度同じ場所に立って同じように流してみた。もう一尾いるかもしれない、という思いで。
すると、なんともう一尾かかった。同じような食い方だった。こんどは引きは一尾目のものよりは激しくないが重い。もう強めにやりとりしてもいいのではないかと引き寄せる強さを強めながら寄せてネットに収めた。
今度は茶色ががった大きなオスのニジマスだった。今度もドロッパーのカナブンフライに食いついていた。
ということは、このカナブンフライがこの場所とこの状況にマッチしたのだ。同じくゆっくり吸い込むように食いついたのだ。ということは、釣れ方からしてマスが毛鉤に対して疑いなく食ったのだと推察できる。
魚の色は茶色っぽい体をしていた。一匹目はメス、二尾目はオス。ふと、『リバーランズスルーイット』の映画の例のシーンを思い出した。
いろいろ学びのあった釣りになった。
前回この川に来た時は、初めてきた川でも自身のやり方で良い魚が釣れた。ここはキャッチ&リリース区間であるので魚はたくさんいるのだが。
今回は、プレッシャーの高い条件、場所を見切って、虫を読みきって逃げ込んだ場所を狙って釣った。こういう疑問を持ってから20年ほど。ここまでくるまで20年もかかったんだなぁと、釣った喜びよりも、長く続けてきたことを感じる。だが、もっと奥深い部分があるのだろう。まだまだだなぁと思う。







