空と風と川の流れを. -36ページ目

空と風と川の流れを.

 空と風と川の流れを求め,素の自分を表現できたら良いなと.

 昔、『リバーランズスルーイット』というフライフィッシングを通じて家族愛を映し出す良い映画だった。その映画のワンシーンで、少年期のノーマンとポールの兄弟そして父親と釣りをするシーンがある。兄弟がそれぞれ釣れた魚を並べて見せ合っている。そのあとで父親がそれらよりかなり大きいマスをクリールから取り出して父としての威厳を表す、そのような場面。そのときに、兄弟が釣り上げたマスは普通の銀色と薄いピンクの虹鱒らしい色をしているのだが、父親が釣り上げたマスは大きくかつ茶色がかっていた。その色の違いを不思議に思ったシーンだった。

(映画のワンシーン)

 

 プレッシャーの高い条件でどうやって魚を釣るのか、というのはずっと考え続けてきたことである。

 プレッシャーが高い条件というのは、釣り人がたくさん入っていて、渇水気味で、かつ、水温が上がっていて、など。あと、バラされたあるいはリリースされた魚はどこに逃げ込むのだろうか、それを釣るためにはどうすればいいのだろうか。こういった疑問はこの釣りを始めた当初からずっと持っていた。というのも、昔、故西山徹氏の釣りの様子を書いた記事を読んだことがあった。プレッシャーの高い川でも氏はそれでも魚を釣る、他の人が攻めても釣れない条件でも、魚を出して釣り上げるのだと。ということは厳しい条件でも熟練している釣り人は釣る方法と魚の習性を知っていてどこに魚が逃げ込むのかということを知っているのだと。

 

 夏の釣りは難しい。気温水温とも高くなり、魚は水温の低い深い淵に沈んでしまう。またカゲロウやカワゲラの羽化が少なく成りマスは水面近くに出てこなくなる。

 そんな時期に三連休ということ、アパラチア山脈のスモーキーマウンテンズと呼ばれる地区の一部、チェロキー地区を流れる川に釣りに出かけた。一日目は移動で、現地に到着したのが午後5時前ぐらい。それでも釣り人の車がそれぞれのポイントに数台ずつ停まっている。魚へのプレッシャーが高くなるのは予想通りだったが。

 釣りを開始したのが6時少し前だった。四月にその川に訪れたときは夕方のその時間からでもよく釣れたし魚も出てきてくれたのだが、夏ということで魚は出てこない。かろうじて出てきたのが30cm未満のニジマスが数匹のしょぼい釣りだった。先に現地に到着して釣りをしていた友人は数時間前に60cmクラスを釣り上げたというのだから、魚がいないというわけでわない。ただ渋いのだ。プレッシャーともいう。連休の一日目でしかも真夏。魚が釣れやすい条件としてはあまりよくないことは確か。その日はそれだけでキャンプ地のコテージに戻った。

 翌日、二日目。早朝から釣りを開始したけれども、状況はあまり変わらず。川の流れも渇水気味。よくない。

 一雨降れば状況が変わると思っていたところに、恵みの集中豪雨があった。雨がやや小降りになってきた頃に再び川にいった。

準備をして川に降りると、雨が止んだあと急激に気温が上昇したせいで水面上に水蒸気が覆いかぶさっていた。最高に良い条件が整った。

 その場所は道から河原に出る場所にちょうど大きな淵がある。ここに来る釣り人はほぼ全員がこの淵を狙うのだ。とすれば、魚はどこに逃げ込むのだろうか、とするとその次のちょっと深みになっているところか、あるいは日陰になっている瀬にいるか、と考えて両方をカバーする形で毛鉤を流すことにする。そして毛鉤の種類は?と考えたのは、水生昆虫はどこを見ても飛んではいない。左右両岸の樹木は広葉樹である。ということは陸生昆虫(テレストリアル)か。普段はあまりマッチザハッチを意識することはないのだが、まさかなぁと思いつつカナブンに見立てた黒く沈みにくい毛鉤をドロっパーに。リードフライにはなんにでも対応できるシルバーサルタン#14にした。

 対岸の少し深みのある流れに毛鉤を送り込み、その流れがその横の瀬に重なるところまで流し、瀬のど真ん中をスイングさせて回収するというイメージで毛鉤を流してみた。

 しばらくするとマスらしくなく一度だけのグンっというあたりがあった。小さいマスか?と一瞬思ったが、毛鉤を加えたままそこの方にじっとしている。そしてゆっくりと首を振り、体をよじり始めた。比較的大きい魚だろう。竿が4番ということでなかなか寄ってきてくれない。結局、取り込むまでにかなりの時間かかってしまった。

 取り込んだ後、何枚か写真を撮り、魚を流れに返した。腕がだるい。

 少し休憩するべく川原の大きな石に腰掛けてタバコに火をつける。

 なぜ、ドロッパーのカナブンフライを食ったのだろうか。ここの魚は陸生昆虫を食っているのだろうか。。。どうだろうか。。。と疑問を持ってしまう。この解答を簡単に得るために、ストマックポンプを使って胃の内容物を確認すればよかったのだが、ストマックポンプを持ち歩いていないし、そのときはすっかり失念していた。

 

 一服したあと、もう一度同じ場所に立って同じように流してみた。もう一尾いるかもしれない、という思いで。

 すると、なんともう一尾かかった。同じような食い方だった。こんどは引きは一尾目のものよりは激しくないが重い。もう強めにやりとりしてもいいのではないかと引き寄せる強さを強めながら寄せてネットに収めた。

 今度は茶色ががった大きなオスのニジマスだった。今度もドロッパーのカナブンフライに食いついていた。

 ということは、このカナブンフライがこの場所とこの状況にマッチしたのだ。同じくゆっくり吸い込むように食いついたのだ。ということは、釣れ方からしてマスが毛鉤に対して疑いなく食ったのだと推察できる。

 魚の色は茶色っぽい体をしていた。一匹目はメス、二尾目はオス。ふと、『リバーランズスルーイット』の映画の例のシーンを思い出した。

 いろいろ学びのあった釣りになった。

 前回この川に来た時は、初めてきた川でも自身のやり方で良い魚が釣れた。ここはキャッチ&リリース区間であるので魚はたくさんいるのだが。

 今回は、プレッシャーの高い条件、場所を見切って、虫を読みきって逃げ込んだ場所を狙って釣った。こういう疑問を持ってから20年ほど。ここまでくるまで20年もかかったんだなぁと、釣った喜びよりも、長く続けてきたことを感じる。だが、もっと奥深い部分があるのだろう。まだまだだなぁと思う。

 

 

 

 

 

 ウェットフライの釣りの楽しさに気づけばどんどん嵌っていく。そして、さまざまな疑問が湧き出てくる。

 しかし、どんな疑問を持ったところで、沢田賢一郎氏の書籍、書物、ビデオにそのすべての疑問の答えがある。

 沢田賢一郎著の『ウェットフライフィッシング』という書籍はウェットフライフィッシングの基本を網羅した内容で、ずっと後に発表された『ウェットフライ探求』という本はその応用編とされている。

 その本の一頁に、必須とされる15本のウェットフライパターンが紹介されている。『これらフライを使いこなすことであらゆる場面に対応できる』とも書かれている。その挿写真と文章を見たとき、『本当か?』と思った。なぜなら、沢田賢一郎氏自身が『ウェットフライパターン400』という本を出しているほどウェットフライパターンはたくさんあるのだ。それなら何の目的でそれ以外のパターンが存在するのかと。しかし、よくよく本の文章を読み進めていくと、それぞれの使用用途と場面が書かれてある。それならそれで次の釣りの際にはその通りに使ってみようと思い、それらフライパターンをフライボックスに入れて出かけた。すべてのパターンを使ったわけではないが、夏の山岳渓流、里川、春先、イブニングライズ、管理釣り場など、なるほど、確かにそれぞれの場面に対応しているように思う。

 

 ドライフライは水面に浮かんでいるので、水中から魚が見た場合そのシルエットと色が重要である。それだけでなく、魚はおどろくほど空中を視ている。

 それに対して、ウェットフライは水中で直接魚に観られるので、形、色、大きさが重要で、つまり、毛鉤を見せつける釣りなのだ。色はその時々でその釣り場に存在する虫の色で決まるとして、

 フライの形については、沢田氏が述べてあるように”柔らかいフライ”と”固いフライ”に分けられる。

 

 ”柔らかいフライ”の代表はソフトハックルだろう。オレンジアンドパートリッジが有名なパターンであるが、この毛鉤についてはさまざまな使い方ができるオールマイティであると言われることがあり、ハックルがゆらゆらととして魚を誘惑すると解説されていたり、極端なものではフロータントをつけてドライフライとしても使える、と書かれているのをどこかで読んだことがある。しかし、この毛鉤をすーっと流れに逆らって引いてくると明らかに小魚を模している。オレンジのシルクフロスで巻かれたボディは水中では茶色になり、後方に流れたハックルは魚の形のような紡錘形になる。しかし流れを横切ったり複雑な流れに入ってしまうと形は一気に崩れてしまってゴミにしか見えない。

 私としてはこのタイプの毛鉤は止水に近い緩い流れをすーっと小魚が泳ぐように引いてくるか、マスがいるところを超えてキャストして着水してある程度沈んでから止めずにすーっと引いてくるような使い方が正しいと思っている。

 ”硬いフライ”とは、しっかりとしたウイングで水流による型崩れが起きにくいタイプの毛鉤で、ロイヤルコーチマンやジョック、シルバーマーチブラウンなどが分類される。ダウンクロスだけでなくアップクロスに投げて水流にもみくちゃにされてもしっかりとその形を鱒に見せることができる。

 それ以外にも、色とサイズをその場にいる虫に合わせる、つまりマッチザハッチを意識したウェットフライがあるが、しかし、ウェットフライは現実には存在しない色使いをした毛鉤が効果的であったりする。ロイヤルコーチマンはアリや陸生昆虫を意識していると言われているが、あんな虫は存在しない。前ブログの画像のジョックはよく釣れる毛鉤であるが、いったい何を模しているのだろうか。それだけウェットフライは奥が深いし、なによりも毛鉤を巻くこと自体が楽しくてしかたがない。(気が向いたらつづく)

 

 

 

 


 

 先日、友人とウェットフライの釣りについて語りあったのだが、釣り人口が日本では人口の約5%、さらにそのうちの5%程度がフライフィッシングをしている人で、その中でもウェットフライの釣りをしている人がどれぐらいになるかというともっと少なくなるだろうと言っていた。さらに別の友人はウェットフライの釣りで多用されるドロッパーシステムがよくわからない、リードフライとドロッパーの長さの取り方がよくわからないとも言う。

 

 ウエットフライの釣りでよく多様されている『ドロッパーシステム』は、枝針で先端から上部に取り付けるフライのことをドロっパーフライ、先端に取り付けるフライをリードフライと呼ぶものだが、ラインをフォルスキャストしている間に絡まってしまったり、取り付けるのが面倒で嫌う人も多い。

 この枝針によって複数の毛鉤を取り付けて釣る方法の歴史は古く19世紀末の釣りの書物にはすでに登場している。その目的は単純に種類や色の違う毛鉤を枝針に複数個、時には6個の毛鉤を枝針につけて、どの毛鉤に魚が釣れてくれるかという探る方法でから始まっている。当然、6つも毛鉤が付いたラインを投げることはなく上流から流すだけのものである。少し前までHardyから以前に販売されていたウェットフライ用のリーダーは一本のリーダーに四つの毛鉤が取り付けられるように枝須がついていた。実際、19世紀中期までのフライフィッシングはラインで飛ばす現在のスタイルではなかったのだ。

 しかし、複数個の枝針による釣りから、現在のドロッパーとリードフライの2個の釣りに至る現代まで、その考え方は変化したきた。ドロッパーは水面あるいは水面下付近にいる虫、リードフライは水中に流れてくる虫とを区別して同時に魚に見せることができ、時にはドロッパーフライを引きずって水面直下に浮上させ、それに追従するリードフライの動きから羽化に似た虫の挙動を模すことができる。また、ドロッパーとリードフライのサイズの差を大きく取ることによって、大き目のドロッパーフライで魚の関心を引き、小さめのリードフライのほうが水中にあるので捕食しやすいのかリードフライで食わせるというような、二つの毛鉤の関係性を利用して良い効果が生まれる。この考え方はドライフライの下にニンフフライを取り付けて釣る”トレイン”と呼ばれれるものと同様だと思われる。

  リードフライを結ぶ先端のティペットの太さはその川の状況と対象とする魚のサイズによる。日本の渓流ではさしずめ5X程度か。とするならドロッパーを結ぶティペットは2Xや3Xでもよい。このことからもリードとドロッパーフライの二者の相互関係が存在し魚が反応を促していると思われる。

 

 釣り上がりのウエットフライ

 沢田賢一郎氏の『ウェットフライフィッシング』というビデオの中で、『ウェットフライで釣り上がっていく場合、ドライフライのそれとあまり変わらない』と言っている。ナチュラルに流すことを心がける。あまり深く考えずドライフライの釣りの要領でも魚は出てきてくれるのではないか。釣り上がり、つまりアップキャストで投げていく場合、ドライフライをポイントに毛鉤を落とすように投げればいいのであるが、このとき、ラインは手前に戻ってくるので毛鉤はあまり沈んではくれない。ドロッパーに結んだフライは流れが速ければ速いほど水面近くを流れてくる。ドロッパーの毛鉤が沈まないのでリードフライもそれに追従して少し下を流れてくる。ラインをメンディングしてナチュラルに流れるようにすると、毛鉤をより深い状態で保つことができる。

 またドロッパーに結ぶ毛鉤の種類にもよる。ボディーハックルを多く巻いたようなセッジパターンやウイングをフラットに巻いたようなパターンであれば沈みにくい。こうなってくるとドライフライの釣りと変わらなくなってくる。

 夏場やプレッシャーの高い川であれば、魚は白泡の下あるいはその付近に居ることがある。このときは、落ち込みの流れの中にドロッパーから毛鉤を投げ込む。すると水の流れは毛鉤とリーダーを引き込んでいく。フライは流れない。そこから竿をすっともちあげていくとドロッパーの毛鉤は下流に流れはじめ、リードフライはさらに深く沈む。これを縦のターンと呼ぶそうだが、これを実現させるためには適切なドロッパーとリードフライの長さを考慮すべきであって、基本的には落ち込みの深さあるいは水深と同じにすればよい。また、この縦のターンの釣りを実現させるためにはどういう道具立てが良いかと考えると、竿先を毛鉤を投げ込んだ位置の上で高く保持するので小渓流でも長めの竿が良いはずである。奈良や福井の山岳部の小渓流では8.5ftかそれより長い竿が理想じゃないだろうか。(つづく)