五十と少し歳をとったことで、最近気づいたことがある。ぼーっとする時間が増えてきた。若い頃は四六時中何かを考えていた。と言っても、研究のことと釣りのこと、生活のことが常に頭の中をぐるぐる回っている状態だった。また、釣りに出かける道中、長時間の運転中に覚醒を保つためと、退屈しないために研究発表のプレゼンの練習なんかをしていたものだが、最近はせっかく釣りという非日常にでかけるのだから無理矢理頭から仕事のことを切り離そうと努めてきた。最近、何も考えないでいることに慣れてきた。
釣り道具は主に車中のトランクに、キャンプ道具は屋根のラックに積み込んだ。目指すは再びノースカロライナ州のチェロキー。
予約しておいたキャンプ場。あてがわれたキャンプサイトは偶然にも前回と同じだった。チェックインしたのが4時半頃だった。テントとタープを組み立てた。タープっていうのは一人でやるもんじゃない。大変だった。
それだけを明るいうちに済ませてから川に向かった。結果としては30cmにも満たないニジマスが一尾だけだった。
前回のキャンプで大体の勝手がわかったこともあり、今回はもう少し料理などを楽しもうと考えた。なによりも、一番やりたかったことはキャンプ地で「ジントニックを飲む」ということだった。特に理由はない。とにかくキャンプ地でジントニックを飲みたかったのだ。
もうこれだけで今回のキャンプの目的は達成できたような気分になった。
あとは適当にパスタを晩飯に作った。
そのあと、タープの下のテーブルで、あまりなにも考えずにじっとしていた。何も考えていない、ということに気づく。良いことなのか悪いことなのかよくわからないが、とにかく何も考えてなかったが、それからしばらくして、ふと、仕事のことについて迷っていたことについての明確な答えが浮かんだ。身も心も落ち着いた状態で出す結論が一番的確で正しいはず、と思い込んでいるのだが、とにかく明確な答えが出た。
ただ、キャンプ地は意外なほど寒かった。自宅のあるチャールストンでは日中まだ30度を超える毎日だったこともあり、アパラチア山脈の山間部とはいえまだそれほど寒くないだろうと思っていたのだが、甘かった。テント内で寝袋だけでは寒く、その上からブランケットを羽織ってなんとか寒さに耐えた。使ったテントは3シーズン用のもので冬は考慮されていない。テント内でヒーターを焚きたかったがそれも持ち合わせていなかった。
釣り。
夜は寒さもあってあまり眠れなかった。起きたのは8時になっていた。肌寒く湿った空気の中でコーヒーを淹れる。
そういえば、今回、このコールマンのストーブも新調した。釣りを始めた26年前にもコールマンの同様のものを買った。最近は軽量でガス式のストーブが主流であるが、自分としてはやっぱりこれでないとしっくりこないと思ったので新たに買った。普通に働いてくれた。
釣り
早々に朝食を取り、川に向かった。時間は10時頃になっていた。
川にはどんな虫が飛んでいるかを探してみたが、非常に小さい白いユスリカしか飛んでいなかった。サイズにしてみたら#24−26。ああ、厳しい釣りになるなと思っていたが、案の定厳しい釣りになった。ただ何の反応も手応えもなく毛鉤を流すだけ。やっと毛鉤に食いついてきたのは10cm程度の生まれたばかりのニジマス。1ヶ月前の釣りで全く釣れなかったこともあり、嫌な予感するだけだった。なによりも体力がなかった。少し川を進んでは岸の石に腰掛け一服。少し流しては一服、というのを繰り返してしまう。気持ちが乗らないときっていうのはそのようになりがちである。
そこで一度毛鉤を付け替えた。ドロっパーにも白いメイフライ系#12、先端には#14の同じく白のメイフライ。あまりこういう組み合わせはしないのだが、飛んでる虫が白いユスリカしかないのでこうせざるを得ない。釣れる確信を持てないまましばらく落ち込みのある流れを流していると、突然毛鉤がひったくられた。
合わせた瞬間に尋常じゃない大きさの魚がかかったことがわかった。普通なら喜び興奮する瞬間なのだろう。しかし、あまりの大きさから、このあと必要になる魚とのやりとりのハードさを考えると絶望的な気持ちになった。あーあ、えらいことになった、っていう気持ち。
これぐらい大きな魚になると、毛鉤を加えたままでも暴れることなく最初は平然と泳いでいる。そしてリールでやりとりしながら寄せてくるものだが、あまりにも大きいのでこちらから寄っていかなければならない。そうやって魚に近づいていくとようやく魚が暴れはじめた。逃げ惑う。
その間、上司から携帯に着信があって少し話さなくてはならなかった。そして同僚からのメッセージにも返信しなくてはならかなった。タバコも一本吸った。実にその魚とは30分ぐらいやりとりして、ようやく弱ってきたところで網に収まった。
それがこの魚。
自身の川でのニジマスの記録を更新した。
よくよく見ると腹に卵を持っているようだ。悪いことしたなと申し訳なく思う。
もうこの一尾で満足だった。もういいや、という気持ちでそうそうに切り上げキャンプ地に戻った。
キャンプ地に戻って昼飯。自宅から持ってきた牛肉のしぐれ煮で肉蕎麦作って食べた。
夕方からも少し釣りに行ったが、午前中の釣りで満足していて、それ以上の魚を望めないだろうと思ってしまったので適当に切り上げて再びキャンプ地に戻った。夕飯も前日と同じくパスタ。
夜更け頃に雨になった。そのせいか、前日より寒くはなかった。テントにぶつかる雨音を聞きながら眠った。
翌朝も雨は降り続いていた。最終日なので道具を片付けてテントとタープを撤収しなくてはならない。天気予報で調べてみても一日中止みそうもない。意を決して、ずぶ濡れになりながら撤収した。
全部車に積み込んでから、シャワーを浴びた。車の後ろのドアを跳ね上げた状態で、タンブラーに入れておいたコーヒーを飲んだ。そして一服。それから帰路に。
次のキャンプには冬用テント、焚き火の薪を割る斧、テント内で使うためのヒーターなど、また必要なものがわかる。これも経験。














