今年も将棋界はこの人の年だった。10月に八冠制覇を成し遂げた藤井聡太竜王・名人。わずか21歳で前人未踏の領域に到達したわけだが、そのCMのギャラも、もちろん空前の額に高騰している。
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八冠の現在の悩みは“強すぎること”。全冠を獲得したため、タイトル戦に挑むトーナメントやリーグ戦への出場がなくなった。年内の公式戦は事前収録のテレビ対局放送を残すのみで、実戦不足で勝負勘に狂いが生じる恐れも。空いた時間を利用し、11月末には高松琴平電鉄のイベントに出席。趣味の“乗り鉄”を満喫したが……。
一方で、多忙を極めているのは将棋連盟の職員だ。現在、連盟には藤井目当てでCMのオファーが殺到。そのさばきに追われているという。
「連盟から提示された額は1億円」
藤井八冠出演のCMといえば、サントリー「伊右衛門」や不二家などが挙げられる。この10月には、日本AMDなる半導体企業も契約締結を発表したが、
「藤井さんにオファーをすると驚きの額が提示されてくるそうで、広告業界では話題になっていますよ」
と声を潜めるのは、さる広告業界関係者である。
「実際、八冠獲得後、あるIT系の企業が将棋連盟を通じて出演を依頼した。そうしたら連盟から提示された額は何と1億円だったそうです。これはタモリさんやダウンタウン、大谷翔平に匹敵する最高レベルの数字。この時点でクライアントは諦めの境地だったそうですが……」
更なる異例の“条件”も付されたという。
「使用できる画像は“静止画だけ”だったそうです。連盟からの説明では、藤井八冠が今は将棋に集中したいので撮影のための時間が取れないのだと。1億円出して静止画だけではとてもペイできない。八冠獲得後は広く門戸を開いてくれると期待していたこのクライアントですが、すぐに撤退を決めたそうです」
発展に役立つか
藤井八冠といえば、中学生でプロ棋士となり、以来、将棋一筋。カネにうるさいイメージはないが、なぜかくもハードルの高い提示を行ったのか。
「断るための方便だったんじゃないかと思いますね」
と解説するのは、さる連盟関係者だ。
「藤井さんてホントにお金には無頓着なんです。CMに出て荒稼ぎしたいわけではない。本人は将棋に集中したいし、連盟もそうしてほしいと考えているんです。だからCMオファーが来た際の判断基準は“将棋界の発展に役立つかどうか”で、それを代理店にも伝えています。
CMに出て企業をPRするだけでなく、将棋界への貢献につながらないと駄目だと考えているのです。サントリーも不二家も、棋戦を主催するなど連盟とは長い付き合いがありますからね。最近契約したAMDだって本社はアメリカですから、海外普及のチャンスが生まれるのです」
つまり、
「藤井さんも連盟も、そのIT企業の案件は普及の観点から魅力的ではなく、断るためにわざと無茶な条件を提示したのでは」
将棋連盟に尋ねたところ、回答はなし。
八冠達成後に対局数減少について問われ、「練習将棋であるとか、他の方法で補っていく必要がある」と述べた藤井八冠。
「札束より駒」の姿勢は変わっていないというわけなのだ。
「週刊新潮」2023年12月14日号 掲載