[ぜんそくの画期的治療法? 「あの薬」が効果]
(東洋経済オンライン 2015年05月06日)
<ほかの呼吸器系炎症性疾患の治療にも光>
筆者は小児ぜんそくだった。
さいわい現在はほぼ完治しているが、ぜんそくの苦しみはいまでも忘れない。
あわせて、運動をすると発作が出やすいため運動があまりできず、精神的な
ストレスやコンプレックスも少なくなかった。
そんなこともあって、今でもぜんそくの効果的な治療法が確立することを
願っている。
だから、こんなニュースがあるとうれしい。
カーディフ大学の研究者が、ぜんそくを引き起こす潜在的な原因と画期的な
治療法を発見したというのだ。
<カルシウム受容体がカギだった>
カーディフ大学の研究者が、キングスカレッジロンドン、メイヨークリニック
(米)の科学者と共同で行った研究に基づいた論文を『Science Translational
Medicine』誌に発表した。
それによれば、カルシウム感知受容体がぜんそくを引き起こす、これまで知
られていなかった役割がわかったという。
その論文は、あわせてカルシリティック(カルシウム感知受容体に作用する
化合物)を使った既存の薬が、気道狭窄や気道過敏、気道の炎症によって
起こる呼吸困難(つまりぜんそくの症状)の治療に効果的だということも
強調している。
「この発見は、信じられないほどすばらしいものです。私たちは、アレルギー
性ぜんそくにおいて、アレルゲンやたばこの煙や排気ガスによって起こる
気道の炎症と、気道の過敏性を結びつけるものをはじめて発見したのです」と
ダニエラ・リカルディ教授は語る。
さらに、「私たちの論文は、どのようにしてそれらのアレルギーの原因が、
気道の組織上でカルシウム感知受容体を活性化させる化学物質を放出し、
ぜんそくの諸症状を引き起こすのかを説明しています。またカルシリティック
薬を直接呼吸器系に噴霧することで、カルシウム感知受容体を不活性化
させて、ぜんそくの諸症状を防ぐことができる」ということも説明して
います。
この研究に協力している英国ぜんそく協会(Asthma UK)のサマンサ・
ウォーカー医師はこう説明する。
<骨そしょう症薬の転用に期待>
「この研究が成功すれば、数年のうちにはぜんそくの新しい治療法ができる
でしょう。私たちは臨床試験を行うために、急いで資金を集めないといけ
ません。これまでぜんそくの研究は慢性的に資金不足でした。そのため、
この50年間でわずかな新しい治療法しか開発されてきませんでした。
このような研究の成功のためには、資金調達も重要なのです」
ぜんそくは、投薬などによってうまくコントロールできている患者もいるが、
現在の治療法が効果を示さない患者も約12人にひとり程度いるという。
この研究に基づいた治療法は、そういった一部の深刻なぜんそく患者への
効果が大いに期待できる。
リカルディ教授らは現在、耐ステロイド性のぜんそくやインフルエンザが悪化
したぜんそくなど、特に対処が困難なぜんそくのためのカルシリティック薬の
開発のための資金を集めている。
カルシリティック薬は、約15年前に骨そしょう症の治療のために開発された
もので、カルシウム感知受容体にアナボリックホルモンの分泌をうながす
ことで骨を強くする作用があるとされた。
ところが、臨床的に安全ではあるが、骨そしょう症の治療法としてあまり
成功したとはいえないという。
しかし、今回のぜんそく治療の研究は、別の目的とはいえ、すでに存在する
このカルシリティック薬が使えるというメリットがある。
研究グループは資金が集まれば、この薬をぜんそく患者に使う試験を2年
以内に行うことを目指している。
そして、安全性が証明されれば5年以内に治療法として確立できる見込みが
あるのだそうだ。
また、このカルシウム感知受容体の研究は、ぜんそくにとどまらず、ほかの
呼吸器系の炎症性疾患の治療法の確立にも期待できるという。
現在効果的な治療法がない慢性閉塞性肺疾患(COPD)や、慢性気管支炎な
どだ。
筆者が小学校高学年のころからは、吸入式の薬ですぐにぜんそくの発作が
治まるようになったが、それまではロクに効かない錠剤しか処方されず、
本当につらい思いをした。
この新しい治療法がすべてのぜんそく患者に効果的なものになることを願い
たい。
http://toyokeizai.net/articles/-/68413