[ビタミンD欠乏症が増加 背景に母乳栄養や日光不足]
(共同通信医療新世紀 2014年5月7日)
<放射線への懸念も影響>
ビタミンDの欠乏による乳幼児の低カルシウム血症やくる病が増えている。
「くる病なんて貧しく栄養状態が悪かった時代の病気」と考えられていた
のに、なぜなのか。
背景には母乳栄養の推奨や日光浴の不足、食事の偏りがあるという。
日本では東日本大震災以降、原発事故による放射線への懸念から屋外活動を
避ける傾向もある。
日光浴不足に拍車が掛かり、患者がさらに増えることを専門家は心配して
いる。
<カルシウム低下>
「以前はビタミンD欠乏症の患者さんを診ることはほとんどありません
でした。ところが2000年ごろから増え始め、最近は毎年数人が受診します。
他施設からの相談も年間10例ほどあります」と東大病院 小児科の北中幸子
准教授は話す。
全国的な調査データはないが、増加傾向は東大病院に限った話ではない
ようだ。
大阪大病院 小児科の大薗恵一教授も「くる病とはっきり診断できる患者
さんは年間5~6人。それ以外にも、体内のビタミンD量の指標となる
血液中の『25水酸化ビタミンD』の数値が低い患者さんがかなりいます」と
解説する。
海外でも2000年代に入り、学術誌に掲載される欠乏症の論文数が右肩
上がり。
世界的な患者の増加がうかがえる。
ビタミンDは、食事で摂取したカルシウムが小腸で吸収されるのを促進する。
さらに、いったん腎臓を通過したカルシウムの再吸収も促す。
このため、ビタミンDの欠乏は血液中のカルシウム濃度の低下を招く。
<皮膚で合成>
1歳未満の乳児では、全身性のけいれんや、頭蓋骨の軟化などの症状が現れる
「ビタミンD欠乏性低カルシウム血症」の発症につながる。
一方、歩行が始まる1歳すぎの幼児では、O脚や低身長などが特徴の
「ビタミンD欠乏性くる病」を発症することが多い。
患者増加の背景として3つの要因が指摘されている。
1つ目は母乳栄養の過度の推奨。
免疫機能を高めたり、母子の絆を強めたり、母乳には優れた点が多い半面、
ビタミンDの含有量が人工のミルクに比べ格段に少ないという短所もある。
「欠乏症を発症する子どもの大半は母乳栄養児です」と北中さんは指摘する。
2つ目は日光浴不足。
ビタミンDは食事からの摂取以外に、日光を浴びることにより皮膚で合成
される。
しかし最近は、皮膚がんやしみ、しわの予防を理由に紫外線対策が勧められ、
赤ちゃん用の日焼け止めクリームまで販売されている。
緯度によっても異なるが、関東などでは夏は1日10~15分、冬は1時間
程度を目安に日光浴を行うことが望ましい。
<予防は可能>
3つ目は食事制限や偏食。
特に食物アレルギーやアトピー性皮膚炎で、卵や魚を制限している子どもは
注意が必要だ。
北中さんは2年前、都内の病院からこんな患者の相談を受けた。
歩行異常を訴えて受診した2歳女児。
O脚と低身長の症状があり、くる病と診断された。
女児は完全母乳栄養で、2011年の震災後、放射線を心配して魚やキノコの
摂取を制限し、外出も控えていたという。
「福島の病院からも類似の相談がありました。極端な制限にならないよう
注意が必要です」と北中さんは話す。
この病気は適度な日光浴や食事、人工ミルクからの積極的なビタミンD摂取を
心掛ければ予防できる。
そのためには妊婦や赤ちゃんの親を啓発しなければならない。
また、日本には現在、欧米で予防のために使われている乳児用天然ビタミンD
製剤がない。
さらに診断に不可欠な血液中の「25水酸化ビタミンD」測定に保険が適用
されない。
今後の大きな課題だ。
(共同通信 赤坂達也)
http://www.47news.jp/feature/medical/2014/05/post-1083.html