免疫と病気 ピリピリの正体:5  症状忘れられる喜び | アクティブエイジング アンチエイジング
[免疫と病気 ピリピリの正体:5 症状忘れられる喜び]

(朝日新聞   2012年11月5日)


免疫の異常から唾液や涙が少なくなるシェーグレン症候群と診断された徳島県
吉野川市のタカコさん(75)は昨年1月、セファランチンという薬の研究に
協力して飲み始めた。
主治医の東雅之・徳島大病院口腔内科教授(57)からは、「唾液の分泌が
増える」と効果を説明されていた。

5月、薬の効果を確かめるために、下唇の裏の組織を少し取って2度目の
検査をした。
異常に増えて唾液腺を攻撃していたリンパ球が減り、唾液腺をつくる細胞が
復活していた。

ガムを噛んで、唾液の分泌量をみる検査でも、1月の検査の2倍近くまで
増えていた。

自分では、変化を自覚できなかったが、数値の改善は励みになった。

半年ほど休んでいた週末の陶芸教室を再開。
コーヒーカップや小鉢をたくさんつくった。
気分転換のために、毎月のように友人と旅行に出かけた。


今年の7月、ふと、口の中のピリピリを忘れている自分に気づいた。
「あれ? 治ったんかな」
数日間、気をつけていると、ピリピリは完全に消えたわけではなく、調子の
いいときと悪いときがあることがわかってきた。
それでも、忘れる時間があること自体が大きな改善だ。

次の診察で、東さんに報告した。
東さんは細い目をさらに細めて「よかったね」と笑った。
「信じて薬を飲み続けて、本当によかったわ」と思った。



今のところ、シェーグレン症候群の原因は解明されていない。
セファランチンで唾液の分泌が増えても、病気が根本的に治るわけではない。

目がゴロゴロするドライアイの症状は相変わらず。
眼科の医師には「シェーグレンが治らなければ目も治らない。これ以上の
治療はない」と断言されてしまった。


そもそも、なぜ自分はこの病気にかかったのか——。
わからないことが、とても怖い。
「この得体の知れない病気に振り回されてる私みたいな人、ようけいるん
やろう」と寝付けない夜にベッドの中で考える。

「こんなの病気じゃない」と冷たくあしらわず、じっくり患者の話を聞いて
くれる医師が、少しでも増えたらいいのに。そう願いながら、タカコさんは
そっと目を閉じる。




http://www.asahi.com/health/ikiru/TKY201211040059.html