[乳がん患者を支える(下) 下着選び 異なるニーズ理解を]
(東京新聞 2014年2月25日)
日本の女性の14人に1人がなる乳がん。
下着などでの患者の悩みは、1人1人で大きく異なり、きめ細かい支援が必要
だ。
人工乳房への保険が適用され、失った乳房を再建する選択肢が事実上広がった
ことで、再建に関連する下着の情報提供も新たな課題となっている。
(佐橋大)
「乳がん患者の支援で今求められているのは、ブラジャーとパッド選びの
多様性を理解すること」
1月、東京都内で被服学・看護学の両面から、乳がん手術後の衣生活と支援を
テーマに開かれた研究成果報告会。
講師で、乳がん患者を支援する会社「VOL-NEXT」(東京)の曽我千春
社長は、患者を支援する医療関係者らを前に、こう指摘した。
同社は30代で乳がんを発症した曽我さんら、がん経験者6人が10年前に起業
した。
東京・青山と大阪・心斎橋に、がん患者を支える拠点を設け、下着やウィッグ
(かつら)を販売し、生活相談にも応じる。
約15万人のがん患者と関わり、ニーズは1人ずつ違うと痛感。
特に下着は、がんの手術痕の状態などで選択は大きく異なってくる。
ある患者に「つけ心地がよかった」ものが、他の患者で「最悪」になる
ことも。
ブラジャーや服の縫い目が、がんの手術痕とこすれて痛いと感じる患者は多く
いる。
乳がん専用のブラジャーでは、手術痕に縫い目が当たらないよう、サイドが
高くデザインされている製品がある。
ただ、ある患者は痛みを感じなくても、手術痕の位置が違う患者は痛み解消に
つながらないこともある。
外国製ブラジャーには国内製品にない構造上の工夫があり、愛用者もいるが、
白色の製品が多く、抵抗を感じる人もいる。
手術で失った乳房を補うため、ブラジャー裏のポケットに入れることが多い
パッドは、形を整えるだけでなく、左右の重量のバランスを取り、衝撃から
手術痕を守る役割もある。
シリコン、ウレタンなど素材の違いで特徴がある。
シリコンパッドは、運動時に熱がこもりやすく、不快感の原因にもなりうると
指摘されるが、最近は素材を工夫し、温度上昇を抑えた製品もある。
「患者によって感じ方は違う」
軽いウレタン製のパッドは、ずり上がりやすいといわれるが、正しいサイズで
アンダーをしっかり支える専用ブラジャーと組み合わせたり、ジェルタイプの
パッドで重量を補ったりすると、かなり解消されるという。
「患者のニーズをよく知り、細かい提案が必要」と曽我さんは強調する。
医療現場では、どの程度の情報提供がされているのだろうか。
報告会で、千葉大大学院看護学研究科の阿部恭子特任准教授は、2010年の
調査結果を示した。
同大教育学部の谷田貝麻美子教授らとの共同研究で、乳がんの手術件数が
年間40件以上の医療機関の病棟と、外来の看護師に補整下着、補整パッドの
情報提供を聞いた。
パンフレットなどを使って「説明している」と答えたのは病棟で5割強、
外来で3割強。
口頭で「助言している」は病棟で4割台、外来で3割弱だった。
高齢患者や乳房の一部を取り除く温存術の患者への情報提供が、手薄になり
がちだと示唆する先行調査もある。
「先入観を持たず、さまざまなニーズに応える姿勢が大切」と阿部さんは指摘
する。
乳房再建関連の情報提供も強化すべきだという。
昨年、人工物による乳房再建が保険適用になり、人工物で乳房を再建する
患者の増加が予測されるからだ。
実際、曽我さんのところにも「乳房の全摘手術を受けるが、再建するかどうか
迷っている。再建しない場合、パッドでどう補整できるか知りたい」
「(人工物を入れて乳房を再建する前に、胸の皮膚を徐々に伸ばす)エキス
パンダーを入れている間、身に着けるブラジャーを教えて」といった相談が
増えている。
阿部さんも「今後はエキスパンダーの挿入中や、インプラントに入れ替えた
後の下着の情報を、さらにきめ細かく提供することが求められる」と指摘
する。
<乳がん手術後の下着>
一般に手術直後などは簡易に着脱でき、締め付け感のないソフトブラと軽い
パッドを組み合わせることが多い。
乳房を全て取る切除術では1~3カ月後から、パッドを入れるポケットがある
専用ブラを使うことが多い。
温存術は、切除の範囲や位置など個人差が大きく、一般化しにくい。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/health/CK2014022502000171.html