急増する膵がん 早期発見・治療の確立に光明 | アクティブエイジング アンチエイジング
[急増する膵がん 早期発見・治療の確立に光明]

(産経新聞  2014年3月29日)


各種がんの診断法が進歩し、早期発見・早期治療によって、がんと診断
されても元気に日常生活を送っている人が増えている。

ところが膵がんは、いまだ有効な早期発見法がないので、診断されたときには
多くの人がすでに進行していて予後も悪い。
がんの中でも特にやっかいな病気で、膵臓が“暗黒の臓器”の異名をとること
から“暗黒のがん”といわれるほどだ。

しかし、ようやく簡易な血液検査が実用化目前まできており、近い将来の検診
での活用が期待されている。


国立がん研究センター中央病院における、臓器別がんの5年生存率の年次
推移を見ると、年度によって多少の上下はあるものの、長期的にはほとんどの
がんが改善傾向にある。
ところが膵がんだけは改善が見られず、しかも、すべてのがんを合わせた5年
生存率は60%ほどに達しているにもかかわらず、膵がんは10%程度と極端に
低い。

さらに深刻なのは、膵がんによる死亡者数が年々増加していることだ。
厚生労働省の人口動態統計によれば、2012年の膵がん死亡者数は年間2万
9916人で、20年前(1992年・1万4147人)と比べて2.1倍、10年前
(2002年・2万137人)と比べて1.5倍に急増している。

膵がんはがんによる死因の8.2%を占め、肺、胃、大腸、肝臓に次ぐ第5位
だから、決してまれな病気ではない。


膵がんの予後が悪い理由について、国立がん研究センター研究所の山田哲司
上席副所長は「膵がんに罹ったからといって、一気に転移が進むわけでは
ない。早期発見が困難なことが理由」と語る。
膵臓は胃の裏側に位置しているため、内視鏡は届かず、超音波でも一部しか
映らない。
自覚症状もほとんどないため、病院で見つかる膵がんのほとんどが、ステージ
III以上の進行がんである。
しかし、ステージIやIIといった段階のうちに発見することができれば、
早めの治療介入で他のがんのように予後を改善することが可能だというのだ。

そこで重要になるのが、がん検診である。

胃がんなら胃X線検査、肺がんなら肺X線検査(喫煙者には喀痰検査併用)、
大腸がんなら便潜血検査、乳がんならマンモグラフィーなどが検診で使用
されている。

しかし膵がんでは有効性の証明された検診方法がない。
厚労省は平成16年度からの第3次対がん総合戦略研究事業において『がん
検診に有用な腫瘍マーカーの開発』を研究課題のひとつに挙げ、国立がん研究
センター研究所に研究班が置かれた。

担当した山田氏らの研究チームは、簡易な血液検査によって精密ながん検診を
行うべき症例を効率良く絞る、「プレスクリーニング」用の血清・血漿腫瘍
マーカーの開発を目標とした。

膵がんにはCA19-9という腫瘍マーカーがあるのだが、早期には検出できず
偽陽性も多いため検診では使えない。
それに代わるマーカーの開発が必要だった。

また、がんを診断するためには、CTやMRIによる画像診断や、最終的には
細胞診・組織診が必要となる。
しかしそれらは費用もかかるし被験者の体に負担もかかるから、症状のない
すべての人に行うわけにはいかない。
できるだけ簡易な方法で可能性の高い人を抽出できれば(プレスクリー
ニング)、その人たちだけに精密な検査を行えばよいので効率的となる。


研究班の成果は、まず平成17年に表れた。
膵がん患者と健康な人の血中タンパク質を質量分析器で解析した比較研究で、
膵がん患者はある特定のタンパク質が減少していることを突き止めたのだ。

次に、それを検証するためのコホート研究を、他施設と共同で国内外合計
1314症例について実施。
その結果、CA19-9ではできなかった、ステージIという早期でも変化する
ことが確認された。

平成23年度からは、民間企業との共同研究で、検査薬(診断キット)の作成に
入った。
そして厚労省の新たな研究班の承認が得られれば、いよいよ新年度から一部の
地域で試される予定だ。
そこで有用性が確認されれば、住民健診、職場健診へと広がっていくことと
なる。

もっとも、山田氏は「そのためにはまだやるべきことは多い」と、楽観はして
いない。
これまでの膵がん患者を対象にした後ろ向き研究では特異度は98%だが、
一般の人を対象にした前向き研究はこれからなので、結果は予断を許さない。
また、検診に使用した場合の費用対効果の検証も必要となる。


しかし、これまで膵がんの有効な早期発見法がなかったことを考えると大きな
進歩であることは間違いない。
これが成功すれば、世界に先駆けて、膵がんになっても長く元気に生活できる
社会が到来する可能性があり、期待される。





http://sankei.jp.msn.com/life/news/140329/bdy14032914230001-n1.htm