[抗がん剤、新投与法クロノテラピー 「夜、ゆっくり」で副作用抑制]
(熊本日日新聞 2009年4月3日)
同じ抗がん剤でも夜から朝までゆっくり投与すると副作用が抑えられ、効果が
高い。
がんの抗がん剤治療で、体内時計のリズムを生かしたクロノテラピー(時間
療法)が注目されている。
全国で先進的な医療機関が実践し、県内でも取り組む病院がある。
(高本文明)
抗がん剤は、がん細胞のDNAと結合し、細胞分裂を阻害して効果を発揮する。
しかし、正常な細胞も壊してしまい、強い副作用を起こす。
正常細胞の分裂・増殖は、昼間に活発で、夜は低下する。
一方、がん細胞は夕方から夜寝ているときに盛んになる。
この特性を利用したのがクロノテラピー。
夜間に抗がん剤を投与した方が、がん細胞が抗がん剤を取り込みやすい。
正常細胞は休んでいるため、影響を受けにくく、副作用も少ないという。
フランスのフランシス・レヴィ医師ら3カ国の共同研究チームが有効性を
実証、1997年に論文を発表し、世界的に注目された。
県内では、熊本消化器外科・村本病院(熊本市世安町)が2003年から実践
している。
これまでに乳がんの再発、進行した患者八十数人を治療し、実績を挙げている。
使う抗がん剤は標準治療と同じ。
投与する時間帯は午後7時過ぎから翌日午前8~9時ごろまで。
胸の皮下に埋め込んだポートと呼ばれる器具に管をつなぎ、抗がん剤を
ゆっくり点滴で投与する。
村本一浩理事長は「抗がん剤は標準的な投与量の7~8割で済む。吐き気や
白血球の減少など副作用が少なくなり、患者のQOL(生活の質)向上に
つながった」と話す。
「一般に抗がん剤は4~6カ月程度しか効果は続かない。しかし、クロノ
テラピーではほとんどの抗がん剤で1年以上、長いケースでは2年ほど効果が
続いた」
抗がん剤が変わるたびに、脱毛などの副作用も新たに起こるが、抗がん剤が
長く作用すれば、新たな副作用を避けやすくなる。
肺にも転移した乳がんと、がん性腹膜炎を来した悪性度の高いスキルス
胃がんを併発した患者にクロノテラピーを実施。
腫瘍マーカーの値が激減し、2年2カ月たった現在でも落ち着いた状態と
いう。
村本理事長らは2008年、日本癌治療学会で抗がん剤の投与法の違いで効果が
得られた症例を報告した。
村本理事長は「同じ薬でも使い方を変えれば効果を高められることに注目
すべきだ。クロノテラピーの手ごたえは十分感じているが、これまでの症例を
詳細に分析し、効果的な手法をさらに検討していきたい」と話している。
<スタッフ不足、診療報酬なく 普及にはなお課題>
クロノテラピーを実践しているのは、横浜市立大病院外科、抗がん剤治療に
詳しく都内で診療している平岩正樹医師など全国でも数少ない先進的な医師や
医療機関に限られているのが実情だ。
普及しない背景には、さまざまな要因がある。
抗がん剤は毒性が強く、体外に漏れると皮膚が壊死を起こすなどするため、
取り扱いには細心の注意が求められる。
しかし、夜間に十分な医療スタッフを充てるのが困難な医療機関も多い。
熊本消化器外科・村本病院(熊本市)は、特殊な皮下埋め込み型ポートを
患者に施術した。
「薬剤が漏れないように厳重管理を徹底している」と同病院。
また、抗がん剤治療の専門医は少なく、医療関係者の間でもクロノテラピーは
まだ理解されていない。
抗がん剤治療自体には診療報酬は付かず、投与方法といった技術に対しても
診療報酬はない。
外来で行う場合にわずかに加算される程度だ。
欧米では、抗がん剤の投与量や投与速度を調節できる特殊なポンプが普及して
いるが、日本では未承認という。
国内では、新薬の開発には莫大な予算や人材が投じられるものの、いったん
開発されれば、別の新薬開発に力が注がれるのが現状。
「薬の効果的な使い方の研究開発が軽視されている」という指摘もある。
http://qq.kumanichi.com/medical/2009/04/post-71.php