[「アルコール依存症」治療に新薬 生涯にわたり断酒・・・欲求を抑制]
(産経新聞 2013年10月23日)
酒の飲み方をコントロールできず、心身だけでなく人間関係をも壊してしまう
恐れのあるアルコール依存症。
治療・再発防止には生涯にわたる断酒が必要となる。
こうした中、断酒中のアルコール依存症の患者向けの新しい処方薬が5月、
登場した。
飲酒に寛容な社会環境の中で生涯断酒は患者にとって誘惑は多く、神経系に
作用するとされる新薬の効果に期待が寄せられている。
(日野稚子)
<推計患者80万人>
アルコール依存症は量や飲むタイミング、状況を自分でコントロールできなく
なる精神疾患。
習慣的な飲酒でアルコールへの耐性が付き、量も徐々に増え、酒が欲しくなる
精神依存に陥る。
体からアルコールが切れないように数時間おきに酒を飲む「連続飲酒」へ移行
すると、体内からアルコールが切れたとき、手の震えや多汗、睡眠障害
(不眠)、下痢、幻聴、幻視などさまざまな離脱(禁断)症状が表れる。
アルコール摂取が続けば肝臓だけでなく、循環器や消化器などに疾患を併発
したり、不慮の事故で死に至ったりする。
薬物中毒と同様に、治療は断酒しかないとされる。
厚生労働省の各種調査によると、全国で治療中の患者(平成23年)は約4万
人、推計患者(平成15年)は約80万人という。
断酒中のアルコール依存症患者向けの処方薬としてはこれまで、「ノック
ビン」(一般名・ジスルフィラム)と「シアナマイド」(同・シアナミド)が
あり、いずれも抗酒薬。
アルコール分解過程を阻害し、コップ1杯程度のビールでも吐き気や眠気、
顔面紅潮などを引き起こす。
アルコール依存症の治療に取り組む国立病院機構久里浜医療センターの樋口進
院長は「酒を飲んで不快感や体調不良になれば飲み続けられないのを利用した
もの。しかし、飲酒予防にはなるが、精神依存を解くものではない」と話す。
<新たな選択肢>
今回登場した「レグテクト」(同・アカンプロサートカルシウム)は断酒
補助剤で、中枢神経系に作用するという。
アルコール依存で異常に活発化し、飲酒欲求を引き起こすようになった神経を
抑制し、酒を求めなくさせる。
昭和62年、フランスで薬事承認後は欧米を中心に広がり、24カ国で販売
されている。
平成22年に厚労省からの開発要請が契機となり、国内導入された。
レグテクトは断酒中の患者で、専門医療機関での精神療法や自助グループに
参加するなど心理社会的治療の併用が必須だ。
専門医療機関の各務原(かかみがはら)病院(岐阜県各務原市)では、入院・
通院患者の約200人が服用した。
このうち、震えや幻覚など離脱症状を抱える50代の女性重症患者は服用当初は
飲酒したものの、1カ月後には「飲みたい気持ちがわかなくなった」と話し、
家族が残した酒を飲むこともなくなったという。
天野宏一理事長兼院長によると、従来の治療では断酒が続く患者は3分の1
程度。
レグテクトの臨床試験では、6カ月の連続服用で47.2%、服用中止6カ月後も
4割弱の患者がそれぞれ完全断酒したという。
天野院長は「服薬効果は連続服用期間の終了後を見なければならない」と
指摘。
そのうえで、「依存を自ら認め、心理社会的治療がないと生涯断酒は困難。
その状況は変わらないが、抗酒薬との併用も可能な新薬の登場で新たな
選択肢ができ、治療推進にもつながるのではないか」と話している。
<アルコールの健康障害対策 基本法制定目指す動き>
厚生労働省の研究班の試算では、アルコールによる社会的損失は年間4兆
1483億円、アルコール関連死亡者数は3万5000人とそれぞれ推計される。
しかし、不適切な飲酒の撲滅に向けた教育や啓蒙、アルコール依存症の患者
との連携などはなされぬまま。
原因の1つに根拠法の不備があるとして、アルコール関連学会や民間団体、
超党派の国会議員らが「アルコール健康障害対策基本法」制定を目指して
いる。
アルコール・薬物問題に取り組むNPO法人「ASK(アスク)」(東京都
中央区)の今成知美代表は「対策基本法があれば、アルコール関連問題は
個人やその周囲だけでなく、社会全体が支援すべきことになる」と話して
いる。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131023-00000503-san-hlth