「コンビニ受診」は自治体破綻のバロメーター | アクティブエイジング アンチエイジング
[「コンビニ受診」は自治体破綻のバロメーター]

(毎日新聞 2009年12月22日)
「時代を駆ける:村上智彦/2 「コンビニ受診」をしかった」


夕張市立診療所は財政破綻した市から、ほとんど支援を得られない。
だが、それ以上に村上さんが苦労したのは、行政に甘えきった住民の意識
改革。

不要不急の「コンビニ受診」が絶えなかった。


普段は札幌や岩見沢など周辺自治体の大きな病院に通っている市民が、
ちょっと悪くなっただけで、時間外なのに突然、やって来るんだ。
僕は彼らの症状や、普段飲んでいる薬は何も知らない。
どんな治療が最善なのか分からない。
その都度、「通っている病院へ行ってくれ」と言ったけど、夕張に来たころは
そんな患者がひっきりなしだった。

彼らは「医師は住民の命を預かっているのだから、24時間の診療は当たり前」
と言うんだ。
実際は命にかかわるような症状ではないのにね。
「薬局で買うと高いから」と言って、診療を受けずに「湿布だけくれ」と言う
患者も来た。
そういえば、水虫で救急車に乗ってきた人もいたな。
「あんたたちがいるから夕張が破綻したんだよ!」って怒鳴ったけどね。

夕張に限らないけど、最近は自分の言い分ばかりを主張する患者が増え、
医療への要求が「ニーズ」(必要)じゃなくて、過剰に求める「ウオンツ」
(欲望)になってきた。
国の医療費がパンク寸前なのも、最大の要因はこれだね。



<医者も人間だ>
みんな勘違いしているけど、医療とはいつ何時でも患者の希望をかなえること
じゃない。
徹夜したパイロットにフライトは任せられないでしょ。
医者だって本来、徹夜明けの勤務をしてはいけないんだ。
警察や消防と同じで、住民の安全保障。
命を救うための、いざという時の備えなんだよ。

地域医療に従事している医者はもともと意識の高い人が多い。
でも、住民から「税金でやってるんだから、いつでも診るのが当たり前」と
言われたら心が折れてしまう。
志ある医師は去り、その地域の医療崩壊につながっていく。
実際、そういう例を僕は知っている。
だから不要不急の外来は避け、夜間外来にかかった時は「遅い時間に
ありがとう」と声をかけてくれれば僕らは救われる。

「夜間外来を安易に使わないように」
「予防が大事だからね」
寺に住民を集めて健康講話も開く。
優しい言葉で受診の心構えを説き、「住民が変わらなければ、夕張が消えて
しまう」と地道に訴え続けてきた。


うちの患者で、漬物が大好きでやめられない77歳のおばあさんがいる。
「塩分を取り過ぎると、血圧上がって脳卒中になりやすいって知ってる
でしょ。だから食事時はいいから、おやつの漬物だけはやめてくれないか。
おれに免じてお願いだ」って頭を下げる。
ちゃんとできたら「よくやったね」って褒めてあげる。

普段から自分の健康に気を使ってほしい。
そのために、患者1人1人に手の届く高さの目標を立てて階段を上がらせ、
生活習慣を変えていくんだ。

時間はかかる。
だけど、夕張の現実を見て、住民の意識を変えないと先に進めないと思った。
僕は厳しいことも言う。
それは「あなたは自分の古里に、どのくらい思い入れがあるのですか」と
問うているつもりなんだ。
結局、地域の将来を支えるのは住民自身なんだから。



<村上さんの教えは徐々に理解されてきた>
市営住宅で昨年10月、夫を亡くし、1人暮らしをしている70代のおばあさん
が、「お世話になったから、夫が自分の葬式代にためていたお金を使って
ください」と、300万円を寄付してくれた。
往診で札束を渡されたのは初めてだった。
彼女は言うの。
「夕張が悪くなったのは住民のせい。首長が悪いと言われるけれど、それを
選んだ私たちが悪い」って。
彼女は今、同じ市営住宅に住む高齢者の面倒をみていて、様子がおかしい人が
いたらすぐ連絡をくれる。

なぜ夕張が破綻したのか、そして今、何をすべきなのかを考えたのだろう。
こういう人たちを見ると頑張らなくてはと思うんだ。


(聞き手・久野華代)



http://mainichi.jp/select/opinion/kakeru/news/20091222ddm004070153000c.html