[突然、妻を襲う原因不明の頭痛!]
(ダイヤモンド・オンライン 2010年3月12日)
<働き盛りのビジネスマンを襲う 本当に怖い病気>
<男性も他人事ではない更年期障害の実態>
<妻が原因不明の体調不良に 仕事も休みがちになったNさん48歳>
妻の不調が始まったのは45歳だった。
製薬会社にMR(製薬情報担当者)として勤めるNさんが残業を済ませて
自宅に戻り、夜食を食べているときのことだった。
湯のみ茶碗を差し出したNさんの妻が突然「うっ」といううめき声をだして、
床に茶碗を落としてしまったのだ。
「あなた大変・・・!左手がしびれる」
左手だけがしびれるのは、典型的な脳梗塞の前兆だ。
Nさんは「救急車を呼ぶか?頭は痛くないか?いつからだ?」と矢継ぎ早に
言葉を投げかけた。
「救急車には乗りたくないわ。最近よく左手がしびれるし、頭も時々痛いし、
ドキドキして目が覚めてしまうの。明日病院で検査するわ」と青白い顔で
答えた。
それが全てのはじまりだった。
<綿密な検査を行うも検査結果は「異常なし」?>
Nさんはその夜、妻の寝顔を見ながら途方に暮れた。
結婚が遅かったNさん夫妻の子供は、まだ2人とも小学生。
昨年他界した母親が、昼間働きに出ていた妻に代わって、家事も育児も
町内会の役員までもこなしていた。
妻は、母親が亡くなったのをきっかけに長年勤めた会社を辞め、専業主婦に
なったが、その頃から笑顔を見せることが少なくなっていた。
Nさんはもし妻が倒れたら、2人の子供をどう育てていいのかわからな
かった。
仕事を続けながら妻の看病をしていく自信もなかった。
翌朝、「妻の具合が悪いので会社を休みたい」と上司に告げ、病院に車を
走らせた。
相当待たされた後、ようやく診察室に入った妻は、循環器の医師に涙を浮かべ
ながら訴えていた。
「先生ドキドキして夜眠ることができません。また歩道橋や駅の階段を上る
だけで動悸がします。しびれは1ヵ月前から左手だけに感じます。頭も突然
締め付けられるように痛くて・・・」
その後、妻は心電図、レントゲン、血液検査、脳のCTの検査を受けた。
Nさんは、待合室でそわそわしながら待った。
しかし、検査結果は全て異常なし。
医師は言った。
「心臓や肺は問題ないでしょう。ストレスでこのような動悸が現れることが
あります。しびれや頭痛は、もしかすると首の骨の変形かもしれません。脳の
血管も詳しく診たいのでMRIを予約して受けてください。」と言われた。
その日は、薬も貰わずに自宅に帰った。
Nさんは会社にいても妻のことが気かがりで、仕事が手につかなくなって
いた。
その日も、手のこわばりと関節の腫れを気にして近所の免疫内科に行って
いた。
リウマチの専門医として有名な医師を頼って、全国から患者さんが集まる
ことを知っていたからだ。
血液検査とレントゲン、簡単な問診を受けるだけでその日は帰ってきた。
後日、検査結果を聞くため再び病院に行ったが、「異常なし」だった。
MRI検査も妻に付き添うつもりで、会社に休暇届けを出していた。
妻は、生まれて初めてのMRIに緊張していた。
耳栓を渡され、説明を受けている時点で既に泣きそうになっていた。
「具合が悪くなったら手元のボタンを押してください」という技師の説明も
上の空だった。
部屋に入って20分後、妻は青ざめた表情で検査室から出てきた
「もうダメ。心臓が口から出そう」
肩で息をしている妻を落ち着かせるために、ずっと手を握っていた。
しかし、医師から告げられた言葉は、やはり異常なし。
帰りの車で「何でいつも異常なしなの?手がしびれたり、関節が腫れたり、
突然頭痛がしたり、ドキドキしたりするのに・・・!」
妻は帰り車で2度目のパニック発作を起こしているようだった。
Nさんの妻は不眠も訴えるようになった。
「夜眠れない。でも心療内科や精神科には行きたくない」という妻を説得して
心療内科も訪れた。
医師からは「ストレスでしょう。軽い抗うつ剤を出しておきましょう」と
言われた。
「うつ病かもしれない」と思っていたNさんは薬の効果に期待した。しかし、
期待していたほど症状は改善されない。家事もできずに床に伏せがちになって
いる妻を気遣い、毎日残業もせずに自宅に帰る日々が数ヵ月続いた。そして
Nさん自身も看病疲れから、体力の限界が訪れた。
<典型的な更年期障害と判明 薬で治すことも可能>
家族だけではどうしようもなくなったと判断したNさんは、会社から姉に
電話をした。
すると、姉からは意外な言葉が返ってきた。
「それ更年期じゃない?私も40歳くらいのときに、関節が痛くて整形外科、
ドキドキして循環器、皮膚がかゆくて皮膚科、耳鳴りがして耳鼻科、めまいが
して神経内科に行ったの。そしてどこでも『異常なし』の診断で途方に
くれたのよ。近所の友人のすすめで婦人科に行って女性ホルモンを処方して
もらったら嘘のようによくなったのよ。3年くらいかかったけれど今は
元気よ。すぐ婦人科に連れて行ってあげて」
Nさんは救われた気がした。
早速産婦人科に行くと、医師は丁寧に妻の話を聞いてくれた。
「はい、典型的な更年期障害ですね。今まで大変でしたね。今はいいお薬が
あるから大丈夫ですよ」
そう話す医師の声に夫妻で涙ぐんでしまった。
それからNさんの妻は、嘘のように元気を回復していった。
MRという仕事に就きながら、自分の家族の本当の病気を見抜いてやれ
なかったことに後悔した。
更年期は汗が噴き出して、暑がったり寒がったりする症状だとしか思って
いなかった。
そんな自分の知識の無さに愕然とした。
男にも更年期があると聞く。そのとき自分は更年期と自覚できるのか全く
自信がなかった。
恵比寿で女性クリニックを開業するまのえいこ先生は語る。
「実は私も医師でありながら、自分の不調の原因が女性ホルモンの減少で
あると最初は気づきませんでした。この方のようにドキドキしたら循環器、
しびれがあったら神経内科、指先がこわばったり、関節腫れたら免疫内科に
行くことは間違いではありません。まずは気になる症状の検査をしておく
ことが重要です。更年期障害は、女性ホルモンが減少することで起こる自律
神経症状なので、全身に及んでいます。閉経前後の40代~50代の方に症状が
現れると思われがちですが、若年期にも同様の症状が現れる事があります。
これは卵巣の働きが悪いためで、20代で閉経と同じような症状を訴える方も
います。逆に70歳で自律神経失調症として同じ症状を訴える方もいます。
ホルモン剤に低抗がある方は、飲み薬だけでなく、貼り薬や塗り薬もあり
ます。正しく使えばとてもよい薬なのでぜひ気軽に医師にご相談ください」
(J&Tプランニング 市川純子)
http://diamond.jp/series/sickperson/10014/