アッシェンバッハの彼岸から -49ページ目

ぜったい嫌いなはずない


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二階堂和美のアルバム
二階堂和美



おなかのなかに空洞を抱えてソファに転がったりしていたら、友人がライブに誘ってくれた。

「よかったらいかがですか。僕はとてもすきです」

とゆうその誘いかたの控えめさ加減がとっても快く、きもちが妙に和らいだわたしは、その人の唄を聴いたこともないのに、そうだね行ってみようかな、と即答していたのでした。

聴いたことないけど、なぜか絶対に、嫌いな音楽ではない気がしたのです。

それが二階堂和美さんとゆうひとのコンサート。

渋谷毅がピアノを弾いて、自由学園明日館でコンサートをやった人らしい。渋谷氏のピアノを聴けると知ってわたしの脳味噌はガゼン期待を増してくる。

二階堂さんはクルマのコマーシャルで可愛らしい唄を歌われているそうだから、きっとここちよい声なんだろう。

なんていう甘やかな期待とゆうか予想は見事に裏切られたのでした。よい意味で。

その声は誰某ぽいとかゆう一般的な形容を遥かに凌駕して変幻自在などというものではなく、声は、唄であり楽器でありまるでそれ自体彼女とは別個の得体の知れない生き物のように、部屋の中をうねうねと這い回り跳ね回り、人々の耳とゆう耳を皮膚を部屋の壁という壁を天井を打擲して回り、そしてそれが非常に心地よく心から楽しかったのです。わたしは。

渋谷氏のピアノにはとろけました。膝から崩れ落ちて地面に吸い込まれてしまいました。

ライブハウスの入り口からきたならしい街に吐き出されたときには、

開始から3時間も経過していてふたたびびっくり。

「たいへんおもしろかった。ぜったい嫌いなはずないって、なぜか聴く前からおもっていたのだけど」

と云ったら、誘ってくれた友人が、

「うん。僕もあなたがぜったい嫌いなはずないっておもったから誘ったの」

と答えた。

控えめな笑顔で。