アッシェンバッハの彼岸から -38ページ目

おさんぽ自転車10分圏内


と、もったいつけて南仏旅行記など書きます!と宣言したそばからいきなり卑近で申し訳ないのだが、

我が家から徒歩10分そこらの場所も、それはそれでとっても楽しいのだ。

気まぐれ散歩ってのは、春なら例外なく素晴らしい。


起き抜けは毎日の習慣通り、パジャマのまんまキッチンで珈琲豆を挽いて、

珈琲が落ちる香りを嗅ぎながら、さて、朝ごはん何しようかな、

あっそうだ、昨日ベッカーバゲットが半分残ってるからサンドイッチにしよう、

とレタスを洗ってベーコンを炒めてチーズを切って、


いい天気。こんな日に家の中で朝ごはん食べることないじゃん。


と、ふとおもった。

それでいれたての珈琲はタンブラーへ。

サンドイッチは紙で包んで、読みかけの本といっしょに肩掛けバッグへ。

自転車に乗って数分、椿山荘のお庭へ。


椿山荘    小手鞠

いまはツツジやアヤメ、シャガが咲いて、中でも見事なのはコデマリ。

丘のように盛り上がった場所にベンチを見つけて坐る。

左手にはチャペルがあって、出口からは“チーン!”という具合に

湯気の立つ新婚夫婦が、驚くべきペースでフラワーシャワーを浴びながら出来上がってくるのが見える。

自分で適当につくったサンドイッチも、

こんな春の日に表で食べると高級惣屋なんかの何倍も美味。

(本当は飲食禁止かもしれません。すみません)。

時々、披露宴に招かれた親戚の子供かな、

めいっぱいおしゃれした子供たちが歓声を上げて通り過ぎるのも楽しい。


満足して、春の風に吹かれたてたら、あまりの日差しに背中が熱くなってきた。

さて、読書できる場所を探そう。

そうだこっちには野間記念館がある。きょうはあすこのお庭も良いだろな。

たった500円で横山大観や小林古径が見られるすてきな場所なのだ。

自転車を置いて、ものすごく長く、急な坂道、その名も「胸突坂」を上がる。

あまりに急なためか、途中に休憩所があるほどだ。


永青文庫


坂を上りきると、「永青文庫」という看板が出ている。

江戸時代から続く細川家という大名の屋敷跡にあり、

その細川家に関する歴史資料や、細川家に伝わる美術品などを展示、公開しているのだそうな。

木漏れ日を縫って鬱蒼と緑の茂る敷地に入っていくと、

あたりにはもう鳥のさえずり以外の音は聞こえず、ここは本当に東京?と疑いたくなる。

木々も草も、何百年、何十年も前から変わらずそこにあるかのよう。

この資料館にも惹かれるけれど、これはどうやらキシダの好物。

今度、彼と一緒に来ることにしよう。


なにやらお隣の建物から若者向けのポップスのような音が聞こえてくるなー、

とおもったら、これが「和敬塾」である。村上春樹の本に出てきた男子寮。

「関係者以外立ち入り禁止」という札は見なかったことにして、しれっと中に入ってみる。

思いのほか静まり返った敷地内には新旧さまざまな何棟もの寮が建っており、

アルミでなく鉄のサッシでできた窓際に満艦飾の洗濯物が翻っていたり、

留学生が住んでいるのか、どこかの国の国旗が飾られてあったりする。

奥にすすんでいくと、新緑でできた小さなアーチがあって、

それをくぐると、芝生広場に年代ものの建物が。

旧細川侯爵邸である。細川さんって大金持ちなのね。

常々入ってみたいなーとおもいつつ、月に1回とか2回しか観れる日がない上に、

わざわざ申し込みしなくちゃならなかったりして、いまだ果たせていない。


和敬塾

来たときとおなじようにこそこそと門から外へ出ると、

すぐそばには講談社野間美術館がある。

美しく手入れが行き届いたお庭には藤、マロニエが満開で、

ニースのシャガール美術館のお庭にほんのすこしだけ似た雰囲気。


美術館を出ると、右手の空にものすごいものが屹立してるのが見えた。

東京カテドラル大聖堂である!!


東京カテドラル大聖堂



想像をはるかに絶する超人間スケール、

どーいう法則に基づいてるのかさっぱりわからない、

恐ろしく幾何学的な形態をした建造物がどかーんとものすごい存在感を放っている。

内部もまたすごい。丹下先生は空にケンカ売ってるのか!とおもうくらい高い天井、

巨大できらきらした、ほんもののパイプオルガン。

でっかいくせに、どう計算されてるのだかまるでわからない、

複雑で緻密な曲線が、壁から天井へと連なっている。

この曲線、それから窓枠にコルビュジェの影響が見てとれる。

わたしの前の椅子に腰掛けた若い男性は、

複雑怪奇な天井の構造を、やわらかい鉛筆でスケッチブックに描きうつしている。

パイプオルガンの音色を聞くことができたのも僥倖。

天井を見上げながらいつまでも坐ってたら、首が痛くなった。

こんなとてつもない建築が、家からバス停2つ分の距離にあるなんて。

歩けば歩いただけ、わたしの前には新しい世界がひろがっていく。


帰ろうと、胸突坂の手前で小さな旧いお店をみつけて立ち止まる。

そうだ、祝日なのに仕事をしているキシダへの、お散歩土産にしよう。

そこはオレンジやピンクのお花に囲まれた、パイのお店「エンゼル」。

何種類もの色とりどりの見本に迷いまくりながら、メロンいろのエンゼルクリームパイと、

オレンジのゼリーが載ったパイを選ぶ。

お店のおばさんは、パイに生クリームで飾りつけしながら、

「このエンゼルクリームパイはね、美智子皇后も召し上がったんだよ」

「俳優の谷啓さんもお好きで、目白へみえるといつも買ってくださった」

とお話ししてくれる。

日本ではまだ誰もパイのレシピなんか知らなかった40年以上も前から、

ずっとパイを焼き続けているのだそう。



エンゼルのパイ


晩ごはんのあとのデザートまで、きょうは1日仕合せづくし。