アッシェンバッハの彼岸から -37ページ目

コルビュジエ団地

Unite d'Habitation



とあるガイドブックによれば、マルセイユはフランスでももっとも治安のわるい都市だそうな。

フランスに住んでいた友人からは、


日が落ちたら街中はカフェですら怖い。

どんな目と鼻の先でもタクシーに乗れ。

しかも車内ではいかにもフランス慣れしてるふうに振る舞い、フランス語を話したりすると尚良い。


などと無茶にもほどがあるアドバイスを受けた。

わたしの頭の中には、ギャング映画に出てくるような暗黒街そのものの港町で、

ベルモンドに瓜二つのチンピラを狙った流れ弾に運悪く当たり、

ドボンと海に落ちて死ぬ自分の姿が浮かんだ。

なので、ル・コルビュジエが60年ちかく前につくった団地の存在は知っていたけれど、

恐ろしげな港町で客死したくもないので、口にも出さなかった。


キシダが「どーしても泊まりたい」と言って、

夜中の国際電話で勝手に宿泊予約を取り付けてしまうまでは。


そんなわけで仕方なく、怯えながら降り立ったマルセイユは、

確かにそれまでの南仏の街や村と比べて確かにごみごみと薄汚れて移民も多いし、

昼間からカフェで飲んでるオヤジたちの手は一様にごつごつして黒ずんでるし、

道で酔っ払って叫んでいるルンペンはいるし、

ひっきりなしにパトカーのサイレンは鳴り響いているけれど、

独特の活気や生活の気配があって、なんだか楽しい。

いろいろな肌のひとが歩いているのも、ほかの都市には珍しいことのような気がする。

街の中心に港があり、反対側を見れば丘の上に大聖堂が聳えていて、

そこは街と地中海とそのむこうのイフ島などが一望できるすばらしい展望スポットでもある。

わたし以上にいきなりテンションが上がって楽しげなのはキシダ。

美しいリュベロンの村々や、おしゃれでロマンチックなパリよりも、

この雑然とした港町の喧騒が彼の興奮を呼び覚ますようである。


さて、マルセイユ名物のブイヤベースに目もくれずに我々が急いだのはもちろん、

コルビュジュエのユニテ・ダビタシオン。

なにしろこれがまた面倒くさい場所にある。ただでさえ臆病者のわたしには怖いマルセイユ。

しかしこのモダン建築があるのは、国鉄駅からメトロとバスを乗り継いだ辺鄙な場所。

ところが街を歩いているとバスターミナルがあり、

”Le Corbusier”行きのバスが出ているのを発見。


「ここから乗ればメトロなんか乗らなくても直でユニテ・ダビタシオンに行けるんじゃん?」

「ほんとだ!やるじゃん!」

ってことで僅か1ユーロほどを運ちゃんに払い、ぎゅうぎゅうに混んだバスで

緊張気味に揺られながら約30分。

そろそろ見えてくるかなー、とふたりで右手前方を凝視すること数分。


見えてきたー!!遠くからもひとめでわかるその姿が。


バス停”Le Corbusier”で下車。


Unite d'Habitationバス停


これはすごい。遠い憧れのモダニズム建築が目の前に!!

住居はもちろん、商店や幼稚園などが入っていて、集合住宅の元祖のようなもの。

おまけに、3階、4階の一部はホテルになっていて宿泊することもできるのだ!

そしてこれ、わたしたちが去年の春までに住んでいた団地に驚くほど似ている。

似てるのにものすごい個性をはなっている。

それもそのはずで、高度経済成長期以降に増殖した日本の団地はみーんな、

おそらくこの建物にあこがれて造られたもの。

コルビュジエによるこれがすごいのは、着工が1947年、つまり60年も前だってこと。

しかも、その前の1930年代からすでに構想はあったらしい。

その時代の日本がどうだったかを考えると・・・・どんなに頑張っても、

モダン建築で西洋に及ぶはずがないよね、とおもってしまう。



Unite d'Habitation


内部は、どこにカメラを向けても美しく、ほれぼれするほど無駄がない。


Unite d'Habitation


宿泊したお部屋もそうだけれど、きわめてシンプルなのに遊びがあって、

なにがいちばんすごいかって、とにかく信じられないほど落ち着く空間。

これはもしかしてモデュロールと呼ばれるコルビュジュエ先生独自の寸法基準のせい?


Modulor


これがそのモデュロール。

これ以外にも、建物の外壁などいろんなところにこの人が。

何でも人体と建物の黄金比率から割り出した基準寸法らしい。

ちなみに部屋は広々としていてベッド、ソファ、テーブルのほかに、

憧れのコルビュジエ・チェアが!

最近ではなんだかミーハーなデザイナーズ家具店にも置いてあったり、

悪趣味な成金がブランド名だけで購入したりしているようでありがたみが薄いが、

この元祖デザイナーズ安楽椅子の坐り心地が、人生最高に素晴らしかった。

モデュロールに基づいて設計されているからなのね!

と感動してみたものの、この場合の「基準となる人体」って身長183センチらしい。

わたしより30センチも背が高いのだが・・・

とはいえ、こんなチビッコのわたしでも感じる、説明しがたいリラックス感。

建築に関しては素人の我々にはわからないが、魔法のような計算が働いているのだろな。


なんと!この有名な屋上にも、誰でも入ることができる。

おまけに山と海を一望できて、素晴らしい眺め。

楽しくてしょうがなくて、

興奮しながらずいぶん長いことここにいた貧乏くさい東洋人2人(キシダ&わたし)。

いやー、ショッピングやテーマパークの何百倍も楽しい!!


Unite d'Habitation



日本のコルビュジエ建築である国立西洋美術館は、

屋上はもちろんあちこちに立入禁止の札があってあんまり楽しめないのに。

数十年前に焼け野原になってしまったばかりの東京には、

見るべき建築が少なすぎて、人々が物珍しがりすぎるせい?


ホテルはゴージャスじゃなきゃイヤ!という人や、

モダン建築にまったく興味のない人には、何が良いのかさっぱりかも知れないけれど、

想像しがたい建築体験を味わいたい人にはお薦めします!


Le Corbusier, Hotel Restaurant Marseille La Cite Radieuse, chambre hotel de charme Marseille

(日本語の予約ページは不調の様子)