数年前、80代後半の男性が転院してこられました。
白髪でがっしりした、物腰の丁寧な患者様でした。
もともと高齢な上、体力が低下してとても厳しい状態でしたが、意識はしっかりしておられました。
初めてお会いして、個室でご挨拶と診察をしていたときに、不意にSLの汽笛の哀愁を誘う大きな音が病室に飛び込んできました。
私は、びっくりしたでしょう、直ぐ脇が線路なのですよ、夏休みにはSLが走っているんですよ
そう説明しました。
その後顔を上げて患者様の顔をみると、何と大声でむせび泣いておられました。
あまりに突然で、私はしばらく何が起こったかわかりませんでした。
お気に障ることでもありましたか、と問いかけると、患者様からこんな言葉がありました。
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自分の寿命がもうないことはわかっている。
多分この部屋で死ぬんだろう、さっきからずうっとそう考えていた。
そんなときに、SLの汽笛が聞こえた。
SLが自分の直ぐそばを走っているのを感じた。
自分は国鉄社員で、SLの運転手だった。今でも誇りに思っている。
最後にまたSLに遭うことができて、もう思い残すことはない。
この病院に入院できて、この部屋からSLを感じることができて、本当に良かった。
ありがとう。
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私は何も言うことができませんでした。
このときの患者様のとても深い、そして泣いているのに明るい表情が、とても印象的でした。
治療の甲斐無く数週間でこの方はお亡くなりになってしまったのですが、それまで時刻表でSLが通る時間を調べて楽しそうに待っていたところを何度もお見かけしました。
また、現役時代のご自身とSLの写真を壁に飾られておりました。
ご家族の方も、本当に良かったとおっしゃっておりました。
私は何も力になれなかったのですが、今でもSLの汽笛を聞くと、この患者様のことを思い出します。
SLって、本当にすごい、って思います。
汽笛って、魂まで揺さぶるんですね。
以上SLシリーズはこれで終了です。乱文失礼しました。