他国の王退位を気にする昭和天皇 | 歴史ニュース総合案内

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 昭和天皇が1960年11月18日に他国の王が退位する国際情勢を気にしていた時の御進講資料がこのほど発見された。中央公論1月号で発見した青山学院大学の小宮京教授(『知られざる占領下日本』ほか)が解説している。

 憲法学者の佐藤功がこの日に御進講。天皇がエジプトのファルーク1世がナセルの革命で王座を追われたことへの感想を聞くと、日本国憲法に関わった佐藤はファルーク1世を「世界最悪の国王」と返答し、「外国の軍隊の力と結びついてその地位を保全」していたムハンマド・アリーに始まる「トルコ系」王朝を指弾した。その後、佐藤は「国民の幸福を思う王朝なら続くだろう」と忖度した。

 第二次大戦中に国内に留まったのを指弾されて1951年に退位したベルギーのレオポルド3世の経緯についても昭和天皇は質問。「国民とともにドイツの占領下にあって苦しみを共に」したのにベルギー人が反感を持ったのは何故かとの御下問に対し、佐藤は「国民は占領下で苦しんだ。対して国王は/ヒトラーの保ゴを受けて楽をした」との異論を示した。

 

 その他ではスウェーデンの憲法改正論議についても話題に。今上天皇が生まれた年にスウェーデンではグスタフ6世アドルフ以降の跡継ぎ不足に悩むベルナドッテ王室の存続を巡り、女王制度の導入が検討されていたが、皇室典範の論議を想起させる。その後、スウェーデンでは女性にも王位継承資格が認められたが、カール16世グスタフが1973年に王位を継承してから国王は代わっていない。

 

 敗戦責任から退位を検討するも吉田茂らの諫言で取りやめた昭和天皇だが、他国の王が退位することへの関心は保ち続けていたことがわかる。