高度経済成長へのX | 歴史ニュース総合案内

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 NHKで2000年代に人気を博した「プロジェクトX――挑戦者たち」が、4月から新シリーズとして復活する。戦後復興や高度経済成長期に特化するのでなく、平成時代から発展した各種事業を紹介していく。

 中島みゆきが作詞作曲した主題歌「地上の星」がなお親しまれる前身番組は2000年から5年間放送。敗戦後の焦土から世界1位の経済成長をもたらした日本人の努力を田口トモロヲのナレーションで謳い上げる番組は郷愁を煽って高い視聴率を取った。だが、負の面を取り上げても、ひたすら勤勉の精神で乗り越える構成術は次第に飽きられていき、狭い時代のネタにも事欠き、偉業を盛り上げるために大阪の淀川工業高校合唱部回などで改革前を過度に悪く描くなどの演出が発覚し、人気番組としては恵まれぬ打ち切りとなった。オンデマンド配信にも対応していない。

 

 太平洋戦争の開戦から80年以上が過ぎ、同戦争の記憶が生存者の大勢いる歴史で無くなって久しい。しかし、高度経済成長期に形成された1億総中流などの価値観は、どこまで実情を投影しているかは兎も角、メインカルチャーからサブカルまで各種の社会認識に影響を与え続けており、イデオロギー上の見解差も小さい。安倍晋三のアベノミクスや岸田文雄の「新自由主義でない新しい資本主義」の発想は、高度経済成長期の社会環境を人為的にでも再現すれば、必ず経済は輝きを取り戻すとの観念に貫かれている。

 バブル経済決壊後、つい最近まで東証最高値を更新できなかった株価の中でも奮闘して大発展した企業その他の営みを新番組は映していくのだろう。しかし、高度経済成長は冷戦など当時の時代環境を背景にして成立したのであり、アジア諸国がかなりの経済発展を遂げる中で人為的に当時の環境を再現しようとしても、決してかなわぬ絵空事である。