飯山陽のイスラム偏見術 | 歴史ニュース総合案内

歴史ニュース総合案内

発掘も歴史政治も歴史作品も

 イスラエル軍とパレスチナのハマスの間の非対称な武力衝突は、日本の論壇でも意外な注目を集めている。特にイスラム側の研究者の飯山陽(あかり)は既存書が注目されて、極右雑誌で引っ張りだこだ。

 飯山の『中東問題再考』などの書物は一見して中立的な立ち位置にみえる。だが、その内容はクルアーン(コーラン)を頑なに信じているというムスリムを平和の敵として描写する欧州で盛んなイスラム脅威論の典型に他ならず、最新刊ではタイトルの段階で脅威論なのを剥き出しにした。

 クルアーンの教えを順守するのがムスリムだが、クルアーンには敵を殺す条項があるので、イスラムとムスリムは世界平和の脅威とするのがイスラム脅威論の基本である。飯山が説くようにそうした条文は確かに存在するが、この論理ならキリスト教も仏教も神道もどの宗教も世界平和の脅威に仕立て上げられるというロジックに気づけば、飯山の煽る脅威の正体が明らかになる。

 

 西洋諸国もそうだが、イスラムの研究者たち(山某や臼某や内某など多くは左右の報道機関にまたがって登場)はムスリムが内包する政教一致の望みに対して批判を差し控える傾向にある。こうした「リベラル派」研究者の傾向に対して、池内恵(高名なドイツ文学者の息子)は長く違和感を表明し、保守派の言論人となった。だが、飯山が最も敵視するのはこの池内なのだ。フォーサイト等で対談する仲だったのに内ゲバしている。

 極右雑誌のWillは今回の戦争でイスラエル軍の行動を熱烈美化する記事を乱発し、飯山もたびたび登場。一方、マルコポーロ廃刊事件を起こしてユダヤ団体の恐ろしさを思い知らされた花田紀凱のHanadaは、パレスチナ寄りの記事も載せるが、ここにも飯山は連載している。しかし、イスラム関係のことは思想界では些事である。

 

 飯山が描くような世界征服に燃えるムスリムというのは確かに実在する。しかし、そんな急進主義で道徳にうるさい彼らの思想上の立ち位置は、WillやHanadaが日本社会で確立しているような場所なので、つまり保守派同士なのに激しい争いを起こしている。東南アジアや中央アジアのイスラム諸国は中国などの「特定アジア」に立ち向かう際、味方につけなければならない国なので、外交戦略でこのようなイスラム脅威論は到底受け容れられまい。

 

 

 現場では多数の死者が出ている。朝日新聞がハマス寄りだからというような理由でイスラエルに味方すべきという論理で済むような事態ではない。