大佛次郎論壇賞『戦争とデータ』 | 歴史ニュース総合案内

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 戦争被害が数値化されていく歴史を追う『戦争とデータ――死者はいかに数値となったか』(中公選書)に、朝日系の大佛次郎論壇賞が贈られた。戦死者を数で表すのは、冷淡さからではない。

 米国のアフガニスタン戦争などで発表先ごとに戦死者の数が異なりすぎることからデータに関心を抱き始めた関西大学の五十嵐元道教授(39)が執筆。ゲリラ戦が主となるベトナム戦争からウクライナ戦争まで、文民の死者数に焦点を合わせて分析する。1人殺せば殺人者でも、1万人殺せばただの数値というのは戦時の感覚だが、この数値にもきちんと意義があることを明らかにしていく。

 

 志願制を原則とした西洋では近代に至るまで上級将校しか戦死者には記録されず、一般兵は捨て置かれていた。しかし、国民国家が整備され徴兵制が広まると遺族に知らせるために、国家は一般兵の死者数も記録するようになった。近世まで合法とされていた民間人への掠奪行為も禁じられるようになった。

 戦死者を粗末にしないよう定める国際規範が1906年に制定された。第二次大戦後の1949年には非戦闘民の保護を求めるジュネーブ第4条約も締結された。しかし、朝鮮戦争などの現場で保護要請は空文化してしまった。ベトナム戦争での米軍は戦果を誇るために、文民をベトコンだったことにして部隊対抗で殺戮数(ボディ・カウント)を競いあっていた。

 その後も世界各地の内乱で民間人が巻き添えになった。今なお国家崩壊した紛争地では、赤十字などの国際NGOが死者数の現場調査を行っている。