金沢に移転した国立工芸館 | 歴史ニュース総合案内

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 東京国立近代美術館の工芸館が金沢市に移転し、国立工芸館として10月25日に開館した。国立美術館の工芸部門は以降、金沢を中心に活動する。

 国立工芸館は旧第九師団司令部庁舎と旧金沢偕行社を移築転用し、石川県立美術館いしかわ赤レンガミュージアム(県立歴史博物館および加賀本多博物館)を両隣にして開館。道を隔てた金沢21世紀美術館などと同レベルの展示を目指す。

 司令部庁舎を転用した1階の展示室では初心者向けに作品名で使われる工芸用語などを解説。2階では金沢に生まれた「漆聖」松田権六(1896~1986)の工房を移築復元し、中心人物とした。若手の仕事を紹介する「芽の部屋」などを含めると、展示空間の面積は東京からの移転前より広くなった。近現代の工芸品約3800点を所蔵している。

 2021年1月11日までの開館記念展「工の芸術――素材・わざ・風土」では130点余りを紹介。看板の鈴木長吉「十二の鷹」は所蔵品で唯一の重要文化財だ。長々と漢字を並べる日本式の工芸品の名前の付け方を「因数分解」して解説してもいる。

 館長は国立近代美術館の工芸課長から昇進した唐澤昌宏だが、名誉館長にはサッカースターから伝統文化「にほんもの」の宣伝家になった中田英寿を抜擢。当面は日時予約制だが、やがては県立美術館よりも多くの来館者を集めようとしている。

 

 国の工芸機能が兼六園の周囲に密集するミュージアム群の一つに集約された訳だが、交通の便からみると北陸以外からは国立工芸の舞台は遠くなった。金沢漆器や九谷焼、輪島塗などがあっても石川県は第一の工芸産地といえるのかは不確かだ。山代温泉を愛した北大路魯山人や奈良県生まれの富本憲吉らを石川県ゆかりの人物にしているが、国立である限り郷土自慢をしていれば済む話ではない。国立省庁の地方移転とはそのような不便を抱えて進むものだが。