『 リリア 4-ever 』 | 中年男は電気羊の夢を見るか?

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背景の全てが、まるで救われない設定で、


観終わった後、気分が沈む作品。


スウェーデン映画で、物語の舞台は


スウェーデンと東欧あたりの某国(旧ソ連?)。


貧困と、劣悪な地域環境、少年非行から性犯罪、


この作品の中にあるのは負の要素ばかり。


しかし、この映画の様な話は実際にあるらしく、


それが故に本作は、


当時のスウェーデン国内の映画賞で絶賛され、


海外の評論家からも高評価を得ていたのに、


内容の問題性から劇場公開を敬遠され、


国外でも興行的成功を得られなかったという


いわくがあるようです。


当然、当時の日本でも劇場未公開。


2010年代に入ってようやく、


「トーキョーノーザンライツフェスティバル

             ~北欧映画の1週間~」


というイベントの中で上映される運びとなりました。



ちなみに私は、映画チャンネルの


シネフィル・イマジカで、少し前に放送され、


録画したきりになっていたものを、


今になってようやく観ました。





**:;;;:**:;;;:*以下 ネタバレあり*:;;;:**:;;;:**






ヒロインは16歳にして親に捨てられ、


親戚や友人に裏切られた挙句、


悪意ある大人に略取されて国外に連れ出され、


そこでいよいよ人生に絶望して死を選ぶ。



どこにも救いがないストーリー。



でも、


この映画はそれで終わりにしていないところに、


いい知れないセンスを感じさせます。


この話、どこをどう観てもバッドエンディングなのに、


そのラストにおけるヒロインの死を、


まるでハッピーエンドのごとく描いているのです。




映画の最後は、


ヒロインが死して天使となり、


先に自殺した年下の友達と共に


呪縛から解き放たれて自由を満喫する


というシーンで締めくくられます。




これは、悲観して自殺したヒロインが、


死ぬ事で "救い" を得た、という事を


現わしている様に見てとれました。



そして、


そのラストシーンによって救われるのは


ヒロインだけではありません。


それまで、彼女の暗く悲惨なストーリーを


目の当たりにしてきた観客も同様に、


僅かながら救われた心地を得られるのです。




死が救いとなる。



それ程、この作品のテーマである


性的搾取の実態は酷なものだ、


と言うメッセージなのでしょう。


それ以外にも、作中に問題提起はありました。


親による虐待や保護義務の放棄です。


そもそも、それが無ければヒロインは


性犯罪の犠牲になる事は無かったのです。




映画とは、観る者に少なからず考えさせます。


そして優れた作品は、話の起承転結の結に、


露骨に答えを現わしたりせず、


最後まで観終えた観客に解釈を委ねます。


この暗く悲しい映画も、そんな一本です。





ヒロインは16歳の少女。


常にポーカーフェイスで、自ら生きる為に


売春行為を選択したり、周囲に強がって


生意気な態度を見せる様な可愛げのない少女。


冒頭で、母親に捨てられて涙をみせる以外、


クラスメイトの悪童達にレイプされたり、


監禁状態になり、売春を強要されても


ヒッステリックに泣き叫んだりしない


どこか小癪な少女です。


でも、実はとても繊細な普通の少女である事に


気付かされます。


不幸に支配された日々の中で、


時折、垣間見られる彼女の無邪気な笑顔が


とても印象的で愛らしく、いつの間にか


感情移入させてしまう様な不思議な魅力が


話の残酷さを一層盛り上げ、


観る者の同情を誘います。




この、絶望の淵に立たされるヒロインを


演じているのは、オクサナ・アキンシナ。


日本でのメジャー・タイトルとしては


『ボーン・スプレマシー』のチョイ役で


出演されてます。


特に美形な顔立ちではなく、


本作中での存在感も実に素人くさいというか、


仕込まれた演技をしている様には見えません。


ですが、それがどこかドキュメンタリーの様な


生々しい効果を逆に醸し出しています。



この作品、演出も実に手際が良く、


一見とりとめなく撮っている様で、


実は巧みに計算されているのが伺えます。


特に優れていたのは、


売春による性行為の醜さを実に端的に、


そしてより効果的に描いているところ。


本作では露骨なベッドシーンなど一切なく、


当然、ヒロインも脱ぎません。


ですが、


カメラをヒロインの視点として、


ヒロインに覆いかぶさって来る男達を


スクリーンに次々と矢継ぎ早に映し出す事で、


ヒロインが長期に渡り、売春行為を


強制されていた事を見せつけています。


しかも、画面に出て来る男達がみな、


ある程度の富裕層を感じさせる、


醜く不細工な顔立ちの男達である事で、


売春がどれほど醜悪な行為か


と言う事を見事に表現している。


感性の強い人であれば、このシーンを観て


リアルに吐き気も覚えるかもしれない程に


効果的な作りだと感じました。



本作には、昨今の邦画やハリウッド映画には


感じられなくなってきた古き良き映画らしさ、


というか実にパワフルな映画的スピリットが


つめ込まれている気がします。


未成年の少女が実際に被害に遭った事件を


モチーフにしているらしく、


現実とフィクションが巧みに融合して


見事に説得力を得ていると感じられました。





普通、映画やドラマは、


主人公や登場人物に感情移入して


感動を得るものですが、


私にとってこの映画は違いました。


途中から、なるべくヒロインに感情を移入しない様に、


意識的に斜に構えてこの映画を観ている自分に


気付いたのです。


何故なら、ヒロインがあまりにも可哀相すぎるから。


不幸な少女の姿を見せつけて、最後に予定調和で


涙を誘おうったって、そんな魂胆には乗るまいぞ、


と片意地を張っていたのもあります。



ですが……、




予測を裏切るストレートすぎる展開に気圧され、




そして、




ラストのヒロインの笑顔に、




隣人が落としたジャガイモを親切に拾うヒロインの姿に、




気が付いたら涙をこぼしていました。










追記


本作のソフトをググってみたら、アマゾンでも国産品の流通が

見当たらなかったので、未だ商品化されていない模様。


映画文化を劣化させない為にも、

というか、邦画の質を貶めない為の手本として、
このような作品こそ、優先的にソフト化するべき
と思うのですが……