海外生活と薬 | 日本史の謎の空白を解明する、

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「海外生活と薬」


途上国で邦人が罹りやすい熱帯病・寄生虫病とその薬 途上国では気候や衛生状態の問題から様々な感染症が流行しており、日本人が滞在中に罹患する例も数多くみられます。途上国の感染症には日本では稀な病気が多く、国内の医療関係者でさえも、治療法や薬剤の入手などについての知識が乏しいのが現状です。そこで本項では途上国で日本人が罹りやすい感染症の治療薬について解説します。

■感染症の治療薬
 感染症とは病原体がヒトの体内に侵入しておこる病気の総称で、病原体にはウイルス、細菌、寄生虫などがあります。症状は発熱や下痢など比較的共通しており、その症状を緩和させる解熱剤や止痢剤などの対症薬は各種感染症に共通して使用されます。一方、病原体そのものに効果がある根治薬は、各種の病原体で大きく異なっています(表1)。そこで本項で述べる感染症の治療薬とは、病原体に効果がある根治薬を指すこととします。
 ウイルスは一般に治療薬(抗ウイルス薬)が少なく、ワクチン接種による予防や対症療法に重点がおかれています。それでも最近は、いくつかの抗ウイルス薬が開発されており、ヘルペスウイルスに効果のあるアシクロビル(Aciclovir)や、AIDSウイルスに使用されるジドブジン(Zidovudine)などが日本国内でも市販されるようになりました。またインフルエンザウイルスの一部には、アマンタジン(Amantadine)と呼ばれるパーキンソン病治療薬の有効性が証明されており、本年から日本でも使用可能となりました。
 細菌に関しては多くの治療薬(抗菌薬)が開発され市販されています。ペニシリン系抗生剤やセフエム系抗生剤、ニューキノロン製剤など、しばしば耳にする薬剤は細菌感染症の治療薬です。これら抗菌薬のおかげで、細菌感染症の多くは治療可能な病気となりました。しかし近年問題となっているのは抗菌薬に耐性の細菌が増加している点です。すなわち細菌側からすれば、簡単に抗菌薬に殺されてはたまらないので、薬剤を分解する機能を備えるなど様々な変化がおきます。病院で高齢者などに肺炎や敗血症をおこす黄色ブドウ球菌はその代表と言えるでしょう。
 寄生虫についても治療薬(抗寄生虫薬)は数多くありますが、日本国内で寄生虫疾患が激減していることから、国内ではあまり流通していないのが現状です。特にマラリアの治療薬であるクロロキン(Chloroquine)やメフロキン(Mefloquine)は、日本国内では市販されていません。このように日本で未発売の抗寄生虫薬については、厚生省の外郭団体が薬剤を保管しており、医師の指示に応じて供与されるシステムとなっています。

■途上国で罹りやすい感染症とその治療薬
(1)呼吸器感染症
 上気道炎などの呼吸器感染症は、途上国で日本人が最も罹りやすい病気です。高温のために冷房を過剰に使用したり、大気汚染で気道が傷害されることなどが原因となります。ウイルスが病原体となることが多く、安静にして対症療法を行うのが唯一の治療法です。細菌による呼吸器感染症では、肺炎をおこし重症化することがありますので、ペニシリン系抗生剤やセフエム系抗生剤など抗菌薬の投与を行います。

(2)経口感染症

 感染性腸炎やA型肝炎など飲食物からかかる経口感染症も日本人が罹りやすい病気です。

 感染性腸炎とは下痢を主症状とする疾患の総称で、細菌とりわけ病原性大腸菌(毒素原性大腸菌)が原因となることが多いようです。通常は数日の経過で軽快しますが、赤痢菌、コレラ菌などにより重篤な症状となる例もみられます。治療の基本は胃腸を安静に保つことと水分の補給ですが、ニューキノロン製剤などの抗菌薬が有効です。

 寄生虫が原因となる腸炎は慢性の経過をたどります。検便で偶然発見されることが多く、我々が途上国在留日本人を対象に実施した調査でも、検便を受けた日本人の2―3%から寄生虫が検出されました

1)。感染者には症状がなくても、メトロニダゾール(Metoronidazole)、パモ酸ピランテル(Pyrantel pamoate)、メベンダゾール(Mebendazole)など抗寄生虫薬による治療を行うのが原則です。

 A型肝炎はウイルスが病原体であり、治療法は安静しかありません。通常は1カ月前後の経過で軽快し、慢性化することは稀です。

(3)蚊に媒介される感染症

 デング熱やマラリアなど蚊に媒介される感染症も日本人にしばしばみられます。  デング熱は発熱や発疹を主症状とするウイルス疾患です。有効な治療薬はありませんが、通常は約1週間前後の経過で軽快します。

 マラリアは寄生虫による熱性疾患で、治療が遅れると腎障害や意識障害を併発し死に至ることがあります。熱帯地域に広く流行していますが、特に赤道アフリカでは感染するリスクが高くなります)。治療薬にはクロロキンが使用されていましたが、最近はクロロキン耐性マラリアが増加しており、ファンシダール(Fanshidar)やメフロキンを使用することが多くなりました。日本国内ではファンシダールのみが市販されています。なお一部のマラリアでは、再発予防のため解熱後にプリマキン(Primaquine)の投与を行います。しかし本剤も日本国内では市販されていません。

(4)性行為感染症

 淋病、梅毒、B型肝炎など性行為感染症も途上国滞在者が注意を要する疾患です。

 淋病は細菌(淋菌)による尿道炎で、クラミジアも本症と類似の尿道炎をおこします。淋菌にはペニシリン系抗生剤が有効ですが、近年はペニシリン耐性菌も増加しています。クラミジアにはテトラサイクリン系抗生剤が有効です。梅毒も細菌感染症でペニシリン系抗生剤が著効しますが、長期間の投与を必要とします。

 B型肝炎はウイルス疾患であり有効な治療薬はありません。しかし性行為で感染した場合は、慢性化する例は少ないようです。

(5)使用人からかかる感染症

 途上国では家事のために現地人を雇う機会が多くなります。このような使用人を感染源として、飛沫感染する結核や経口感染する赤痢アメーバ症、蟯虫症などが家族内に蔓延することがあります。

 結核菌は細菌に属しますが一般の抗菌薬は無効で、イソニアジド(Isoniazid)やリファンピシン(Rifampicin)など抗結核薬と呼ばれる特殊な薬剤を使用します。投与期間は数カ月に及ぶことが多く、また抗結核薬に耐性の菌も出現しており、治療を困難にしています。

 蟯虫症は寄生虫疾患であり、パモ酸ピランテルが著効します。小児は肛門周囲のカユミを訴えますが、大人は無症状であることが多いようです。家族内に蟯虫症の患者が発生したら、患者本人だけでなく家族全員の治療を行うことが必要です。


■海外で感染症に罹患した際の対応

(1)基本的考え方

 感染症の診断ならびに治療は、医師であっても難渋することが少なくありません。このため感染症の治療は素人療法を避けて、可能な限り医師の指示に従うことが原則です。海外では医師の技術レベルを心配する声も多いようですが、こと感染症に関する限り途上国の医師の技術は、一般に安心できるレベルです。

 抗菌薬などを常備薬として日本から携行し、感染症を疑う症状があれば自己判断で服用しようとお考えの方も多いことかと思います。しかし感染症のための常備薬は、発熱や下痢など症状を緩和させる対症薬に限定すべきです。対症薬でも症状が改善しない場合は、現地の医療機関を受診し、医師の診察を受けてから治療薬を購入することをお奨めします。購入するにあたっては、信頼できる薬局で欧米の製薬会社の薬剤(ブランド品)を選ぶようにしましょう。また購入した薬剤には使用上の注意などの文書が添付されていることを確認してください。処方箋なしで抗菌薬や抗寄生虫薬を薬局から直接購入できる国も数多く存在しますが、適当な治療薬の選択は医師の判断に任せるべきです。以下に、感染症に特徴的な症状である発熱と下痢への対応を解説します。

(2)発熱への対応

 発熱の原因として、途上国でも上気道炎などの呼吸器感染症は最も頻度が高い病気です。咽喉の痛みや咳などの症状があればその可能性は高いでしょう。解熱剤や総合感冒薬などを服用し経過をみていれば、通常は2-3日で改善します。改善がみられなければ、医療機関を受診して抗菌薬などを医師から処方してもらいましょう。

 発熱に下痢を伴う場合は、次に述べる感染性腸炎の可能性があります。感染性腸炎のうちでも腸チフスやパラチフスは、下痢がなく発熱が唯一の症状であることも少なくありません。本症は抗菌薬を服用しなければ根治しませんが、解熱剤などで数日経過をみても、命にかかわる事態にはなりません。

 赤道アフリカなどマラリアの高度流行地域(図1)では、発熱したらマラリアをまず疑うべきです。通常は上気道炎の症状なしに、39度以上の高熱がみられます。マラリアは治療が遅れると致命的となるため、少しでも本症を疑う状態であれば、速やかに医療機関を受診してください。なおマラリアの潜伏期間は2週間以上ですので、発熱が流行地域に滞在して2週間以内にみられた場合、マラリアの可能性は低いでしょう。

 東南アジアや中南米では、蚊の多い雨期に発熱したらデング熱を疑います。ウイルス疾患であるため解熱剤などを服用して経過をみます。ただしアスピリン(Aspirin)を使用すると出血症状を呈し重篤となることがあります。本症が疑われる際は早目に医療機関を受診し、医師から解熱剤などの処方を受けることをお奨めします。

 A型肝炎やB型肝炎などのウイルス性肝炎も、発熱が初発症状となります。対症療法で経過を数日みても致命的となることはありませんが、肝炎に特徴的な黄疸がみられた場合は、直ちに医療機関を受診してください。

(3)下痢への対応

 途上国滞在中に下痢をしたら感染性腸炎をまず疑います。発熱や血便など随伴症状も病原体により様々です。

 細菌による腸炎は急性の下痢をおこすことが多く、抗菌薬を服用することで速やかに改善します。しかし、水分補給し食事を軽くするなどの対症療法で経過を数日みてください。水分補給には塩分を少量含む水が望ましく、途上国の薬局ではこのような塩分の粉末(Oral rehydration salt)を販売しています。日本からポカリスエットなどの粉末を持参するのもよいでしょう。下痢の激しい場合は止痢剤を服用しても構いませんが、ロペラミド(Loperamide)など強力な止痢剤を安易に服用すると病状が悪化することもあります。対症療法で2-3日経過をみても改善しなければ、医療機関を受診しましょう。

 寄生虫による腸炎は、慢性的に下痢を繰り返します。疑われる症状があれば、医療機関を受診して検査、治療を受けることをお奨めします。

(4)最寄りに医療機関がない場合の対応

 途上国でも都市から遠く離れた地域では、感染症に罹るリスクが増加するとともに、最寄りに適当な医療機関を見つけることも困難です。このような地域に滞在する場合に限り、例外的に治療薬を自己判断で服用することを考慮しなければなりません。ただし薬剤を服用しても症状の改善がみられなければ、迅速に都市部まで移動し医療機関を受診してください。また発疹などの副作用がみられたら、直ちに薬剤の服用を中止することも必要です。

 抗菌薬としては、テトラサイクリン系抗生物質のミノサイクリン(Minocycline)が広範囲の細菌感染に効果があり、副作用も比較的少ない薬剤で推奨されます。高度の発熱や激しい下痢などがみられたら、本剤を3-4日間服用します。小児には使用できないため、セフエム系抗生物質のセファクロル(Cefaclor)などを用います。

 マラリアの高度流行地域では、メフロキンやファンシダールなどの治療薬を準備し、高熱がみられたら抗菌薬に優先して服用します。マラリアの感染であれば1回の服用で2-3日以内に解熱がみられます。