パンデミック(英語: pandemic、世界流行[1])とは、ある感染症(特に伝染病)が、顕著な感染や死亡被害が著しい事態を想定した世界的な感染の流行を表す用語である[2][3][4]
。ただし英語のpandemicの意味は、「流行」という現象と「流行病」という病気との双方である[5]
。
1918年、カリフォルニア州オークランドでのスペインかぜの流行=オークランド公立図書館
ヒト(あるいは他の生物)の感染症は、その原因となる病原体を含むもの(感染源)と接触し、感染することによって発生する。多くのヒトが集団で生活する社会では、同じ地域や同じ時期に多くの人が同時にその感染源(水源や飲食物など)と接触することで、同じ感染症が集団発生することがある。それまでその地域で発生が見られなかった、あるいは低い頻度で発生していた感染症があるとき急に集団で発生した場合、これを特にアウトブレイクと呼ぶ。
ヒトからヒトにうつる伝染病の場合、最初に感染した患者が感染源となって別のヒトに伝染するため、しばしば規模が大きく、長期にわたる集団発生が起きる場合がある。このようなものを特に
流行と呼ぶ。流行は、その規模に応じて(1)
エンデミック、(2)エピデミック、(3)パンデミックに分類される[7][8]
。このうち最も規模が大きいものがパンデミックである。
エンデミック(地域流行)
地域的に狭い範囲に限定され、患者数も比較的少なく、拡大のスピードも比較的遅い状態。この段階ではまだ、いわゆる「流行」とは見なされないこともあり、風土病もエンデミックの一種に当たる。
エピデミック(流行)
感染範囲や患者数の規模が拡大(アウトブレイク)したもの。比較的広い(国内から数か国を含む)一定の範囲で、多くの患者が発生する。
パンデミック(汎発流行)
さらに流行の規模が大きくなり、複数の国や地域にわたって(=世界的、汎発的に)、さらに多くの患者が発生するもの。
2014年現在までヒトの世界でパンデミックを起こした感染症には、天然痘[9]
、インフルエンザ、AIDSなどのウイルス
感染症、ペスト、梅毒、コレラ、結核、発疹チフスなどの細菌感染症、原虫感染症であるマラリアなど、さまざまな病原体によるものが存在する。AIDS、結核、マラリア、コレラなど複数の感染症については世界的な流行が見られるパンデミックの状態にあり、毎年見られる季節性インフルエンザ(A/ソ連、A/香港、B型)の流行も、パンデミックの一種と言える。
ただし、これらの感染症の中でも特に新興感染症あるいは再興感染症が集団発生するケースでは、しばしば流行規模が大きく重篤度(死亡率など)が高くなるものが見られるため、医学的に重要視されている。これらの新興(再興)感染症によるパンデミックはしばしば一般社会からも大きく注目されるため、一般に「パンデミック」と呼ぶ場合、これらのケースを指すことも多い。このような歴史的なパンデミックの例としては、14世紀にヨーロッパで流行した黒死病(
ペスト)、19世紀から20世紀にかけて地域を変えながら7回の大流行を起こしたコレラ、1918年から1919年にかけて全世界で2500万人(4000万人から5000万人という説もあり)が死亡した
スペインかぜ(インフルエンザ)がある。一方、パンデミック宣言がなされたものの実際の被害が小さかったものとして、21世紀に入ってから発生した
新型インフルエンザ
が挙げられる(詳細は#WHOのパンデミック誤警告問題を参照)。また、1997年からの高病原性トリインフルエンザ
や2002年のSARSについてはパンデミックには至らなかったものの、その一歩手前の状態になった。
詳細は「感染症の歴史」を参照
2014年現在の世界は、航空機などの輸送機関の発達によりパンデミックが起こりやすい状況になっているため、検疫を行うなど感染症の流入を防ぐ対策がとられている。
東南アジア諸国で発生している高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1型によるトリインフルエンザにより、2014年現在でもパンデミックが起こる恐れがあり、
世界保健機関(WHO)が途上国を中心に対策を立てている。日本では、
厚生労働省を中心に地方自治体が対策をとっているが、患者が急増した際の医療機関の混乱や、交通機関のまひ、食料の供給不足などを懸念する専門家の指摘もある。
警戒区分と対策
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(2009年5月)
フェイズの判断に関係したWHO地域区分(アメリカ、欧州、アフリカ、中東、東南アジア、西太平洋)
パンデミックは人類にとって共通の、世界的な脅威である。WHOはパンデミックへの取り組みとして、警戒すべき感染症の感染力や流行の状況に応じて、警戒区分を作成しいくつかのフェイズ(phase、段階、期の意)に分類している。その分類に応じてWHO、各国政府、自治体、産業は行動計画をそれぞれ作成することによって、パンデミックへの対策を行う。この警戒区分は、対象となる感染症の原因となる病原体の病原性の強さや、流行の程度を考慮して総合的にWHOが判断して警戒を呼びかけるものである。パンデミックの有無と警戒区分は1:1に対応するものではない点に注意が必要である。
警戒区分の例 [編集]
インフルエンザ [編集]
WHOでは、パンデミック・インフルエンザの各フェイズを以下のように切り分けて公衆衛生学的な対策を行う。
前パンデミック期:フェイズ 1-2
パンデミック・アラート期:フェイズ 3-4-5
パンデミック期:フェイズ 6
インフルエンザ・パンデミックに関する外部リンク
Current WHO phase of pandemic alert
Levels of pandemic alert WHO
Federal Response Stages U.S. Department of Health & Human Services
WHOのパンデミック誤警告問題
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世界保健機関(WHO)は「今、すべての人類が脅威にさらされている」として新型インフルエンザH1N1亜型をすべての人類の脅威として警告を行った。その後、新型インフルエンザが弱毒性である事が発覚するも、顕著な感染や死亡の被害が著しい事態を想定した警告であるフェーズレベル6/6と警告し、パンデミック(世界的大流行)の宣言をした(このWHOのパンデミック警告の経緯については
2009年新型インフルエンザの世界的流行#発生確認と初期対応を参照のこと)。しかし「すべての人類の脅威」とまで宣言された新型インフルエンザは、他の季節性インフルエンザと大差ないレベルのインフルエンザで被害も小さなものであった。一連のWHOの誤報を重く見た欧州議会は、パンデミック宣言に至った経緯の調査に踏み出す事態となった。
欧州議会ボーダルク前保健衛生委員長は、WHOのパンデミック宣言は偽のパンデミックであったとし一連のパンデミック宣言を批判した。その原因にはWHOの意思決定に製薬会社の意向が大きく影響しておりその事が今回のパンデミック宣言に繋がったとして、WHOの意思決定システムを問題視している。一方、世界最大規模の製薬会社である
グラクソ・スミスクライン
社(英国)は、製薬会社がWHOのパンデミック宣言に影響を与えているなどの認識は誤りであるとインタビューで反論している。
2010年1月になるとワクチンが世界的に余剰状態となり、キャンセルや転売が相次ぐ事態となっている。
パンデミックの推移
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H5N1亜型などの致死性が高くパンデミックを起こすとされているインフルエンザを例に、パンデミックの発生から消退までの予想される経過を表で示した。
インフルエンザ・パンデミックの推移
経過 解説
亜型ウイルスの確認
亜型ウイルスの存在が確認されている(例。動物のインフルエンザウイルス)
ヒト感染のリスクは低い、またはヒト感染は報告されていない。
ヒトへの感染の確認 亜型ウイルスの存在が確認されている(例。動物のインフルエンザウイルス)
ヒトへの感染が報告されている
パンデミックの潜在的脅威
限局したヒト-ヒト感染の確認
ヒトからヒトへの感染はきわめて限定されている(家族や身近な接触者等)
小規模の流行 ヒトからヒトへの小規模感染(単独国家内での感染)を認めるだけの証拠が存在する
パンデミックとなる可能性は中~高程度
大規模の流行
ヒトからヒトへの相当数の感染(単一のWHO管区内における複数の国家での感染)を認めるだけの証拠が存在する。
パンデミックへと発展する可能性が高く、早急に大流行への計画的な対策を講じる必要性がある
世界的な大規模流行
グローバルパンデミック(世界流行)の状態。
上記の状態に加え、当初集団発生したWHO管区とは異なる管区で集団発生が確認される。
流行の消退
流行のピークは過ぎたものの、流行再燃の懸念が残る状態。
流行後
パンデミックを起こしたウイルスが通常のインフルエンザウイルスと同等の状況となった状態。しかしパンデミックに対する警戒と備えは維持する必要がある。
パンデミックに発展する恐れのある疾病
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世界保健機関の国際的感染症対策ネットワーク (2009) が警戒する感染症は、
炭疽、
鳥インフルエンザ、
クリミア・コンゴ出血熱、デング熱、
エボラ出血熱、
ヘンドラウイルス感染症、肝炎、
インフルエンザ、
2009年のインフルエンザ
H1N1)、
ラッサ熱、
マールブルグ熱、
髄膜炎症(en:Meningococcal disease)、
ニパウイルス感染症、
ペスト、
リフトバレー熱、
重症急性呼吸器症候群 (SARS)、
天然痘、
野兎病、
黄熱病
の
19疾病である。
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